落し物には気をつけましょう


『ソウルの指がキッドの肌を這う。
その指にキッドがわずかに反応した。
「キッド、声、聞かせろよ」
「…そう言われて…声を立てるとでも…っ…」
キッドの胸の薄ピンクの飾りに触れて、ソウルは意地悪く笑んだ。
「我慢するなよ。」
言いながら、まるで甘い果物でも食べるように、目の前の飾りを舐め上げた。
舐めた後、舌を這わせて唾液を絡めながら吸う。
「っ……ん……っはっ……」
舌なめずりしそうな表情で、ソウルはキッドを見上げた。』

「……………………」
なんとも形容しがたい表情で、キッドは手元の本を見つめた。

死武専の廊下で、目の前を歩いていた女生徒が本を落とした。
隣を歩く友人との会話に夢中だったのだろう。
本を落としたことに気づかず歩いてゆく女生徒に渡してやろうと、本を拾った。

落とした本を拾い上げたとき、たまたま開いたページに書かれていたのは、なんと級友であるソウルとキッドの濡れ場シーンだった。

質の良い、革製のブックカバーに包まれた、A5サイズの本。
ブックカバーは使い込まれていて、絶妙な色合いを出していた。
キッドは、一目でそのブックカバーが気に入って、そのブックカバーを持つ見知らぬ女生徒にも好感を持ったばかりだったのに。
中身を見て絶句した。

「どうしたんだ、キッド?」
背後から声を掛けられキッドは反射的に振り返った。
そこに立っていたのはソウル。
今、一番会いたくなかった人物だ。
とりあえず、開いていた本を急いで閉じて、前を歩く女生徒を走って追いかけた。

「…おい!落としたぞ!」
「えっ?…あ、ありがとう…」

突然キッドに声を掛けられ、女性とは瞬時に顔を赤らめた。
顔を赤らめたいのは、こっちのほうだとキッドは思ったが、確かめなければならない事がある。

「この本、どこで手に入れた?」
「…もしかして、キッドくん読んじゃった…?」
「………拾ったときに…たまたま…だ。」

ばつ悪そうに呟くキッド。
それを聞いて、女生徒たちは黄色い悲鳴を上げた。

「…もしや、この本、結構な数が出回っていたりするのか?」
「この本、マカちゃんが発行してるから…」
「マカが?!」
「おーぃキッド、突然走り出してなんだよ?」
「きゃぁ!ソウルくん!!」

ここでソウルが登場したため、益々女生徒は盛り上がる。
聞きたいことはまだまだあったが、キッドは仕方なくその場を立ち去る。

「何で避けるんだよ、キッド。」
「避けてはいない。俺は今忙しいだけだ!」

マカを探して追求するため、キッドはきょろきょろと教室の中を見ながら、廊下をずんずん進んでいく。

「んだよ、つれねーなぁ…」

ソウルに他意はないだろう。
友達同士でなんら不思議ではない行為でもあるはずだ。
が、ソウルがキッドの肩に腕を回してぐっと顔を近づけただけで、周囲から悲鳴のような歓声が上がった。

「…なんだぁ?!」
「………………」

驚くソウルと、米神を押えるキッド。
この歓声を聞く限り、あの本はかなりの数が出回っており、女生徒を中心に広く認知されている、と理解できた。

「ソウル、理由を知りたければ、まずはマカを捕まえることだ。」
「なんで、マカ?」
「…俺の口からは言いたくない。」

先ほどの半ページにも満たないページの中での、濃厚な二人の描写に、キッドは身震いした。
文庫本のような分厚いページ数の中で、あのような描写は一体全体の何%に及ぶのか。
キッドは考えたくもなかった。