組み手


――ただ、強くなりたい。
心も、体も、強く。
もっともっと強靭に。
強いだけじゃなく、柳のようにしなやかな彼に追いつき、何時かは彼を助けるのだ。

早朝6時、死刑台屋敷の裏庭で。
ソウルはキッドと組み手をしていた。
キッドは死神流体術を使用していない。
ただの、組み手だが。
すこしマーシャルアーツを齧ったことがあるのか、
その体から繰り出される攻撃はどれもこれも確実に急所を狙ってくる。

確かに、本気で相手をして欲しいとは頼んだが。
暗殺拳を選んでくる辺り、キッドだ。

右腕がソウルの左頬を捉えるため、唸りを上げて飛んでくる。
何とか左腕でガードして弾くが、キッドは既に身を沈めて、左腕を反動に使い、狙い済ましたように、
ソウルの体が逃れるほうへ蹴りを繰り出した。
流石にこれは避けきれず、ソウルは腹筋に力を込めて、甘んじて受ける。
下手に交わして、第二、第三の追撃を喰らうよりはマシだ。

蹴りを受けた瞬間の、鈍い衝撃と内臓がひっくり返るような感覚。

(おもてぇえ…っ)

思わず膝を突いて嘔吐しそうになるが、相手であるキッドはそんな暇すら与えてくれはしない。
何とか踏ん張って立つソウルの両足を難なく払うと、
その遠心力を使って中腰から立位の状態まで体を起こす。
そしてそのままソウルの腹部へ右足を乗せた。
キッドが足に力を込めれば、ソウルの内臓などあっけなく破裂するだろう。

「……マイリマシタ…」
数瞬の間のうち、ついにソウルが観念してキッドに告げた。
キッドがソウルの言葉を待っていたのは温情に近い。
続行していれば、ソウルの骨2〜3本は折れていたはずだ。
内臓もただでは済むまい。

「立てるか?」
ソウルに手を差し出すキッドに、先ほどまでの苛烈さは感じられない。
相手を徹底的に屠る能力。
未開花でありながら、こうまで実力の差を見せ付けられると、ソウルとしても感嘆の声を上げるしかない。

「さすが。お前はスゲーよ。」
キッドの手を取りながら、地面から立ち上がると、キッドは不思議そうな顔をしてソウルを見た。
「俺から見れば、お前の方が凄いと思うが?」
どこがよ、と問えば、昇ってくる朝日に負けないくらいの笑顔が。

「死神をここまで虜にする魔武器など、そうそう世に存在するわけ無かろう。
ソウルこそ、何世紀かに一人の逸材ではないのか?」

嗚呼。全くこの死神様は。
俺から何もかも全てを奪う。
惚れた相手を守りたいという意地も、プライドも、何もかも。
愛されるよりも、愛したいんだという意志さえも、
包み込んで、軽くあしらわれてしまいそう。
神にふさわしい、巨大な無償の愛で。