奥様の名前は『キッド』
そしてダンナ様の名前は『ソウル』
ごく普通の二人(?)はごく普通の恋(?)をし、ごく普通の結婚(?)をしました。
でもただ一つ(?)違っていたのは『奥様は死神』だったのです。





奥様は死神 プロポーズ





「いくら、お義父さんである死神様がOK出してくれたとはいえ、
やっぱりプロポーズは必要だと思うんだ。」

そう力説するのは、ソウルのパートナー、マカだ。
二人で住むアパートで、テーブルを挟んでお互いソファに座り、午後のティータイムを楽しんでいたその時に。
実はソウルはこの点について触れて欲しくなかった。

いくら事故とは言え、キッドを押し倒し、あまつさえその父親である死神様に
『責任を取ってくれるよね』
と笑顔で凄まれて頷いてしまったのはつい先日の事。
キッドは確かに面白い性格をしていて、可愛い仕草もする。
それに決して嫌いではない。
だがしかし。彼はれっきとした男で、自分も男。
つまりは同性同士なのだ。

「マカ…俺な、多分見て分かるとおり、結婚するならやっぱり女がいいんだけど」
「愛に性別なんか関係ないでしょ!問題はプロポーズであって…」
「いや冷静になれ。クールに考えろ。
相手はあのキッドだぞ。死神様の息子で、男!ここ重要!」

俺は女が好きなんだ、と続けるが、マカにはまったく届かない。

「はいはい。でね、プロポーズにはやっぱりエンゲージリングが必要だと思うんだよねぇ。
でもキッド君てシンメトリー大好きじゃない?だから、左右に二つ要ると思うんだ!」
「全力で無視かよ…」

苦い顔でコーヒーを啜る。
たしかに、今日のコーヒーは少し濃い目に淹れたのだが、それとは別の意味でまた苦い。
マカは某有名結婚情報誌を広げて、まるで自分が結婚するかのように上機嫌だ。

「キッド君は銃器取り扱うとは思えないほど指がほっそりしてて綺麗だから、
結構華奢なデザインでもいけると思うの。
でもね、あんまり細すぎても変形しちゃうかも知れないし…。
当然、プラチナでダイヤモンド付きでしょ、少し太めとなると値段もそれなりに張っちゃうんだよねぇ。」

これなんてどう?とか情報誌にドッグイヤーをつけて楽しそうなマカを見ている分には、
ソウルは大いに歓迎だ。
ただし、先日婚約パーティーまで済ませておきながら、この話題について盛り上がりたくない、と
思ってしまうのは致し方ないことだろうと思う。

ひとつン十万円もする指輪を眺めながら、楽しそうに話すマカ。
普段漢らしい彼女だが、こういった姿を見ると女の子である事を確認する。
本当なら、ソウルもかわいらしい女の子と二人で雑誌でも見ながら将来について語り合いたい。
相手はマカではないだろうけれど、と思うのは真実マカが大切な存在だからであって。
血は繋がってないまでも、家族同然のように過ごす二人にとって、その気持ちはお互い変えようもない事実だ。
だからこうしてマカは楽しそうに雑誌を眺めてはドッグイヤーを繰り返しているし、
そんなマカを見てソウルも幸せに思うのだ。

マカですら"プロポーズは大事"というのだから、必要なものではあるのだろうが。

(あのキッドにか。俺が?!…ありえないだろ…)

コーヒーを啜りながら、どうしても想像がつかない。
キッドに指輪を差し出し求婚する自分の姿など。
たとえ相手がキッドでなくとも、この年齢で"結婚"など考えられるはずもなく。
想像しようと頑張ってみても、一向に頭の中にイメージは浮かんでこなかった。

軽く頭を抱えたくなった頃、来客を告げる呼び鈴の音がした。
はーい、と返事をしてソファからぱたぱたと玄関へ向かうのはマカ。
扉を開けて、来訪者を確認するととてもハシャイだ声が聞こえてきた。
マカがはしゃぐなど相当珍しいこともあるもんだ、と思い考えを巡らせる。
おそらく、このテンションという事は来訪者はキッドご一行だろう。

マカが置いていった結婚情報誌をチラリと見やる。
本を見るだけでテンションが上がっていたのだ。当のご本人が現れたのでなければ
普段の彼女からはあのテンションはありえない。

果たして、マカに連れられてやってきたのはキッド、リズ、パティ。

「よぉ、ソウル。色男がそんな嫌そうな顔するなよ。」
「きゃはは。ソウルくん変な顔ー」

先日の婚約披露パーティーでもそうだったが、
半分魂の抜けた状態だったソウルを散々いじり倒した姉妹は本日も絶好調のようだ。
らしくなく表情に出てしまっていたか、と思いはしたが、気にせずソウルはソファに背を預けた。

「何しに来たんだよ、お前ら…」
「釣れないねぇ。フィアンセを連れてきてやったのに。」

にやにやと笑うリズ。
さっきから一言も発しないキッドはいつもと変わらぬ表情故に、何を考えているのかは読めない。
キッチンから戻ってきたマカは、三人の前にコーヒーを出すと、座ってと促した。

「今日はどうしたの?」

マカもソファに座ると、両手でマグを持ちコーヒーを飲んでいたキッドがチラリ、とマカを見た。
三人がマグを口元に運ぶのにつられて、というわけではないが、ソウルも手持ちのコーヒーを飲む。

「今日は、プロポーズをしに来た。」
「ぶはっ!」

あまりにもタイムリーな話題過ぎて、ソウルは噴き出してしまった。
反射的に誰も居ない方向を向いたことは褒めて欲しい。
マカに拳骨で殴られはしたが、客人に向かって、という粗相だけは回避した。
噴き出したソウルを気にしつつも、キッドはマカに続ける。

「成り行きとは言え、結婚するのであれば、プロポーズは必須イベントなんだろう?
やると決めたのであればきっちりかっちり完璧でなければ。」

ぐっと握りこぶしを作り、やや前のめりに力説するキッド。
キッドの左右に座るトンプソン姉妹が面白そうににやにや笑っているのは気のせいではないだろう。
そして、やけにキッドがキラキラとかわいらしく見えるのは、さっきマカに拳骨で殴られたせいだ、と
ソウルは結論付けた。

「プロポーズって、キッドくんからソウルに?」
「通常は、夫となる側から妻になる側に結婚を申し込むものなんだろう?
ごく稀(?)に逆の場合もあるようだが…。」
「えっと…念のために聞くけど、夫って誰?」

マカの、少々困ったような笑顔と共に発せられた疑問に、キッドはことり、と小首をかしげて
不思議そうにマカを見つめ返した。

「俺だろう?」
「…じゃあ…妻がソウル?」
「違うのか?」

おそらく、この場合の"違うのか"は"他に誰がいるんだ"という意味合いが含められているのだろう。
が。
堪えきれない、とばかりに爆笑するトンプソン姉妹に、呆然とするマカ。
そりゃそうだろう。ソウル自身、自分が"妻"などと呼ばれるなど心外だし、ありえない。

ソウルは、自らが思い描く"妻"の像を自分に当てはめて考えてみた。
…正直、ゾっとした事は認めてもいい。
そもそも、キッドに押し倒されて下から彼を見上げる、という想像など一切できなかった。
その逆ならばアリだな、とほんの少しだけ胸中を過ぎった事は、この際無視だ。
今はこの状況を覆さなければならない。

「…キッド…ちょっと、じっくり話し合おうか。」

ここのところ良く魂が抜けそうになるほどの脱力感を感じるのだが、
今日のはまた格別だ。
ソウルはソファから立ち上がって、自らの部屋にキッドを連れ出す。

「話し合い?…ふむ…。まぁ夫婦には話合いが大事だとも言うしな。良いだろう。」

促されて部屋に入っていくキッドを見送りながら、リズがキッドの背に声を掛けた。

「キッド、結婚するまで肌は許すなよー」

もちろん、からかっての言葉なのに。
訳が分からない、といった顔で振り返り、曖昧に返事をするキッド。

「大丈夫だとは思うけど、ソウル君。キッド君に何かあったら、殺すから。」

邪気のない笑顔に秘められた殺意ほど怖いものはない。
何時になくしっかりとしたパティの言葉に、ソウルは辟易したように頷いた。

(出すわけねーっての。俺に男を抱く趣味はないって…)

その後、キッドとの小一時間の問答の末、
ソウルが夫、キッドが妻という事で決着した。
それと同時に、ソウルがキッドに婚約指輪と一緒にプロポーズすることも決定した。



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婚約披露パーティーは終わってるのにプロポーズってどういうことだww

いや、やっぱり婚約指輪は必要かなって思ったのですよ。
なんなら、例のあの髑髏を模した指輪はソウルからの婚約指輪で良いんじゃない?
みたいなね(*´∀`*)
で、ソウルが薬指に指輪はめようとしたら、怒られるんですよキッドに。
『シンメトリーじゃない!はめるなら中指にせんか!』みたいな!
婚約指輪の常識すら覆す、そんな妄想に激萌!!