よくよく考えての告白。
確かに、キッドからしてみればオレの告白は軽率だったのかも知れない。
でも死神だからとかそういうバックボーンでキッドを好きになったわけじゃない。
ありのままのキッドが好きだから、その想いを伝えた。
そんな気持ちに向き合って欲しかっただけだった、と言えば
キッドはなんと言うだろうか。
今はもう、顔を合わせることすら気まずいけど。





雲路の果て 3





いつもの教室。いつものメンバー。
いつもの他愛ない会話。
…のはずなのだが。
マカはさっきから違和感を感じていた。
ソウルとキッドの間に。
二人ともいつも通りに振舞ってはいるだろうけど、マカにはなんとなく感じ取る事ができた。
いつも通りに見える二人の間に、いつもとは違う空気が流れていること。

なんだかんだ言いながら二人は仲が良くて、二人の間に入りこめない雰囲気があった。
職人と武器の関係であるマカとソウルにはもちろん強い絆がある。
一緒に戦ってきたし、これからも戦っていく。
そしてソウルはデスサイズに、マカは一流の職人になる。
お互いその夢のために協力して頑張っているのだけれど。

キッドが死武専に編入し、信じあえる仲間が増えた。
その仲間達と一緒に戦ってきてふとした瞬間に気づいてしまった。
キッドがソウルを特別に想っている事と、ソウルもキッドを想っている事。
おそらくマカを庇ってソウルが大怪我をしたあたりから。

キッドは酷くソウルの事を心配していた。
キッドはソウルを頻繁に見舞っていたはずだ。
ソウルの意識がある時も、ない時も関係なく。
彼が足しげく見舞いに通っていた理由は、なんとなくマカにも想像がつく。
キッドが、次代を担う死神だから。
それに彼は仲間が傷つく事を良しとしないのだ。
仕方がない事、と分かっていてもどこかで納得していない感がある。
その思いが怪我をしてしまったソウルへの見舞いとなって現れているのだろうと思う。

次期死神として、武器や職人を常に気遣っているキッド。
マカが動けなくなったときも頻繁に見舞いに来てくれた。
周囲を気遣い雰囲気を和らげる。その方法は『シンメトリー』だとか、くだらないものだったりするけれど。
そこがキッドの魅力であり、みんなから好かれる要因でもある。
マカもキッドが大好きだしそんなキッドのために働きたいと思う。
でも、次期死神だからそう思うのではなくて、キッドだから、なのだけれど。

現・死神様の事はマカも尊敬しているし、敬愛している。
でもキッドは"死神"の前に"仲間"だ。
どちらかを選択する日がくるとしたら、
おそらくマカは現・死神様よりも"仲間"であるキッドを選ぶ。
現・死神様のために戦う気持ちもあるが、やはり友達を選ぶと思うのだ。
それは、マカに限らずブラック☆スターにしても椿にしても、もちろん、ソウルにしても同じだとマカは思っている。

"死神"としてよりも、"仲間"としての意識が強かった分、キッドの"死神"としての孤独に気づくのが遅くなってしまった。
キッドのために働きたいとは思っているが、それはもっと先の話で、当面は他にもっとやるべき事がある。
クロナの事、メデューサの事、アラクノフォビアの事。
でもそういった状況の中でソウルだけはいち早くキッドの孤独に気づいた。
そしてそんなキッドを包みこむように周りからは分からないように彼をサポートし、接するのだ。
ごく自然と、ソウルとキッドの間には柔らかい空気が流れるようになった。

そんな二人をマカは少し羨ましく思っていた。
それなのに。今二人の間にはギクシャクした雰囲気が流れている。
いてもたってもいられなくなり、お節介とは思いつつも、マカはソウルに尋ねることにした。

「ソウル、キッドとなんかあった?」
キッドとブラックスターが話し始めたところで、マカはソウルのパーカーの裾を引いて耳打ちする。
「別に、なんでもない。」
ふと視線をそらして答えるソウルにマカはむっと不機嫌になった。
「…なんでもない事、ないでしょ。女の勘をナメないでよ。」
絶対何かあった、と続けるマカにソウルは軽く舌打ちした。
「言いたくないなら言わなくて良い。でもキッドにあんな顔させるのは、アタシが赦さない。」
「……お前キッドのなんなんだよ…」
ふっと呆れたようにため息を吐くソウルにマカが微笑んだ。
「キッド親衛隊。」
「マジ、お前なら普通に務まるわ。」
マカはその辺の男より男らしい。
ソウルはマカの言葉を否定することなく、笑いながら頭を掻く。
「まぁ…お前に狩られないように気をつけるさ。」
「そうね。三日以内に何とかしてよね。辛そうなキッド、見てるこっちが辛いの。
アタシで何とかできるなら、なんとでもしたいよ…。」
でも、キッドを何とかできるのはソウルだけだ。
視線をソウルからキッドに向けて、マカはふと呟いた。
ソウルもマカに倣ってキッドを見つめる。
その瞳はどこまでも深くて優しい。

「…やっぱり、羨ましいな…」
マカはポツリと呟いた。





マカには何とかする、と約束したものの、
さてどうしたものかとソウルは再び夕日が差し込む教室で一人思案する。
誰一人残っていない教室で椅子の背にもたれ頭の後ろで腕を組む。
もう呼び出してもキッドは応じてくれないだろうし…と考えていると、背後に気配を感じた。
「…ソウル…」
少し低めの掠れた声に振り向くと、キッドが立っていた。
武器の二人は連れてないらしい。
「キッド…!」
いくら油断していたとは言え、気配も感じず背後に立たれてソウルはビックリを通り越して
口から心臓が飛び出るかと思ったほどだ。
「どうした?忘れ物でもしたか?」
なるべく平常心を装ってキッドに微笑みかける。
キッドは立ち尽くして少し俯いたまま拳を握り締めていた。
「…その…先日の……ことなのだが…」
ドキリ、とソウルの鼓動が跳ねる。
まさかキッドの方から切り出してくるとも思っていなかったからだ。
どうしよう、と考えを巡らせるが、妙案は浮かんでこない。
我ながら上手く行動が取れず情けない事だ、と客観的に見つめつつキッドの行動を見守る。
「…悪かった…。」
「え…?」
予想外のキッドの言葉にソウルが目を見張る。
「ソウルは、オレに気持ちを告げただけだ。
それなのに、オレは感情的になってしまった…。
…その…"好きだ"と言われただけだから、オレがどうこうする…という事では…なかったんじゃないか、と。」
俯いていた顔はそのままに、少しだけ視線をソウルに合わせる。
下から上目遣いの表情、最後のほうは尻すぼみになってしまっているキッドの言葉。
ソウルはそれを見て溜息を吐いた。
もちろん、キッドに分かるように。
そうする事によってキッドが明らかに肩を揺らしてソウルの様子を伺う事がわかっているのに。
でもこれぐらいの意地悪は許されるのではないか、とソウルは思う。
キッドのこの言いようは。
あまりにも…ヒドイだろう、と。ソウルは内心毒吐く。


まさかキッドの方から切り出してくると思ってなかったが、
こういう切り出し方をされるとも思っていなかった。
まったくもってキッドは予想外の行動ばかり取ってくれる。
いくらソウルがクールに振舞おうとしても、それを許してくれないばかりか
何故か怒りと嗜虐心を煽ってくる。
これがキッドの素なのだとしたら、どれだけマゾッ気が強いのか、と疑ってしまうが。
しかし、恐ろしいことにこれがキッドの素なのだ。


キッドが言いたいことは、要するに。
ソウルはキッドが好きだと告げただけ。
それに対してキッドが付き合うとかどうこう答えるのは筋違いだった、と。
だから先日のキッドの態度はソウルに対して申し訳ない事をした、とこういう事だろう。

黙っていれば、ソウルがそれとなくフォローするつもりでいたのに。
どうして先手を打って、しかも墓穴を掘ってくれるのか。
やれやれと溜息をつきつつソウルはキッドを見つめた。
どうしてやろうか、と内心獲物を前にした猛禽類のように舌なめずりする。
勝手に墓穴を掘って、自ら窮地に追い込まれていくキッドが憎らしくも可愛くて仕方ない。

ソウルはゆるりと立ち上がり、キッドに向き直った。
一歩近づくと、何かを感じ取ったのかキッドが一歩下がる。
ゆっくりと歩を進めると、それにあわせるように後ずさるキッド。
「…ソウ…ル…」
いつしか教室の壁に追い詰めて、ソウルはキッドの顔を挟むように両手を壁につく。
キッドの背後はいつの間にか壁。
壁とソウルの両手に囲われて逃げ場がない。

「キッド…。お前自分が言ってる事の意味、ちゃんと分かってるか?」

ニコリと微笑むが、目の前のキッドは明らかに怯えている。
瞳の金色が不安げに揺れている。
その様子に益々ソウルは目を細めた。
多分、キッドには笑っているように見えないはずだ。




next





ソウルを動かすのはやっぱりマカだよね!
マカはソウルにとってお姉さんであり、妹であり、まぁ家族な訳ですよ。
お互い本当の家族は居るけれども。血の繋がりよりも強い繋がり、的な。

そしてキッドはなんのかんのと墓穴掘る達人であれば良いと思う。(勝手に)
そんなキッドにソウルはきゅんきゅんすると言いと思う。

さー…そろそろ終盤です。