こうなるとは分かっていたけど、
実際目の当たりにするとキツイ物がある。
そう、感じている人間は死武専で一体どれだけいるだろう。





雲路の果て 5





「あのね、アタシ別に怒ってるわけじゃないんだよ。
でもね、なんて言うのかな…。マカチョーップ!怒りの三連打!!!」
ドン!ガン!!バスン!!
と壮絶な音を立てて、百科事典並に分厚い本の角が、重力とマカの馬鹿力を借りて、
全力でソウルの脳天に突き刺さる。
「っっ〜〜〜いっでーーーーーーっ!!!!!」
ソウルは軽く、あの世を見た気がした。



「さぁ、落ち着いたところで顛末を聞きましょうか?」
思い切り殴ってすっきりしたのだろう。マカがソファに腰掛けてコーヒーを飲みながらソウルを促す。
ここはマカとソウルのアパート。
マカに魂を狩られる前に、キッドとの仲を修復…むしろ進展させたソウルは意気揚々帰宅し、
その様子からマカに問い詰められて現在に至る。
頭頂部には当たり前のように特大のこぶが出来てしまっていた。
「…マカ。人を殺す前にマカチョップは封印しろ。」
低く、唸るようなソウルの声もものともせず、マカはソウルに先を促す。
「えらくご機嫌で帰宅したソウルくん。結局、キッド君とは仲直りできた?」
「…おかげさまで。」
マカには敵わない。内心呟いて、ソウルは目の前に置かれたマグカップを取る。
中身はマカが入れてくれたコーヒー。
熱い琥珀色の液体を口に含むと、いい香りが鼻に抜けてゆく。
この豆は確かキッドからもらった豆ではなかったか。
「ねぇねぇ、ソウルとキッド君は友達なの?それとも恋人?」
「っ!!!!?」
ズバリと核心を突いてくるマカに、ソウルは思わずコーヒーを吹き出してしまった。
「ちょっとソウル!きったないなぁー!!」
台所から慌てて台拭きを持ってきてソウルに手渡す。
どちらかと言えば、マカのせいなのに…と思いながらも盛大に吹き出したせいで
いろいろな場所に被害を与えてしまった惨状を見て、台拭きで丁寧に拭っていった。
「で、キッド君とはどういう関係になったの?」
「……恋人になりました。」
半ばやけっぱちになりながらソウルはマカに答えた。
「…そっか…良かったね。」
安堵したような、少しがっかりしたような、そんな声音。
「マカ?」
気になって声を掛ければ、マカはふっと寂しそうに微笑んだ。
座っているソファの近くに配置されていたクッションを取って、ぎゅっと抱きしめる姿は、
普段の男らしさからは想像つかないほど年頃の少女らしい。
「ソウルとキッド君がそういう仲になって、嬉しいと思ってる。
だけど…ちょっとだけ複雑、かな…。」
「複雑って…」
落ち込んだときのマカの行動を目の前で取られて、ソウルもどうしたものかと思案する。
「ソウルもキッド君も私にとっては大切な存在なんだよ…。
別に、どうこうって事じゃないんだけど、なんだか一度になくなった気がしちゃって…。
変だよね。こうして二人ともアタシにとって大切な存在で、側にいてくれる。このことに変わりないのに。」
小さく体を丸めるマカの頭をぽんぽんと叩いて、ソウルはマカを安心させるように言葉を選んだ。
「当然だろ。俺はお前のパートナーだ。いつもお前を全力でサポートするし、守る。」
そうだね、と呟いてマカは抱えた膝を伸ばした。
(嘘つき…。今、ソウルの中での一番はキッド君。
もしアタシかキッド君、どちらかがピンチなら、ソウルはきっとキッド君を…)
「変なこと考えんなよ、マカ。」
額を小突かれてマカは顔を上げた。
「お前を助けるよ。一番に。」
「なんで…」
「お前の考えてることくらい分かる。何年パートナーやってると思ってんだ。」
小突かれた額を撫でながら、マカはようやく微笑んだ。
「そうだね。長い付き合いだもんね…」
ソファで伸びをして、マカは立ち上がった。
「でも良いの?ピンチのキッド君よりアタシを選んで。」
「アイツは仮にも死神サマだからな。んなヤワじゃねーよ。」
ソウルも立ち上がって傍らの上着を取る。
「デート?」
茶化すようにマカが問えばソウルが笑って答える。
野暮な事聞くな、と。
今度こそマカは笑顔でソウルを送り出した。



夜の公園。
ソウルは上着を羽織ってベンチに座っていた。
キッドと約束をしていたわけではなかったが、ただ、マカを落ち着かせるために一人家を出た。
マカに恋人が出来たとき、おそらくソウルも同じ気持ちになるに違いない。
パートナーとは言え、将来を誓う仲ではないから、
何時かはこういう日がお互いに来るのだと分かっていても。
家族を…半身を奪われるような感覚に陥って多少凹むと思う。

「…ソウル…こんな時間にどうした?」

ベンチに腰掛け、手のひらを組んで頭を垂れていると声を掛けられた。
そこには計ったかのようなタイミングでその場に立つキッド。
漆黒の闇の中に黒装束で、闇の中から現れたような、そんな錯覚すら覚える。
そして、瞬間的に心拍数が跳ね上がるのを、ソウル自身感じていた。

「お前こそ…どうした?」

心の動揺を隠すようにベンチから立ち上がり、キッドに近づく。
俺に、会いたくなった?と問えばキッドが頬を染めて戯けと呟く。

「俺は父上に頼まれた任務の帰りだ。」
「ついさっきまで学校だったじゃん?」
「ベルゼブブで飛んでいけばすぐだからな。リズとパティがいればすぐ終わる内容だったしな。」
「その武器姉妹はどうした?」
「買い物がしたいと言って今何か見ているようだ。
この公園で待ち合わせしている。」

そうか、と相槌を打って、ソウルはキッドをさり気なくベンチに誘導し、そのまま座らせる。

「疲れたろ?」
そう問えば、キッドは軽くかぶりを振る。
「いや、そうでもない。夕日に向かって雲がシンメトリーに流れるさまは美しかった。」
その時の情景を思い出しているのか、キッドは半ばうっとりと宙を見つめながら語った。
「シンメトリーの武器を持ち、シンメトリーの中心に立ち、
その中心に向かってベルゼブブを滑走させるのは非常に気持ちよかった。」
「…へぇ…」
「でも、残念な事に今回のターゲットは3人だったんだ。
魂が3つで公平に分けられなかった。ソレが残念だ。父上に言って、早く次の任務につかなければ。
パティの方が魂一つ分足りない。」
先ほどまで嬉しそうに頬を染めてシンメトリーについて語っていたかと思えば、
今度は公平に分けられなかった魂の数についてむぅっと頬を膨らませて不機嫌な顔。
くるくると変わるキッドの表情にソウルは心が和むのを感じた。

「なんか、頬染めて語られるとすげー腹立つけど、お前が嬉しそうなら良いわ。」

ソウルの言葉の意味が分からないキッドは小首をかしげるが、
一人納得して終わっているソウルに、そうか、と一言だけこぼした。
そのキッドの表情が納得しているものではない事は見て分かった。
ソウルはガシガシと頭をかいて、一つ決意するように呼吸をしたあと、まくし立てるように一気に言葉に乗せる。

「あのな、シンメトリーが好きなお前だから仕方ねーとは思うんだけど…さ。
お前の話聞いてると、シンメトリー武器じゃない俺はお前の隣に立てねーみたいで。
小っせーこと気にして全然COOLじゃねぇけど、お前に対してはCOOLになれねーんだよ、俺。」

隣に座るソウルを、驚いたようにキッドは見上げ、
わずかに赤いその顔色を見てそっと微笑む。
ソウルは軽く舌打ちをして俯いてしまう。

「…そうか…。
お前にそんな表情をさせてるのが俺だという事が、何よりも嬉しいと思う。」
この言葉に、弾かれたように顔をあげソウルはキッドを見つめる。
「くそっ…お前…なんてこと…」
真っ赤になって口元を押さえ、らしくなく動揺を隠せないソウル。
「どうした?俺は何かおかしなこと言ったか…?」
不安気にソウルを覗き込み、キッドは表情を隠すように前髪に隠れたソウルの目を見ようと、
そっと銀糸を思わせる髪の毛に指を伸ばした。
ソウルは伸ばされたその手を取って、勢いのままキッドを抱き寄せる。

「これ以上ない殺し文句言いやがって…。キッドのくせに。」

抱き寄せられたキッドは突然目の前に広がるソウルの襟元と、芳香にドキドキと鼓動が高鳴るのを感じた。

「キッドが、好きだ。」

耳元で囁かれるこの言葉にも、さらに心拍数が上がって息苦しい。
キッドは心臓が壊れてしまうのではないかと不安になる。
うまく呼吸が出来ずに喘ぐように空気を求めて上向けば、そこでソウルの紅い瞳と目があった。

「キス、して良いか?」
「…えっ…」
「キスしたい。」

真っ直ぐに見つめられて、頭が真っ白になる。
なにか言わなければと口を開こうとしたとき、柔らかいもので唇が塞がれた。
それがソウルの唇だと気づくのに数秒―――。




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ソウマカ風味も醸し出しつつ。
キッド、乙女ちっく☆パワー全開www

ソウルはキッドの前だとヘタレであれば良いと思う。
キッドはソウルの前で逆に漢らしいかもしれない。
でも、ぼっさまは天然で、殺し文句ぽろぽろ吐きまくりだったり。

始めは、ソウルもキッドもお互いを想って別離の道を歩むって感じにしたかったのですが
うっかりソウキドになってしまったので今後の展開をどうしたものか…
無理やり別れさせようと思ってもソウルが阻止しそう…。