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「おや、キッド。こんな時間まで一人でどうした?」 よりにもよって、一番厄介で遇いたくない人物にあってしまった、とキッドは胸中で毒吐く。 目の前には何もかもがツギハギの男。シュタインが立っていた。 身に纏う白衣や衣服、皮膚だけでなくその魂までもがツギハギの男。 へらへらと笑いながら、いつでも狂気に身を任せられる男。 どうして父である死神はこの男を側に置くのか、キッドには理解できなかった。 「暇なら、解剖に付き合ってくれませんか?死神様。」 あぁ、コイツも。興味があるのは"死神"の方―――。 雲路の果て 2 「暇などではありませんよ。シュタイン博士。」 「どこかでひっそり、一人泣きたいから、泣き場所を探すのに忙しい、かな?」 含みのある声。顔。 嫌な男だと思う。 おそらく、今の自分が泣きそうな顔をしているのだろう。自覚もある。 キッドはズバリと図星を指されたことについて少しだけ腹が立ったが、構わずこの場を去ることにした。 「…その通りですよ。そこを、どいてもらえますか?」 「君は、少しばかり潔癖すぎるよ、キッド。 崇高な魂は神らしいが、少しくらい人寄りに生きたって良い。」 随分高い大人の位置から手が伸ばされて、キッドの頭をくしゃりと撫でる。 シュタインの言葉にキッドの表情が厳しくなる。 「…あなたという人は…見ていたのか?」 さっきのやり取りを、と続けてキッドはシュタインを睨み上げた。 「君にそんな顔をさせることが出来るなんて、素晴しいよね、彼。」 白衣のポケットからタバコを取り出し、1本口にくわえて火をつける。 ぷかり、と白い煙を吐き出しキッドの腕を取ると、半ば強引に引きずるように歩き出した。 「悪趣味なのぞき見の次は人攫いか!」 流石に大人の男の力には敵わず、キッドはシュタインにされるがままになっている。 そうして連れてこられたのはやはり、死武専内の空き教室。 「そう邪険にしなくても良いでしょ。カウンセリングしてあげるんだから。」 「貴様のカウンセリングなど…必要ない!」 言い切るキッドにお構いなしで、シュタインは教室の引き戸をピタリと閉める。 それだけで、何故かキッドから逃げる意思が消えてしまった。 シュタインお気に入りのイスなのだろう。 教卓近くにあったキャスター付きのイスにまたがり、背もたれを抱え込む。 イスをくるくると回しながら、キッドにも「どうぞ」とイスを勧めた。 ただし、生徒用の普通のイスだったが。 「…何をしたいんだ、貴様。」 もはや、死神が信頼を置く男とも、教師とも思わないような態度でキッドはシュタインに向かい合う。 「まぁ座って。」 イライラは募るばかりだが、この状態でこの場を去ったとしても嫌な気分は残ったままだろう。 ただでさえ気分が滅入っていて何とかしたいのに、これ以上気分を害したくはない。 キッドはそう考えて、しぶしぶ勧められたイスに腰掛けた。 「誰も学ばない、誰も知ろうとしない、誰も教えない。――孤独に耐えることを。」 「……ニーチェか。」 タバコをふかしながら唐突に呟くシュタインに、キッドは憮然とした表情で答えた。 腕組みをして、背もたれに背を預ける。 シュタインの気が済むまで、おそらく解放はしてもらえないだろう。 「キッドは、死神様から"孤独"を学んだ?」 「学ぶ…?違うな。"感じ取る"の方が近い。」 「それも、"学ぶ"ことと同じでしょ。」 短くなったタバコを指に挟み、どうしたものかときょろきょろしていると、 キッドがさらにキツイ視線をシュタインに送ってきた。 彼の好きな死武専を汚そうものなら、殴られるくらいでは済まないかな、と考え、 シュタインはその手でタバコの火をもみ消した。 「…何が言いたいんだ、さっきから。」 シュタインのつかみどころのない質問にキッドのイライラはさらに募る。 「人とか、神とか関係なく。 ”キッド"としてもう少し楽に生きてみたらどうかなって提案しているだけだよ。」 反射する眼鏡の奥、彼の狂気を孕んだ瞳が何を見ているのか分からない。 けれど、言い終わると再びくるくるとイスを回して遊び始めた。 どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、キッドはシュタインの言葉を量りかねる。 だから、溜息混じりではあるが真面目に自分の答えを発した。 「自らの責任を放棄して、か?ふざけるな。」 「ホラ、そこ。潔癖すぎると思わないかい?案ずるより生むが易しって言うし。」 吐き捨てるように呟いたキッドの言葉にシュタインがへらへらと続けた。 「…貴様、オレを唆して何が楽しい。何が目的だ?」 「実験、だよ。"神"はどこまで堕ちるのか。興味深い題材だろ?」 「下衆が…っ」 シュタインの言葉にチリチリと、キッドの体から黒いオーラが溢れ出す。 死神特有の禍々しいオーラ。 「何故神は人のために生きなきゃいけない?何故人は神に縋る? 僕らが今目にしている現実で、君は人と同じだし僕らとなんら変わらない。 何が特別だ?魂の大きさ?寿命?ただ、それだけじゃないか…。」 床を足で蹴って、怒りを隠そうとしないキッドのもとまでキャスターを転がせて一気に近づく。 そして、キッドの白い耳元で囁いた。 「人間とは神の失敗作に過ぎないのか、それとも神こそ人間の失敗作に過ぎぬのか…」 「……貴様はつくづくニーチェが好きなんだな。」 「詩人でしょ♪」 歌うように答えて、キッドから離れる。 「いくら神とは言え、君みたいな子供が我慢することなんか無いってことだよ。 これから我慢しなきゃいけない事は山ほどあるんだから。」 シュタインの言葉にしばしキッドは考え込むように俯いて、顎に指を当てた。 男にしては随分と華奢な指。 シンメトリー好きな彼のその指には、右手にも左手にも死神を模したリングが嵌っている。 キッド本人は知らないだろうが、そのリングはデスサイズスと職人で作り上げたある意味お守り的なもの。 二丁拳銃・トンプソン姉妹を使いこなすのに、その指輪は邪魔ではないのか、と 考えたこともあるが、キッドはリングの嵌った指で器用に姉妹を使いこなしている。 ふと、シュタインが己の思いに耽っていると、目の前のキッドが俯いていた顔を上げてシュタインを見上げた。 「…言いたいことは、それだけか?」 幾分、怒りが収まったのか教室に引き込んだ当初より随分と表情が落ち着いているように見受けられる。 「うん♪」 「では、オレは失礼する。」 キッドの様子に鼻唄交じりで答えるシュタインに告げ、今度は躊躇いもなく席を立ち教室を後にするキッド。 見送ることは無いが、その小さな背にシュタインは呟く。 「Good Luck」 授業も終わり、シュタインが自宅へ戻ろうと廊下を歩いていたとき。偶々、通りがかった空き教室の前。 そこにはソウルとキッドが居た。 聞くつもりはなかったが、ソウルの声が漏れ聞こえてきた。 いつも飄々とした感のあるソウルがいつになく真剣だったのを見て、青いなぁと冷ややかに見ていたものだが。 かわいい可愛い実験対象のキッドが泣きそうな顔でソウルの申し出を断った。 その言葉『神の命の長さ』がシュタインには引っかかった。 そして、その小さな死神の肩に圧し掛かる重圧を少しでも軽くしてあげたいと思った。 それが出来るのはソウルではない。自分だろう、と。 なんだかんだ言っても結局はソウルも子供だ、。おそらくキッドを説得することなど無理だ。 シュタインは、覚えている。 キッドが生まれたときの事を。 死神様だけでなく、デスサイズスもその誕生を心から喜んだ。 スピリットなどは自分の娘が生まれたばかりだというのに、泣きながら喜んでいた。 まるで、もう一人自分の子供が生まれたかのよな喜びようで。 でもそれはその場に居たデスサイズス、教員、職人全員が同じ気持ちだった。 誰しも、その子の輝ける未来を願い、守ることを心に決めたはずだ。 シュタインもその一人だから。 生憎と、キッドが物心付く頃には"死神の息子"という立場上、 常にその身が危険にさらされる、という事で キッドの身の回りを世話する一部の者達以外は全員、彼と隔離されたのだから、 デスサイズスも教員も、ほとんど全員がキッドと何らかの関わりがある事など当然当の本人は知る由も無いが。 だから、シュタインはキッドが泣いているのをただ黙って見ていることが出来なかった。 キッドの幸せが自分の幸せ。いつしかそう思えるようになった。 狂気に身を任せるのも気持ちが良いが、小さな死神が微笑むのを見る方が気持ちが良い。 先ほどの自分との会話だけで、キッドが自分に素直に生きるとは思っていないが、 少しでも彼の背を押す切欠になれば良い。 あとは、キッドとソウルの問題だ。 「ソウル・イーター。 僕らの愛し子を泣かせたら赦さないよ。 あれしきの拒絶で、諦めることも赦さない。」 眼鏡の奥。普段からは想像できないほどの狂気と悪意を込めて呟き、嗤う。 シュタインは再び白衣からタバコを取り出し、 一本も入ってない事に気づくと手の中でグシャリと潰し、床に投げつけようとして、やめた。 あの子を悲しませる事は、それがたとえシュタイン自身だとしても赦せなかった。 next |
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キッドは知らないところで溺愛されていると良い。 でも当の本人はそのこと知らず、自分で自分に使命を課していると良い。 教員・デスサイズスの想いを勝手に捏造。 死神様の奥さんって誰なんだろう。。。 案外死神は卵から孵ってたりして…(違) 探しているのですが、見つからない。設定資料集が欲しいです。 |