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失うのが怖かった。 だから手に入れるのも怖かった。 本当は全てが欲しいのに、欲しいといえずにいた。 それはこれからも変わらないと思う。 不変なものはないけれど、人が生きている時間から見れば世界の変化は緩やかだ。 今は変革の時で問題は山積しているが、 それもじきに落ち着いて世界は再び平静を取り戻す。 それが死神の求めるものだとしても、そうでないものだとしても。 だからこのままで良いと思う。 自分はさらに次代の死神を遺さなければならない。 きっとこの想いは一過性のものだ。 そう、言い聞かせて。 雲路の果て 4 背後は壁。 顔の左右にはソウルの腕。 囲われるように立つ自分。 見上げれば、意地悪そうに笑う紅い瞳。 射抜かれて、動けない。 物理的には職人が武器に劣ることはないから、 キッドがその気にさえなればいくらでもこの状況から抜け出せるだろうが、 なぜか体が固まって動けなかった。 「キッド…。お前自分が言ってる事の意味、ちゃんと分かってるか?」 ソウルがさらに笑みを深める。 意地の悪い笑い方で。いっそ莫迦にされているような錯覚さえ覚えるが、 もしかしたら本当に莫迦にしてるのかも知れない。 「…意味…とは…?」 ゴクリ、と喉をならして問う声は、思いのほか声量が小さかった。 「俺が"付き合って欲しい"って言い方にしたら、考えるって事だよな…。」 この言葉に紅色は不敵に細まり、金色は不安げに揺れた。 「お前が黙ってたら、あのまま放置しておくことも出来たのに…。 わざわざキッドの方から蒸し返してくれるなんてな。 本当に、きっちりかっちりしてるというか。"ど"がつく真面目というか、莫迦というか…」 嗤いながら右手を壁から離し、キッドの頬を人差し指で撫でる。 輪郭を確かめるように、ゆっくりと耳下から顎に向かって辿る。 キッドの唇がムッと怒りの表情で引き結ばれたのは、気のせいではないだろう。 「…莫迦とはなんだ、莫迦とは…」 人がせっかく、と続けるキッドの頬から額へ指を滑らせ前髪を掻きあげる。 「キッドが、好きだ。」 「…っ……」 「俺の側に居て欲しい。」 「……………」 「明確な否定をしないなら、沈黙は肯定…って受け取るけど?」 「お前は…っ……勝手なことばかり…」 さらさらと、指の間からこぼれる濡れ羽色の髪。 思いのほか指通りの良いその髪は見た目よりもずっと細くて柔らかかった。 感触を楽しむように何度も何度も髪を梳く。 耳元から襟足に向かって何度も。 梳きながら想いを告げれば、キッドは困ったように沈黙を通す。 「キッド?」 「……………っ…」 「なんか言えよ。こんなに良い男が、告白してんだぜ?」 俯いてしまったキッドを下から覗き込む。 耳まで赤くなってるのは、見間違いではない。 「お前もオレを好きだって言ってくれたよな。うれしかった。」 「ソウル…」 「だから聞きたい。もう一度。」 俯くキッドの視線の先には黒いつま先。 見ていてかわいそうになるくらい、葛藤しているのが分かる。 それでもソウルはキッドが自分で選べるように、催促することなくじっと言葉を待った。 「…オレは…死神で…」 「うん」 「お前とは、生きる時間が違う。」 「うん」 「お前にとっての一生の時間は、オレにとっては刹那でしかない。」 「うん」 ぎゅぅっと握り締められるキッドの手。 小刻みに震える肩。 引き結ばれる唇。 ソウルにもキッドの言わんとしていることは充分すぎるほど理解できた。 正直なところ、全うにいけばソウルの方がキッドよりも先に死ぬことになるだろう。 身勝手な話だが、自分が逝ってしまった後キッドが自分以外の誰かのものになる、と考えるだけでも気分が悪い。 でも、それでも今キッドが欲しい。 短い人生のなかで、何かにつけて斜に構えていた自分が心の底から望んだものがキッドだ。 出来ればなんとしても手に入れたい。 キッドの気持ちが自分に向いている、と分かればなおさら。 「望んでも…良いのだろうか…」 ポツリと、キッドが呟いた。 「キッド…?」 俯いていたキッドがまっすぐにソウルを見上げた。 「お前が生きるであろう時間を、全てオレが奪うことになっても。 オレは、おまえを望んでも良いだろうか…」 ほんの一時、死神としての責務を忘れてしまうことがあっても。 それが赦されるだろうか、と。 「お前が忘れたら、オレが思い出させてやる。 オレが忘れたときには、お前が思い出させてくれたら良い。」 「…二人で忘れたらどうする?」 戸惑い気味に見つめてくるキッドにソウルは笑って答えた。 今度は莫迦にしたような笑いではなく、柔らかい笑みで。 「そんときゃ、二人でマカチョップを喰らうしかねーな。」 ソウルの言葉に、豆鉄砲くらったような顔したキッドはすぐふわりと微笑んだ。 「…そうだな…。マカがいる…。」 その笑顔を見て、ソウルはもう一度キッドに手を差し伸べた。 「キッド、オレはお前が好きだ。 オレが生きてる時間をお前にやる。だから、オレが生きてる間はお前をオレにくれ。」 「生きてる時間だとか、生きてる間だとか…お前にとっては長い時間だろうに。 そう易々とオレに渡して良いのか?」 先ほどまで葛藤に揺れていた瞳はもうぶれることはなく真っ直ぐにソウルを見つめた。 その視線の強さにめまいを感じるほどソウルは焦がれる。 「オレがいる間は、オレだけ見てれば良い。」 「気障なことを…。まぁお前らしいが。」 ソウルの差し伸べられた手をキッドが取る前に、ソウルにその手を取られる。 壁とソウルの間に立つキッドには既に逃れる場などないが、 さらにその隙間を埋めるようにソウルはキッドを抱きしめた。 抱きしめられながら、キッドは何か満たされるような気持ちを感じていた。 「ソウル、これだけは言っておきたい。」 「ん?」 キッドの首筋に顔を埋めていたソウルの、くぐもった声が聞こえる。 「お前が、好きだ。側にいて欲しい。」 一言、一言、区切って思いを込めて伝える。 「頼まれなくても、側にいる。」 苦笑と共に耳元で囁かれ、キッドはらしくなく"幸福"というものを感じていた。 next |
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ソウル→←キッドにしたかったんですけど、 ソウルの熱い思い(?)から、結局ソウキドに。 思いあっているけどお互いがお互いを想ってどうもできない、って言うのは 雲にはまだまだ無理っぽいです…。(>-<) きっとソウキドのラブ萌えが足りないせいだ。 他で手が埋まっていたので…仕方ないスな。 |