死という名の神の手


「キッド君…」
「…父上…」
「仕方ないんだよ。コレは、ね。」

大きな手がキッドの頭に乗せられた。
二人の死神にとってプライベートルームである、この死刑台屋敷の薄暗い一室では、死神も面とマント、グローブを外している。
グローブを外してもなお、その手が大きいと感じるのは、
生きている長さの違いから来る経験の差か、それとも単純に『父親』としての存在の大きさからか。

その父を見上げる黄金の双眸には涙がたまっており、今にも零れ落ちてしまいそうだ。
黄金の双眸に対を成すような白銀の双眸が、息子を慈しむように見つめた。

「神に勝る命の長さなんて、この世に存在しないんだ。
…たとえ、魔女でもね。」
「だけど父上…もしそうだとしても、あまりにも、短過ぎじゃない…?」

ほろり、と瞳から零れ落ちた水滴を、死神の手が優しく拭った。
拭いきれずにキッドの頬を伝って顎から落ちた水滴は、彼が優しく抱きかかえる猫の骸に落ちた。
その猫の毛並みが水滴を弾き、まるで真珠のように見える。

「うーん…そうだねぇ…。そうかも知れないね。
この猫の事、キッド君大好きだったでしょ?」
「…うん…」
「なんか、むかーし、誰かが言っていたような気がするんだよねぇ。
神々が愛するものは若くして死ぬってさ。」

死神の言葉に、キッドの瞳が驚愕に見開かれた。
何かを告げようと口を開くが、その次が続かずに、結局息を深く吸い込むだけにとどまる。
そんなキッドの様子を見て、死神は更に続けた。
口調こそおどけているものの、内容はとても恐ろしいものだ。

「しかも、我々は死神だからねぇ。
愛した分だけ、魂を奪ってしまうのかも知れないね。」

それが、我々の愛し方だから。
胸中で死神はそう続けた。

「では…俺は…」

キッドの顔面が蒼白になり、唇がわななく。
死神は知っていた。
キッドが、クラスメイトのソウル=イーターへ少なからず好意を注いでいることを。
同じく、ソウルもキッドへ好意を向けていることを。

「我々が愛するもの、愛したものは、すべからく死ぬよ。
その天寿を全うするよりも、早く。」

だから、釘を刺す。
何者も愛してはいけない、と。
キッドが見つめるもの、愛する者は自分だけで良い。

「父上…それでは…俺は……」
「神はね、全てにおいて平等でなきゃ。
誰かを愛することは、タブーだよ。君のお母さんだって、わたしのせいで早くに死んでしまった。」

死神はキッドの両頬を包み込んで、キッドの額に自らの額を優しく当てた。
鼻先からは、子供特有の甘い香り。
子供とは言ってもとっくに少年の域に入っているはずのキッドから、ミルクのような甘い香りがするのも可笑しいが。

キッドの瞳から、とめどなく流れる涙をその手で受け止めながら、死神はキッドの唇に柔らかくキスを落とした。

「あらゆる生命の中に我々は存在するけどね、
でも、我々の中にあらゆる生命は存在しないんだよ。
キッド君が愛して良いのはわたしだけ。わたしが愛して良いのもキッド君だけ。」
「父上…」

キッドは死神から繰り返されるキスを受けながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
それはある種、諦観の様相を呈していて、死神は内心ほくそ笑んだ。

『死』という名を冠する神であるが故、人の魂をただのモノとして見るか、尊いものとして見るか。
死神は前者でキッドはおそらく後者。
それが分かっているからこそ、死神はキッドに甘くて緩い釘を芯に打ち付ける。

逃げないように、逃れられないように。
キッドに好意を寄せている存在は、ソウルの他にもいる。
けれど、キッド自身が高潔な存在であるため、彼が心を許しさえしなければ、その魂も、体も、汚されることはない。

小さな死神は、死神だけのもの。

死神は、キッドが抱える猫の亡骸をそっと取り上げ、魂のみ回収すると、その骸は瞬時に消してしまった。
これ以上、目の前の彼が悲しむのを見たくは無かった。

「君から愛を奪う代わりに、ほかの全てを与えてあげる。
悲しみや苦しみは、全て排除してあげるよ。」

それが、死神が与える愛と独占欲。