そんなもん


「…今、なんとおっしゃいました?」

口調がおかしくなってしまうのは、この際仕方ないと思う。
だって、普通は驚くだろう。
突然家まで訪ねてきた次代の死神様が、
目の前のソファに座って優雅に紅茶を飲みながら、
俺に、

「好きだ。俺のものになれ。」

と宣言したのだから。
「なんだ、聞いてなかったのか?」とカップをソーサーに戻しながらキッドは言う。
いや、大丈夫。ちゃんと聞いてた。
うん、どうやら空耳じゃないみたいだな。
気持ちを落ち着けるために一つ、深呼吸をしてから、
一体どこから突っ込んだものか、と俺は髪を掻きあげた。

「一応言っておくけど、俺男だぞ。」
「見れば分かる。」
「シンメトリーでもねーし。」
「お前、俺を莫迦にしてるのか?」

剣呑な表情をするキッドだが、そのセリフはそっくりそのまま、俺が、お前に返したい。

「俺が、性別やアンシンメトリーの件を考えないとでも思ったか?」

ローテーブルに紅茶を置き、キッドは俺を見据えている。
キッドの言葉に俺は頷くしかない。
考えないはずはないだろうな、と思う。
何せ完璧主義者のキッドなのだから。

「…どんな思いで、今日ここまで来たか、お前に分かるか?
男で、シンメトリーでもないお前に抱くこの気持ちを、どう扱って良いか分からずに。
思い悩む俺を想像することは、容易いだろう?」

随分尊大な言い方だし、"シンメトリーでもないお前"という行は気になるが、確かに、想像するのは簡単だ。

「まぁ、お前が俺にどんな感情を抱こうが、俺にはどうにもできねーけど…。」
「出来るだろう?」

一体俺に、何が出来ると言うのか。
キッドの感情はキッドだけのものだし、俺がどうこうできる問題ではないんじゃないか?
と考えていると、キッドがテーブル越しに身を乗り出して、俺の顎へ、その指を伸ばしてきた。
案外華奢だな、とか、指と一緒に近づいてくる整った顔とか、"悪くない"と思ってしまっている自分を、頭のどこかで認識していた。

「俺のものになれ、ソウル。
そうすれば、俺が思い悩む事はない。」

ゆっくりと言葉を発する唇に視線が釘付けになる。
どこまでも"俺様"な発言に、キッドらしい、と笑うしかなかった。

「お前のモノになる見返りは?」
「俺が与えられるものは全て、与えてやる。」
「…太っ腹だな。」

満月のような瞳が優しく緩むのを見て、俺は誘われるようにそのまま目の前にある唇に吸い付いた。
男相手は無理だろう、と思っていたのに、割とアッサリと性別の壁を越えられたことに、自分自身驚く。

「重要なのは、魂、そうだろう?」
「あぁ、そうだな…。」

俺の驚きを見透かしたようにキッドは俺に囁いた。
当初の動揺はどこへやら。
俺はテーブル越しにキッドの腰を抱き寄せていた。