キッドと湖


「ちょっと時間良いか?」
と声を掛けられたのが5分程前。
移動するから、とベルゼブブを出しながら、キッドに武器化を求められて。
「このまんまじゃダメ?」
と腕をキッド肩に回して問うと、とても嫌そうな顔をされた。
多少ショックを受けつつも、武器化してキッドの手に収まる。
「やはり鎌は持ちにくい」
とか、軽く文句まで言われ、正直俺はムッとした。
一応は恋人同士なんだよな?って確認したくなる。
そんな事お構いナシに、ベルゼブブで飛ばす事十数分。
とある綺麗な湖のほとりに来ていた。

風光明媚なその場所は、デス・シティー内にあってその殺伐とした雰囲気は無く、どこか厳かな雰囲気がする。
鬱蒼と生い茂る木々の間から、なぜか湖面に光が差して、キラキラと反射する光がまぶしい。

もしかして、このステキな場所を、俺と共有するために?と淡い期待をしながら武器化を解こうとしたその時。
俺は空を舞った。

「…はへっ?」

思わず、変な声が出た。
その一瞬後には派手な水音を立てて俺は湖の中へ。

慌てて武器化を解く。
思ったよりも水深が浅くてよかったと思う。
ギリギリで立つことができる湖面に頭を出して、俺を湖に放り投げた本人に怒鳴る。

「おいキッド!お前一体どういうつもりだよ!!」

キッドは残念そうに、そしてさもつまらなそうに呟いた。

「…やはり、湖の妖精とか、女神というのは嘘なんだな…」
「…は?」

正直、話が見えない。
キッドに呼び出されて、綺麗な場所に連れてこられて、てっきりデートだと思っていたのに。
湖の妖精とか女神?何のことだ、と首をかしげる俺に、キッドは詫びれもせずに続けた。

「斧を湖投げ込むと、女神が出てきて"落とした斧はこれか?"と問う話があるだろう?」
「…あぁ…そういえば、そんな話、童話であったような…」
「俺は、その女神に本物のソウルを返して欲しかっただけだ。」
「…本物の俺って…俺がそうだけど?」

それに、たしか湖の女神は、正直に答えたきこりに、金と銀の斧も与えたのではなかったか?
もしキッドが"本物の俺"とやらを女神に告げたら、俺が3人になってしまうのではないだろうか、と考えていると、
キッドは悲しそうに呟いた。

「…ソウルじゃない。本物のソウルは、攻撃を受けて"ぼげらっ"とか言う奴だった。
今の、変に気障なソウルは俺が知ってるソウルじゃない!!」
「…はい?」
「俺のソウルを返してくれっ!かっこよくて気障なソウルはソウルじゃない!
"COOLな俺様"とか言って、一歩ズレたらブラック☆スター並の、おっちょこちょいな奴だったんだ!」

飴玉みたいな瞳に涙を一杯にためて、うなだれるキッド。
うん。強烈に可愛いが、俺は今"手加減"という言葉を持ち合わせてないぞ。

とりあえず、泣いても喚いても誰も来ないような森の中。
湖でずぶ濡れの俺。
目の前には可愛い恋人。
その恋人の、あまりと言えばあんまりな発言。
いくら心の広い俺でも、キッドの言葉に軽く傷つく。
だから、多少、お仕置きしても、許されるよな。

ふう。と軽く溜息をして、俺は濡れた髪をかきあげた。

「キッド。」

湖の中からキッドを手招きする。
えぐえぐとしゃくりあげながらも、こちらに近づいてくるキッド。
本当に、お前って可愛い奴だよ。

俺はどんなお仕置きをしてやろうか、と舌なめずりしながら、キッドを湖に引きずり込んだ。