暑中お見舞い


日本には『お盆』という風習があるらしい。
先祖の霊が年に1度、家族の元に帰って来ると信じられているようだ。
毎年この時期になると里帰りする椿にくっついて、中務家にやっかいになっていたブラック☆スターだったが、今年はなぜか行く気になれなかった。
マカに「なんで一緒に行かなかったの?」と聞かれたが、特に理由は無かった。
「何故?」と聞かれたその答えは「なんとなく」しかない。

椿がいない、一人の部屋。
特に何もすることがなくて、畳にごろりと横になる。
開け放した窓に視線を向けると、真っ青な空に白い雲。
軒下につるした風鈴がわずかな風を受けて、涼しげな音がする。

「夏…だなぁ…」

何気なく呟いて眼を閉じる。
蝉の声と風鈴の音、たまに行交う人の声。
狂気が広がりつつあるとは思えないほどの日常。

ぼんやり天井を眺めていると、郵便配達人がやって来た。
ポストに入れておいてくれれば良いのに、と思いつつも、呼び鈴に呼ばれて玄関へ行く。

「死神速達便でーす」

夏だというのに、頬まで隠れるほどの黒い詰襟。
目深に黒い帽子を被り、眼だけが爛々と赤く光っている。
その不気味な容貌からは想像できないほどの明るい声と共に、ブラック☆スターに差し出される、白い手袋に覆われた手。
その手には1枚のハガキ。

「サンキュ。」

一応礼を述べて受け取ると、配達人は軽く帽子のつばを持ち上げて、煙が消えるようにその場から消え去った。

ブラック☆スターは手にあるハガキに視線を落とした。
透明性の高い、数種類のブルーの球体が綺麗に配置されたハガキ。
なんとなく誰から差し出されたものかが分かり、どこか弾んだ気持ちで裏面を見た。

『暑中お見舞い申し上げます。
 毎日暑いな。これから行く。冷たい物でも用意しておけ。』

文面も彼らしく、ブラック☆スターは微苦笑を漏らした。
部屋に戻ってタンクトップの上に半袖シャツを羽織って外に出る。

「急に冷たいものって言われたって、椿もいねーのに用意できねぇよ。」

それでも、この暑い中わざわざここまで来てくれる彼のために、ブラック☆スターは買い物に出た。
とりあえず、彼がここに来たら、『暑中見舞い』の意味や、ただ遊びに来るだけなら、わざわざ速達じゃなくて、電話にしろ、とか。
言いたいことはたくさんあった。