暴走妄想超特急


その日、マカと椿は24時間営業のファミレスに来ていた。
傍らにはもう何杯目になるか分からないドリンクバーのグラス。
マカは着色料が入っています、と言わんばかりの緑色の液体をストローで吸い上げる。

「もう、ダメ。あたし…無理…」
「ダメだなんて…ダメよ、マカちゃん。最後まで諦めちゃ。」

いつもの集中力はどうしたの?と苦笑しながら、椿も淹れなおしたばかりのハーブティーを口に運んだ。
先ほどから何度か注文をしたアルバイターも面子が変わっている。
シフトが交代したのだろう。
一体、どれほどの時間こうしているのやら、マカにはもう分からなかった。

ぐったりとテーブルに突っ伏して、目の前のまっさらな紙にシャープペンでぐりぐりと無意味な図形を描く。

「ほら、マカちゃん。昼間見た光景を思い出して?」

椿が優しくマカを諭す。
昼間に見た光景、マカはふと頭によぎるその光景を思い出した。

このファミレスには椿と二人、良く来るのだ。
昼間、まだ余裕があった頃、偶々外に目を向けると、道を通り過ぎるソウルとキッドの姿があった。

双方共にリラックスした表情で、手には珈琲の紙カップが握られていた。
歩きながら飲食する、という事にキッドが良く抵抗を示さなかったものだと思いつつ、椿と二人でソウルとキッドの観察を始めた。
ゆっくりと闊歩する様はまるで散歩を楽しむ恋人同士のようで。
勝手に二人でアテレコして楽しんだものだ。

『こんなところに新しい店が出来たんだな』
『あぁ、本当だ。覗いてみるか?』
『コレ(珈琲)持ったままでは無理だろう。』
『それもそっか…。じゃあまた今度だな。』
『そうしよう。』
『…キッド…』
『なんだ?』
『なんか埃ついてるぜ、髪の毛』
『む、本当か?』
『取ってやるよ、ほら』
『ありがとう、ソウル』

二人は本当に幸せそうに微笑み合いながら歩いていた。
少なくとも、窓越しにはそう見えた。
このとき、二人は誓ったのだ。
この妄想を糧に、頑張ろう、と。
次の新刊は落とすわけには行かない。
前回も落としてしまってコピー本止まりになってしまったのだ。

「…そう…そうよね、椿ちゃん!!
アタシたち、まだ諦めちゃダメよね!!まだあと3時間あるんだから!!」
「その意気よマカちゃん!」

マカを励ますと、椿はまっさらな紙にサラサラと筆を走らせ始めた。

「でね、ここはこうで、こうして…で、こう。」
「えっ鬼畜路線?」
「うん、と、言うより、強☆がいいかなって思うんだけど…マカちゃんどう思う?」
「……椿ちゃんって、顔に似合わずたまに過激だよね…」
「そう?」

にっこり微笑む椿の前には、両腕を拘束され、ソウルによって無理やりに体を開かれたキッドのラフ画が提示されている。
そのキッドの表情たるや、艶然としていて、実にマカ好みだった。
ゴクリ、と一つ喉を鳴らし、マカは頷いた。

「これで行きましょう!」

締め切りまであと3時間。
二人は腐女子だった。
今回の新刊は『神への冒涜』というタイトルに決まった。
中身は、ソウキド・☆姦もの。
深夜3時のことである。