きらいキライ嫌い大好き


嫌いだ。
そうして無遠慮に俺に触れる指が。
何も考えずに振りまかれる、ちょっと卑屈な笑顔が。
職人を守るその揺るがない魂が。

「どうしてそんなに機嫌が悪いんだよ、お前は。」

呆れるような溜息を吐くソウル。
キッドは俯いたまま何も言わない。

今日は二人で街に出てきていた。
普段は互いのパートナーも、さらにブラック☆スター組も交えて行動するのだが、目的が『古書探し』だったため、少人数だ。
しかも、本来ならキッド一人で馴染みの本屋に行く予定だったのだが、道中ソウルに見つかり、現在に至る。

キッドはソウルの事が嫌いではないはずだった。
けれど、「俺も一緒に行く」と言い出し、共に歩き出してから20分。
ずっとパートナーであるマカとの話をされると、何故か気分が悪くなってきて。
それが表情に出てしまったのだろう。ソウルに指摘された次第だ。

「別に、なんでもない。気にするな。」

歩を進めながら、出来ればソウルが黙ってくれるか、別の話題に移行することを願いながら、キッドは目的地へ急ぐ。

「…そうか?」

不機嫌そうに見えるけどな、と続けつつも、ソウルは中断してしまった話を続ける。
マカの料理は不味くは無いが独創的過ぎて、たまについて行けない、だのなんだの日常の二人の生活振りなど。
聞きたくもない話が続けられた。

なぜこんなに不快な気分になるのか分からないまま、キッドは適度に相槌を打ちながら、ようやく到着した本屋の扉を開けた。

日中でも日があたらない、薄暗い路地の奥。
ぱっと見潰れかけたように見える本屋。
キッドはさっさと中に入って目的の古書を探し始めた。
ソウルは物珍しげに本屋の中を眺めながら、キッドの側を離れようとしない。
たまに触れる肩先に、キッドの方がドキリとしてしまう。

「…あまりくっつくな。」
「仕方ねーだろ。狭いんだから…」

そう言いながら、ソウルは背後からキッドの手中で広げられた本を見つめる。

「それか?探していた本。」
「あぁ。ずっと探していた。」

探し続けてようやく探し当てた本。
キッドは先ほどまでの不快感も忘れて手元の本に魅入った。
本来は深緑色の表紙だったと思われるその本は、若干日に焼けてはいたが傷みは少なく、状態もまずまずだった。
中身をざっと確認して満足したキッドは本を閉じて、体を反転させる。

「…ソウル…邪魔だ。」

いざ会計をしようと振り返れば、目の前にはソウル。
確かに狭い通路だ。その場に立たれると通ることが出来ない。

「ソウル…ど…」

退け、という前に唇が塞がれた。
ソウルの唇によって。

ほんのわずか触れたその唇はあっさり離れていったが、キッドは驚きのあまり立ち尽くしてしまった。

「…ばっかみてぇ…俺。本なんかに嫉妬して…」

ソウルの呟きに、キッドは数回瞬きを繰り返す。

「お前が、恋人でも見るような目でその本見るから。」

こんなつもりじゃなかったのに、と呟いてソウルは通路を歩いて行く。
キッドは今さっき唇に触れた温もりを思い出すように、そっと指で自らの唇を押す。

嫌いだ。
唐突に俺の心をかき乱す行動を取るソウルが。
でも…。

「嫌でないのは…何故だろうな…」

ふっと呟いた言葉を耳聡く拾ったソウルは、顔を赤らめながらキッドを振り返った。

「何か言ったか?」
「…いや…。お前も存外可愛いことをする、と思ってな。」

ソウルから語られるマカに嫉妬したように、キッドが見つめる本に嫉妬したソウル。
嫌い、だが、それ以上にソウルが好きかも知れない。
キッドはそう思った。