死神姫・10


「当たらずとも遠からずっていうか、まぁ結果的には一緒だから、そういう事にしても良いわ!」

半ばやけくそ気味に開き直ったエルカは、黒いフードつきのローブを脱ぎ捨てました。
死神姫は咄嗟にエルカとの距離を取ります。

「なんで『死』の呪いを掛けた櫛が効かないのかしら…」
「…俺は『死』を司る死神だぞ。そんな呪いが通用するわけ無いだろう。」

呆れたように呟く死神姫に、エルカはかっと紅くなりました。

「わ…わかってたわよ!それくらいっ!!こうなったら実力行使で…」

明らかに計算外、と魔女の顔に書いてありましたが、開き直った魔女は実力行使に出るようです。
この言葉に死神姫は身構えました。
普段、側用人としておいているトンプソン姉妹が居れば、武器化させて目の前の魔女を狩る事など朝飯前ですが、流石に武器なしで魔女と対峙する事は厳しい状況です。

(リズとパティが居ればこんな魔女など…)

くっとした唇を噛みますが、姉妹を置いてきてしまったので、どうしようもありません。

「よぉ、困ってるみたいじゃねーか。」

対峙する魔女と死神姫の間に、男の声が割って入りました。
魔女も死神姫も声のするほうを同時に振り返ります。
鬱蒼と生い茂る木々の間から、癖の強い銀髪をした、タレ目の男が姿を現しました。
その瞳の色は血よりも紅く、どこか餓えたような印象を与えます。
笑みをかたどる口端から覗く犬歯は鋭く、ゆっくりと茂みから二人へ近寄る動作は、まるで獰猛なトラが獲物を狙ってゆっくりと這出だしてくるようでした。

「…誰だ?」

毅然と問う死神姫に、男は笑って答えました。

「姫のピンチを救う、王子様ってヤツ。」

男はどうやら死神姫に加勢するつもりらしく、魔女エルカの様子を注意深く見守りながら、死神姫の隣に立ちました。