愛という名の劇物を飲み干すとき


白い大きな枕に散る、深い黒緑色の髪。
絹糸のように手触りが良さそうなその髪の毛は、一部白く色が抜けている。
真っ白なシーツにたゆたうように横たわり、眠る姿はとても綺麗。

「毒物を受け付けない体じゃ…なかったのかよ。」

呟くソウルの言葉に応えはない。
白いシーツの上の白い指先を握る。
触れればわずかに温かい。

「死神が人より先に死ぬなんて、洒落になんねーって。」

かすかにソウルの声が震える。
ソウルがキッドにその想いを告げたのが三ヶ月前。
今でもその時の情景がありありと思い出せる。
夕日に染まったデス・シティーはその全てを茜色に仕立てていた。キッドの頬までも。
それが、傾く西日のせいなのか、ソウルの告白のせいなのか、は後者だと信じている。

慌て、うろたえ、それでも真摯なソウルの言葉に頷いて。
ソウルは嬉しくて、その場で普段は髪の毛に隠されたその額へ、キスをしたことを覚えている。

それから、だ。
二人の関係は始まったけれど、キッドの体調は悪くなっていった。
「大丈夫か?」と聞いても「大丈夫。問題ない。」の一点張り。
けれどキッドの不調は顕著で、周囲が心配するほどだった。
ただ一人、死神様を除いては。

何も言わないキッドの代わりに死神様を問い詰めると、どこか怒りを含んだ声音で、けれど淡々とした口調でソウルに告げたのだ。

「キッド君は、生きることを放棄しちゃったんだよね。」
「…え?」

『神は全てを平等に扱う存在』だからこそ、ソウルの手を取ったキッドは、神としてふさわしくない、と自らを断罪したそうだ。
食事を取ることもしない。シュタインからの投薬や栄養剤の補給も拒否。
ただただ、今は死を迎えようとしているだけなのだという。

「わたしは死神で。どうしたって最終的に魂を狩るのがわたしの役目。分かるかなぁ?我が子の魂を狩らなきゃいけない、って事の意味。」

今にもソウルを射殺さんばかりの魂の波長よりも、ソウルはキッドの現状とその意志の強さにただただ慄いた。

「そんな…俺のせいで…?」
「それ以外に、何があるっていうの?
まぁ決めたのはキッド自身だから、わたしが何をいう事もないけどね。
でも、お前の魂だけは、苦しめて苦しめて、いっそ殺してくれ、と思えるほどにいたぶってから狩り取ることにしたよ。」

そんな問答もどこかソウルの中には響かず、ふらふらと立ち寄った死刑台屋敷。
リズとパティが何か言っていた気がするが、構わずキッドの寝室へと入った。

眠り続けるキッド。
既にかなりの生気が失われているように見える。
白い肌は蒼白に見えるほど。
呼吸を繰り返してはいるが、とても微弱で確かに『生きる』意志が感じられない。

「…どうして…お前は…死のうだなんて。
俺の想いが迷惑だったのか?俺がお前を好きだって言わなければ…」
「……ぅる……」

ソウルの独白に答えるように、キッドの瞳が開いた。
生気を欠いた瞳は、それでもなお綺麗だ。

「お前のせいじゃない。
お前の気持ちは嬉しかった。俺が、生きていて良かったと思える3ヶ月だった。」
「じゃあどうして!」

自然荒くなる語気に、キッドは困ったように力なく微笑んだ。

「仕方あるまい。俺は死神。
お前を好いた時から、魂の管理人として相応しくは無いのだから。」

存在理由がなくなった、と続けて、ソウルに指を伸ばした。

「俺がお前の存在理由には、なれないのか?」
「…ソウル…」
「俺の気持ちは、お前にとって毒以上かよ…」

涙声のソウルにキッドは綺麗に微笑んだ。

「愛に勝る劇物など、この世には存在しないのだと、俺も初めて知った。
そして、それはなかなか悪いものではない。」
「キッド…」
「もう、来るな。お前が辛いだけだ。」

悪かったな、と。
それがキッドの最期の言葉だった。

明日もまた来る、といい置いた筈なのに、死神様はその日のうちにキッドの魂を奪ってしまった。

ソウルに残ったもの。
それはキッドと過ごした三ヶ月の幸福だった思い出だけ。