奥様の名前は『キッド』
そしてダンナ様の名前は『ソウル』
ごく普通の二人(?)はごく普通の恋(?)をし、ごく普通の結婚(?)をしました。
でもただ一つ(?)違っていたのは『奥様は死神』だったのです。





奥さまは死神 はじまり





なんの因果か、はたまた運命の悪戯か。
前世で何か自分は相当悪いことをしたのではなかろうか、と思うほどにソウルはこの状況に困り果てていた。



その日、偶々図書館に入ってゆくキッドを見かけた。
そういえばマカがキッドに話したいことがある、と言っていたので何の気なしにキッドの後を追った。
もちろん、マカが探していた、と伝えるために。

先に中に入っていったキッドは図書館の司書と何事か話をした後、
探している書籍でもあるのか棚に書かれた分類表を見ながら奥へ奥へと進んでいった。
ソウルもそのあとを追う。
目的の分類を見つけたのだろう。キッドが本棚の間にするりと入り込み、はしごを移動させているのが目に映った。
背の高い書棚の上の方に目的の本があるようだ。
身軽にはしごを上ってゆき、一番上の棚まで到達すると目的の本を手にとって読み始めた。
すぐに降りて来るかと思っていたのに目論見の外れたソウルは、下から声を掛けたのだ。

「キッド!」

これが、良くなかった。
突然声を掛けられるとも思っていなかったのだろう。
本に集中していたこともある。
加えて足場の悪いはしごの上。
アンバランスな体勢で居たためか、声を掛けられ驚いたキッドはそのままゆうに8メートルはある床へと身を躍らせた。
…というか、落ちた。

「あぶねっ…!」

慌てて下で支えようとしたものの、8メートルからの落下はソウルにも相当の衝撃を与えた。
身長もさほど変わらない者同士なのだ。完全に支えきれる訳もなく。
なんとかキッドの頭を床に落とす、という事態だけは避けたが、上から落ちてきたキッドは意識を手放していた。
いつも肌が白いキッドだが、この白さは異常かもしれない。
血の気が引いた白だ。

「おいっ!大丈夫かキッド?!」

慌てて声を掛けながら、とりあえず、ソウルは頭のなかで応急処置をおさらいしながら、キッドの気道を確保した。

「…って別に溺れたわけじゃねーんだから、気道確保は要るのか?!」

疑問に思いつつも、少しでもキッドが楽になる体勢を取らせる。
呼吸がしやすいように、きっちりと着込まれたジャケットやシャツのボタンに手をかけた。

「くそっ!なんだってこんなきっちりした服…」

ブローチも止められ、サスペンダーまできっちりされている。
キッドらしい、と言えばキッドらしいのだが、こういう緊急時には苛立ちも募る。
さらに、今回は完全に自分の声を掛けるタイミングが悪かった。
いっその事、服でもなんでも引きちぎって呼吸を楽にさせようか、とも思ったのだが。

「…何…してんの…?」
「あぁっ?!見りゃわかんだろっ!今忙しいんだよ、声かけん…って……」

地を這うような声に、ソウルとキッド、二人に落ちる影。

「マ…マカ…?!」
「ソウル…いっぺん死ねーーー!!!」

ソウルは通常の三倍の力でマカチョップを喰らった。



「アタシには、気を失ってるキッド君を襲おうとしているようにしか、見えないんだけど。
さて、どう言い訳する気かな?ソウルくん?」

最後には音符マークまでつきそうなほど声が弾んでいるが、その背後に般若の炎を見た気がした。
右手に5cmはあろうかという分厚い本を持ち、
その角をトントンと左手に受け止めながら立つマカは、その笑顔とは正反対にどす黒いオーラを纏っている。

「いや、お前が探してたってキッドに言おうと声を掛けたらキッドが落ちてきて…」

マカの迫力に自然、しどろもどろになるソウル。

「へぇ…?」
「で、何とか受け止めはしたけど、キッドが気を失ってまして…」

自然、言葉遣いが丁寧になっていて、しかも今マカの前に自主的に正座している、
なんて事実は認めたくはないが、致し方ない。
このマカの迫力、死神様だってびっくりするはずだ。

「…んっ……」

この時、漸くキッドの目が覚めた。
これで多少はマカへの弁解を手伝ってくれるだろう、と思ったのだが。
ゆっくりと起き上がり、頭を振って状況を把握しようとしたキッドがふと不思議そうに呟いた。

「…何故俺は脱がされているんだ?」
「キッドくん…覚えてる?なんかソウルが声を掛けたらしいんだけど…」
「ソウルが…?いや、覚えてない…ん…だが…この状況は…?」

仁王立ちのマカに正座のソウル、そして、肌蹴られた自分の姿。

「あの…マカ…?」

怯えるようなキッドの表情に、マカは途端に目尻に涙を浮かべてキッドを抱きしめた。

「怖かったでしょキッドくん!!もう大丈夫だからね!
アタシが守ってあげるから!」
「ちょっっまっ!別に俺は何もっ…!」
「マカ…?!…いや状況がいまいち飲み込めないんだが…あの…俺は…?」
「落ちたってソウルは言ってるけど、どっか痛いトコない?」

やさしいマカの問いに、キッドは一瞬自らの体を確認するように考えたあと、
腰が痛い、と言い出した。

三者三様。
それぞれの思いが交錯する。

ソウルはキッドに声を掛けただけだから、何とかマカの誤解を解きたい。
しかもこのままでは男色家という不名誉な称号まで与えられてしまう。
マカは、ソウルがキッドを襲ったと思っているし、キッドは自分の着衣の乱れとマカの表情から
自分の状況を把握しつつある。間違った方向に。
ましてや腰が痛い、などとのたまってくださっているが、
それは床で腰を打ったためで、断じてソウルが無理を強いた訳ではない。

しかし前後の記憶がないのであれば仕方ない。
あの状況で声を掛けたソウルが悪いのだが…この状況にソウルは頭をかきむしる。

「もーこれはアレだねぇ。
ソウル君には責任とってもらうしかないよねぇ。」

背後から突然声を掛けられて、全員が驚いて振り返った。

「「し…死神さまっ!!」」
「ちちうぇ…っ」

「ソウルくん、責任とって、くれるよね?」

死神様の、肝から冷えそうな程の、ほの昏い声に、キッド以外の誰もが凍りついた。

「蝶よ花よと育ててきたのに、よりにもよってこんな、ねぇ…。」

仮面の下、素顔など知れないが。
声もいつもの調子で軽いものなのに、なぜか。
背からせり上がるのは、今まで感じた事がない程の恐怖感。

軽い溜息とともに、死神様の大きな手が器用にキッドの服をなおしていく。
そして優しくキッドの頭を撫でると、キッド限定で蕩けそうなほどの笑顔を浮かべた。

「だ〜いじょうぶ♪ちゃんと私が立派な式場押えてあげるからね〜」

何故ここに?、や、"よりにもよって"の先の部分や、キッド限定の優しい笑顔や、
立派な式場などなど突っ込みどころは満載なのに、マカもソウルもその場にフリーズして動くことができなかった。



こうして、その日のうちにソウルとキッドの婚約披露パーティーが執り行われ、
一ヶ月後には盛大な結婚式が挙げられた。



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ありきたりネタ。きました。

やっぱり、完璧な死神様ですから。完璧な妻になることでしょう。
うっしっし(*´∀`*)
で、少し趣向を変えて、ソウキドなんですが、事故的なソウキドに。
これから少しずつソウルがキッドを好きになれば良いじゃない?的な。
ラムちゃん的なね!(違っ