好きで、好きで、どうして良いか分からなくなって、
気付いたら、騙しうちのように手に入れていた。
そこからなし崩しのように関係を続けている。何も良いことなどないのに。
抱くたびに涙を流すのは、快楽からだけでないと分かっているけど、やめられない。

手を放したら、そのままどこかに行ってしまいそうで怖いのだ。





クロッ- 紫 -





最近、さり気なく避けられている気がしていた。
きちんと気持ちが通じ合えていないのだから、それは当然だろうと思う。
今二人を繋いでいるのは、『仲間』と『体』その二つの関係で、
『体』という繋がりが出来始めた頃から、『仲間』としての繋がりが薄くなってきてしまっている。
求めるから、求める分失っているのは分かっているけれど、求める事をやめられない。

「なぁキッド、今日家に寄っていけよ。」
「…ソウル、悪いが…」
「帰り、一緒に帰るからな。」
「ソウル!」

一方的に告げるだけ告げて、キッドの許を離れる。
否定や拒絶の言葉は聞きたくなかった。
こんなことは無駄だと分かっていながら、若いことが災いするのか、欲が向かう先はキッドなのだ。

授業後、予告通り強制的に連れて歩く。
腕が痛い、放せと聞こえてくるが、無視してアパートまで足早に進む。
今日はマカの帰宅は遅い。
椿と買い物に行く、との事で、夕飯も外で取ると聞いていた。
死武専でコトに及べないとなれば、家に連れ込むまでだ。
そろそろ、きちんと『気持ち』の話もしておきたかった事もある。

無言で進むソウルに諦めたのか、キッドも自然と黙る。
人影もまばらになって、アパートにたどり着く頃には、周囲には誰も居なかった。
入り口で、キッドを掴む腕に少し、抵抗が感じられたが、本当に少しの事で諦めたのか大人しくついてきた。
その気になれば、ソウルなど打ちのめしてでも帰宅できる、と思っているからかもしれない。

鍵を開けて玄関を開ける。
有無を言わさずキッドを部屋に押し込んで、後ろ手に扉を閉めて鍵もかける。
ガチャリ、と響く無機質な音が、外界との遮断を妙に意識させた。

「とりあえず、奥入っとけよ。」
「…ソウル…」

困ったように所在無さ気に立ち尽くすキッドを、ソウルは部屋の奥へと押し込める。
リビングのソファに無理やり座らせて、キッチンにひっこむ。
初めてという訳ではないのに、妙に緊張していることが分かった。
指が細かく振るえ、キッドの拒絶が怖いと訴えかける。
話をするのが先か欲に従うのが先か、冷静に考えることが出来ないでいる。

冷蔵庫に冷やしていたアイスティーをグラスに注ぎ、リビングに戻る。
どこか遠く、窓の外を見ていたキッドが気付いて振り返った。

「ほら」
「…ありがとう」

突き出したグラスを受け取るキッドの横に座る。
いつも通りの位置。
ただ、ソウルが座る瞬間、キッドの体が強張るのが分かり、緊張が伝わってきた。
アイスティーを口に含んで喉の渇きを潤す。
すぐにカラカラと乾く気がするのは、ソウル自身も緊張しているせいだろう。

「キッド…話が、ある」
「ソウル、もう、止めないか?」
「え?」

出鼻を挫かれる、とはこの事だろうか。
話を始めようとした瞬間、キッドから告げられるのは、終わりの言葉。

「もう、止めよう。こんな無意味な事は。」
「…意味が、わかんねぇ…」
「こんなこと、意味が無いだろう?お前にとっても、俺にとっても、良いことではない。」

グラスを持ったまま、口をつけないキッドは淡々と、ただ強い意志の感じられる声で告げる。
代わりにソウルの手は先ほどよりもずっと、情け無いほどに震えていた。

「意味ないって?俺が、お前を好きでも、意味がないって言うのかよ?」
「ソウル、それはきっと違う。欲のまま体を重ねているから、だから…」
「違うって…?何が違うって言うんだよ。違わねぇよ。キッドが好きだから、抱きたいと思ってる。」

すぐ側のテーブルにグラスを置いて、ソウルはキッドの肩を掴む。
自分自身の気持ちを、否定はされたくなかった。
手順を間違えたことは認めるが、キッドを想う気持ちまで、否定されるのは、拒絶以上に辛い。

「ソウル、駄目なんだ。周囲が悲しむ。」
「周囲って?駄目って?なんだよそれ。俺よりも周りを優先するのか?」
「…ソウル!」
「お前の言ってる事の、意味がわかんねぇよ!」

気付けばキッドをソファに押し付けていた。
キッドが持っていたグラスは、床のラグに落ちた。
もちろんアイスティーも、ラグに染み込み、茶色の滲みになる。
グラスが割れなかっただけでも良かったかも知れない。

「…っソウル!」
「うるせぇよ…」

冷静な判断など、もう出来なかった。
ただただ、目の前のキッドを欲した。

否定も拒絶も要らないし、許せない。
何よりも、ソウルの気持ちを理解しようともしないキッドに腹が立った。

きっちりと着込まれた黒いスーツも、白いシャツも乱暴に乱す。
ボタンが幾つか飛んだようだが、気にしない。
ソファに散る漆黒と純白の髪がしゅるしゅると、音の無い音を立てる。

「ソウル…っ…止めろ…」

下から懸命に抵抗しているが、お構いなしに乱していく。

「本当に厭なら、俺を殺す気で抵抗しろよ。俺も手加減しない。」

ソウルの言葉に怯んだのか、キッドの抵抗が緩む。
その機を見逃すはずはなく、ソウルはキッドの悦い箇所ばかりをせめた。

乱れる息と、潤む瞳。
この蜂蜜が蕩け出すように、涙に潤むこの瞬間が、ソウルを何よりも煽るのだ。

「やめようとか、言ってる割にしっかり感じてんじゃねぇか」
「…っ……仕方ない…だろぅ…っ……」
「どうだかな」

行為も言葉も乱暴になる。
きちんと気持ちを伝えて、優しく抱くつもりだったのに。
今からそう告げても、遅くは無いのだろうか。

やや性急に体を繋げて、力ない抵抗を続けるキッドを揺さぶる。
揺するたびに甘い吐息が漏れ、キッド自身も確りと反応を返している。
それを感じて、ソウルは密かに笑んだ。

半ば諦めたように、キッドの体から力が抜けたかと思ったら、急に強張った。

「…っ!!やめ…っソウル……やめろ!」
「どうしたんだよ、急に?」

暴れ出した体を押さえつけながら、変わらず突き上げる。
途切れ途切れの言葉の合間に、キッドの顔色が青ざめていく。

「マ…マカが…帰ってくる……っ!早く…抜け……っ」

キッドの魂感知能力が、マカの魂を察知したのだろう。
衣服が絡まった体を必死に捩って、ソウルから逃れようとしている。
もがく姿が哀れにも思えるが逆に劣情を誘う。

「別に…俺は見られても構わない。」
「ば…っ……やぁ…やぁっ!……どけ…っ!」

知り尽くした体の中、悦い箇所を突き上げる。
かわいそうなほど体をのけ反らせ、快楽に負けまいと、必死に抗う姿は見ていて飽きない。
いっそ知られてしまえば良いのだ。
そうすれば、キッドも諦めるだろう。

「…どくかよ…お前だって、確り感じてるじゃねーか…」
「ちがっ……んぁ…お前……っ…マカを…傷つけたら……許さないっ…」

キッドの中心を握りこみ、上下に揺する。
その動きに合わせるように体内も突き上げると、悲鳴じみた声が上がった。

「どうせなら、見せてやれば良いじゃねぇか。」
「……っ……き…さまっ…!」

キッドの耳元で囁くと、怯えたように体が強張った。
ソウルを包む肉壁がきつく収縮し、思わず精を注ぎ込みそうになる。

「くっ…」
「…ぅ……あ…くそっ……ソウル…本当に…」

一向に退く気配の無いソウルに、キッドは本気で抗った。
もうソウルですら感じられるほどにマカは近くに居た。
おそらく、もう玄関一枚隔てた場所に。

「ソウル…もう…終わりだ」

急にキッドの声が深く沈み、鳩尾に激しい痛みを感じた。
それと同時に吐き気に襲われる。
一撃入れられたのだと気付くのと、
キッドが本気でソウルの喉を潰そうと、首を掴みあげていると把握したのはほぼ同時だった。

「マカを傷つけることは、許さない…」

上気した頬が情事の名残を感じさせるが、声は低く、殺意が滲みでていた。





クロッカス(紫) - 花言葉は、『愛したことを後悔する』『もう一度愛して』 -



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