それは、唐突に訪れた。 「…烈兄貴…それって…どういうこと?」 「豪、僕達も何時までも子供のままじゃいられないって事だよ。」 「なんだよ、ソレ…。社会人になっちまったら、変わるものなのかよ?」 「もう、こんな関係キッパリやめよう。普通の兄弟に戻るんだ。」 烈から唐突に別れを告げられて。 豪は頭が真っ白になった。 烈が社会人になり、豪が大学4年になった春。 二人の関係は『恋人』から『兄弟』に戻った。 豪がどれだけ言っても求めても、烈は兄弟としての態度を崩さなかった。 しかし、『兄弟』に戻っても二人の仲が悪くなることは無く。 ただ、唇に触れない、体に触れない、それだけの状態が続いた。 始めは豪も、しつこく烈に何故、どうして?と問い詰めていたが、 『兄弟』に戻っても変わらない態度、様子に もしかしたら、倦怠期なのかも、くらいにしか考えていなかった。 けれど現実はもっと残酷で、豪を地獄に叩き落す。 +*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+ 「えっ?烈、今なんていったんだい?」 烈と豪が普通の兄弟に戻ってから3年が経ち。 兄弟が社会人になってしまうと、家族4人で夕飯を取る、など 数ヶ月に1回あるかないか、の状態になってしまっていた。 そんな貴重な1回に、烈は家族にある提案をした。 「いや、だから彼女を連れてきたいんだけど…。」 今まで彼女の『か』の字も匂わせなかった烈が、 彼女を、しかも家に連れてきたいという。 「それは…その…いわゆる…結婚したい、女性なのかい?」 父が恐る恐る尋ねると、烈は照れたように呟いた。 「まぁ結婚できたら良いかな、って思えるような女性だよ。」 そんな烈の様子に、母はどぎまぎしてしまう。 「何時連れてくるんだい?彼女は好き嫌いあるの?一緒に食事するんだろ?」 「そうしてくれるならありがたいけど。」 「彼女は了解してるんだよね?星馬家に来ること。」 「うん。是非来たいって言ってくれてる。」 父と母からかわるがわる質問を受け、烈は困ったように、けれど嬉しそうに答えていた。 豪は、降って湧いたような『烈の彼女』に、心中穏やかではなかった。 正直この手で殺せるものなら殺してやりたい、と思っていた。 夕食後、烈の部屋に豪は押しかけた。 「烈兄貴…さっきの…彼女連れてきたいって話だけど…」 「あぁ。豪も、愛想良くしてくれよ?」 豪に背を向けたまま、烈はパソコンに向かって何事か調べ物をしているようだ。 「その…兄貴、結婚したいの…か?」 「ゆくゆくは…そうしたいと考えてるけど。」 淡々と語る烈に、豪は想いを隠し切れない。 「兄貴…俺、兄貴の事が好きだよ。愛してる。 兄貴が他のヤツと結婚なんて…考えられない。ねぇ考えなおしてよ。」 背後から、烈を抱きしめ、耳元で熱っぽく語る。 3年前、豪が烈に愛を語ったときと同じ仕草。 男同士で兄弟で、何時かは離れてしまうときが来ると分かっていた。 けれどそれはお互いの愛がもっと穏やかに、お互いを包み込むような、 大海のような愛に変わってからだと、豪は考えていた。 まだまだ互いを貪り合うことでしか確かめられないような、 強欲な愛の形で、二人が離れられるとは考えていなかったのだ。 3年経った今でも豪は烈を渇望している。 普通の兄弟に戻った後も彼女を作る気にはなれず、今も烈を想っている。 「豪。その話ならしないでくれ。もう、普通の兄弟なんだから。」 「兄貴…!でも俺」 ぎゅぅっと抱きしめる腕に力をこめて、豪は思いの丈を何とか烈に伝えようとした。 「豪、ダメなんだよ。僕とお前じゃ。だから僕の事は忘れるんだ。」 豪の頭をぽんぽんと撫でてやりながら、烈は豪の腕から逃れた。 「烈兄貴…」 「豪、先に言っておくよ。僕、来年今付き合ってる彼女と結婚しようと思ってるんだ。 実は、彼女の家にはもう挨拶に言ってる。」 「…なっ…?!…烈兄貴…!!」 「お前ももう、いい加減俺の影を追うのは止めるんだ。 お前がどれだけ求めても、僕はそれに答えるわけにはいかない。答えられない。 お互い大人なんだから…分かるよな、豪。 お前も彼女を作って、結婚を考えないといけないんだ。」 豪を真正面に見据え、烈は告げた。 「そんな…俺…兄貴以上に好きなヤツなんて居ない…。兄貴以上に想えるヤツも居ない! 兄貴が居てくれたらそれで良いのに…それじゃダメなのかよ? 兄貴は…烈兄貴は、俺じゃダメなのか?!」 烈の両肩をつかみ、豪はそのまま烈を抱きしめた。 烈の冷めた紅い瞳など見たくない。あの時のように潤んだ瞳で見上げて欲しい。 冷たい声は聞きたくない。散々求めあった後の、掠れた声で『豪』と呼んで欲しい。 けれどその願いは届かず、烈に冷たく振り払われる。 「豪。もう現実を見ろ。僕は、お前に付き合いきれない。」 現実は、どこまでも冷たく厳しく。 豪は烈の部屋を飛び出した。 next |
大人豪烈始動。 烈の彼女は出てくるわ、結婚するわ子供も生まれるわ、 本当にラブラブな豪烈が好きな方はここから先はダメかも知れません。 書きたいものは背徳的な愛 果たして雲にかけますでしょうか。 お付き合いいただけましたらこれ幸いでございます。 |