ノクターン 2 豪奢な階段を見つけ、ソウルとキッドは2階の探索を開始する。 『…そこにいるのは…どなた…?』 階段を上りきり、左右に伸びる廊下の左奥から調べることにして、 一番奥の部屋に入るなり女のか細い声が聞こえた。 「…きたな…。気をつけろソウル。この声の主が今回のターゲットだ。」 先ほどまでの雰囲気など一切破棄してしまったかのように張り詰めたキッドの気配。 ピンと張るような、彼の持つ特有の覇気が武器であるソウルには心地よい。 マカも素晴しい鎌職人で、シュタイン曰くマカとソウルの魂の波長はまだ合っては無いようだが、 マカの波長を決して嫌いではない。 むしろ真っ直ぐで勇気がみなぎるような魂をソウルは好いている。 しかし、やはり神と人では元の作りが違うのか、キッドの魂の波長には遠く及ばない。 この波長につながれるリズとパティは武器として幸せだろうとソウルは思う。 キッドの言葉に身構えるソウルだったが、目の前に女が現れた瞬間、キッドが忌々しそうに舌打ちをした。 「くそっ…そういうことか…まったく父上も底意地が悪い…」 「どうしたキッド?」 ただならぬ様子に、一歩前に立つキッドを見やるとキッドはなにやらぶつぶつと呟いて いきなり現れた女に突進した。 女が叫び、大きく開いた口から何か衝撃波のようなものを出す。 それを直前でかわし、キッドは床を蹴って宙に逃げる。 くるりと一回転して女の背後に着地すると、そのまま手を突いて背後から蹴りを放つ。 ゴリっと骨を砕くような音が響き、手ごたえを感じたキッドはそのまま床についていた手を伸ばし、 倒立の状態から一度肘を曲げ反動をつけると、何回かバク転して女との距離を取った。 わずか数秒の間に起こった女とキッドの攻防にソウルはただ目を見張るばかりだ。 映画を見ているような錯覚に囚われる。 キッドの烈しいけれど優雅な体術。 以前死神流体術だと聞いたことがある。いくつか型があるうちの一つなのだろう。 もっと見ていたい、他人事ながらそう思っているとキッドから檄が飛んだ。 「ソウル!何をボケっと突っ立ってる!早く武器化しろ」 手を伸ばし、ソウルに武器化を求めるキッド。 「…でもお前シンメトリーじゃなきゃ使わないんじゃ…」 その上、今のこの状況から見て武器などなくても波長を打ち込めば終わりではないのだろうか。 倒れこんでいる女とキッドを見比べながら、 今は離れてしまったキッドとの距離を詰めるため駆け寄る。 「戯け。こいつは悪人の魂ではない。魔女だ。」 「魔女?!」 流石にソウルも狼狽する。 「死神様は人の魂だって言ってたのにな…」 ふと呟いてキッドの隣に立つ。 「…大方、始めから"魔女"だと言えばオレが武器なしで指令をこなすとは思わなかったからだろうな。 今のオレではお前<武器>なしでは流石に魔女は狩れん。」 「…っへ!大丈夫かよ?お前にオレが使いこなせんの?」 ソウルが武器化しながらキッドへ問う。 本当は、キッドの覇気に満ちた魂の波長と自らの波長を合わせることが楽しみで仕方ないのに。 「ほざけ。オレを誰だと思っている。 デスサイズになる前に神に使われること、光栄に思うが良い。」 「言ってくれるね」 鎌になったソウルを手にし、キッドが女…魔女に向かって構える。 「流石死神様って感じ?ブラック☆スターのときとは違うな」 「軽口叩いてる場合か?くるぞ。」 キッドが転校してきた初日、ブラック☆スターとソウルでキッドに挑んだときの事を思い出す。 あの時は魂の波長が合わず散々だった。 鎌になったソウル自身に波長を打ち込まれるし、そもそもブラック☆スターは振り回すどころか、 持ち上げることすら出来なかった。 しかし、キッドは難なくソウルを構えている。 緩慢な動作で起き上がる魔女。 ぐるりと首だけを回してこちらを睨みつける様は一種異様で、まさにホラーと呼ぶにふさわしかった。 「…オレこれ夢に見そう。」 「意外と繊細なんだな」 ふっと笑い、キッドは刃を下に柄を握りしめ、構えなおす。 『何故、邪魔をするの? あの人との約束を、私は守っているだけなのに…。』 ギギギ…と体もキッドの方向に向け、魔女は悲しそうなけれど怒りの篭った声音で訴える。 「誰とのどんな約束かは知らんが、魂を狩って良いのは死神に許されたものたちだけだ。」 『そんなこと…知らない。私は魔女。私はあの人との約束のために、魂を手に入れる。』 ギチっと不愉快な音がして、再び魔女は大きな口をあけた。 またあの衝撃波のようなものを打ち出す気なのだろう。 キッドは一気に間合いを詰めて下に構えた鎌を魔女の足元から頭上に向けて一気に斬り上げる。 けれどそれはアッサリとかわされ。勢い余ったキッドは鎌を振り上げた反動で一瞬体制を崩す。 すかさずその足元に衝撃波を打ち込む魔女。 「くそっ…やはり使い慣れん分不利だな…」 衝撃波をまともに喰らったはずだが、神の体とは傷つきにくいのか。 あまりダメージを受けた様子はないが、流石にソウルも心配になる。 「大丈夫か?キッド。」 「あぁ。心配要らない。」 だが、服が汚れた。と不機嫌そうにぶつぶつ呟く。 『アナタの魂、とっても綺麗ね…。キラキラして。それはなんなの?』 コトリ、と首をかしげて魔女は今更ながらキッドの魂に気づいたのか問うてきた。 「死神の魂が欲しいのか?強欲な魔女だな。身の程を知れ。」 キッドの顔はシニカルな笑みでかたどられているが、武器化しているソウルにはその魂の波長が怒りに満ちているのを感じた。 チリチリとソウル自身の魂をもこがす程の怒り。 「悪人も善人も、神の区別もつけず魂を集めるほどの約束とはどんなものだ?」 蜂蜜色の瞳が半眼となり、 窓から差し込む月の光を濡れたように反射する。 もしこの場にギャラリーがいたのなら、これこそ死神の姿だ、と思ったに違いない。 黒い装束に鎌を持ち、魔女に対峙する姿は凛として溢れる波長には高貴さが漂っている。 『わたし…欲しいわ。アナタの綺麗な魂。 きっとあの人も喜んでくれる。きっと喜んでこの世に戻ってくるわ』 はしゃいだような魔女の声。 「戯け。死神の魂がそう易々と手に入ると思うな。」 対するキッドの声は今まで聞いたことが無いほど低く、凍て付くように冷たかった。 そんなキッドの波長をピリピリと感じるソウル自身もこの波長に酔いしれて蕩けてしまいそうだ。 (やべぇ…精神も魂も全部持っていかれそうだ) デスサイズになるということは、死神の武器になるということはここまで気持ちが良く、 魂が消えてしまいそうになるくらい消耗することなのだろうか。 ソウルはギリギリのところでぶっ飛びそうになる意識を保った。 半歩後ろに下がり、キッドは足を肩幅に開いて重心を少し落とした。 鎌を構えなおす。 今度は刃を上に、柄を下に。 右手は逆手、左手は順手に柄を持ち、さらに腰を落とした。 「ソウル…魂の共鳴、いけるか?」 「仰せのままに。」 本当は魂の消耗が激しく、かなり限界の域まで来ていたのだが、 キッドに請われ断れる筈が無い。 魂の共鳴。 奏でるは死神に捧げる夜想曲。 美しく優しい旋律の中に、キッドの魂の烈しさを包み込み。 ソウルは魂でピアノを弾く。 『魔人狩り!!』 飛び込んできた魔女に向かって盛大に袈裟斬りを。 鎌を背に担いだ状態から放った魔人狩りは、魔女を斬った後も勢い余って軌道を描き続ける。 伸身回転をしながら、その鎌が描く軌跡は幼い死神がこよなく愛するシンメトリーの8。 「お前、こんなときでもシンメトリーかよ…」 呆れるような、苦笑するようなソウルの呟き。 「当たり前だ。シンメトリーこそ究極の美だ。」 着地と同時にソウルを人に戻し、キッドは衿を正した。 目の前には倒した魔女の魂。 「どうするソウル?コイツを喰うか?」 キッドに問われ、ソウルは首を横に振る。 「いや。デスサイズになるのはマカと一緒に、だ。 お前と一緒に倒した魔女の魂喰うのは卑怯な気がする。」 COOLじゃねぇと続けるソウルにキッドはふわりと微笑んだ。 「お前らしいな。」 では、この魂はオレが預かろう。とキッドは右手の平を魔女の魂にかざし、何か呪文を唱えたあとその手の平に吸い込んだ。 後で父上に渡す、とキッドは言った。 「お前とパートナー組んでるリズとパティはすげぇな。 うらやましいぜ。ますますデスサイズになりたくなった。」 ソウルの感想に、キッドは一瞬驚いてそれからソウルの銀糸のような髪に触れた。 やわらかく微笑んで、今まで覇気に満ちていた波長がやわらかくなる。 まるでソウルの魂を労うように、癒すように包み込み、告げた。 「オレも、マカがうらやましい。 お前のような武器を育てているんだからな。」 まぁリズとパティには及ばんが。と続けてソウルから離れた。 そのキッドの言葉に呆けていると、二歩、三歩と進んでいたキッドが振り返った。 「早く、デスサイズになれ。オレが死神になった暁には、目一杯こき使ってやろう。」 花が綻ぶような、綺麗な笑顔にソウルは疲れなど忘れてキッドを背後から抱きしめた。 「シンメトリーな武器しか使わないんじゃなかったのかよ?」 「…使って欲しいなら、使ってやらんでも無いぞ。」 「死神様の意のままに。」 耳元に甘い言葉と吐息を流し込んで。 二人は帰途についた。 next |
カッコイイお坊っさまが書きたい!と思っての戦闘シーン。 文才が…表現力が欲しい…。 死神様が魔鎌もったらきっともっと死神らしくなると思うんです。 そんな妄想からスタートしたソウル×キッド。 ソウキドですよ。キドソウじゃないですよ。誰がなんと言おうとソウキドなんです。 結論的に、ようは修行不足っす。。。 かっこいいソウルが書きたいよぅ(;-;) |