彼女の秘密


「あぶねぇ!」

教室移動中、目の前を歩いていたキッド組みのうち、キッドが階段を踏み外し、ふわりと宙に舞った。
咄嗟に腕を伸ばしてキッドの腕を捕まえ、抱きこみ、階段から落とすことだけは何とか回避した。

咄嗟の判断とは言え、良くやったものだ、と自分自身を褒めてやりたくなったソウルだが、腕の中のキッドの意識はなく、顔面は蒼白だ。
どこかぶつけてしまったのかも知れない。

「ソウル、キッド君を保健室に連れて行ってあげて。
先生にはわたしたちから説明しておくから。」

マカに言われ、ソウルは頷いた。
そして、キッドの体を抱え上げ、その重さが驚くほど軽いことに目を瞠る。
男にしては華奢な体躯だと思ってはいたが、まさかここまでとは。
ソウルはキッドを抱きかかえたまま慎重に階段を降りて、保健室に向かった。

「失礼しまーす」

保健室の扉を開けて入るが、生憎ナイグスは不在のようだ。
とりあえず、ソウルはキッドをベッドに寝かせて、襟を寛げてやる。
白い喉から鎖骨が露わになり、ソウルは少し息を呑んだ。
体重にしてもそうだが、肌理の細かい肌はまるで女性を思わせた。

「まさか、な…」

ありえない、とは思いつつも何の気なしにキッドの胸へと手を這わせた。
男同士であるなら問題ないはずだ。
けれど。
ソウルの掌を押し返す柔らかな弾力。
決してブレアや椿のように主張している訳では無いが、それでも男にはありえない感触を感じた。

「…ん…ソウル……?」

ようやく気づいたのか、キッドがとろんとした瞳でソウルを見やった。
その壮絶な色香に、ソウルは眩暈がする。
手を退けることも忘れ、キッドの体に触れたまま、体が硬直してしまった。

「何をしているっ!」

途端、意識がはっきりしたのか、キッドがソウルの手を払った。
その行動に、ソウルの思考回路も機能し始めた。

「や…わりぃ…そのっ…」
「…良い。男だと偽っていたのは俺のほうだ。
俺にも落ち度は、ある…」

恥ずかしかったのか、頬を染めてぷいっと視線を逸らし、キッドは肌蹴られたシャツを握り締めた。

「お前…本当は女…?」

ソウルのあまりと言えばあまりの問いに、キッドはぐっと言葉に詰まってから、今更の釈明は無意味だと気づいたのだろう。小さくコクリ、と頷いた。

「なんで…男だなんて嘘ついてんだよ…」

ソウルの問いに、キッドはためいき交じりで答えた。

「女の死神だぞ…。
死の女神、だなんてサマにならんだろう。」

死神とはもっと威風堂々、威厳のある孤高の存在なのだ、とキッドは熱弁をふるう。
父・死神を考えているのだろう。

「それにしたって、なんでお前が階段で足を滑らせるんだよ。運動神経や反射神経は抜群だろ?」
ソウルはベッドに手近なパイプ椅子を引き寄せ、キッドに問う。

「…その…軽い…貧血で…」

言いにくそうに、頬を染めながら呟くキッド。
さっきまでの勢いはどこへやら。
確かに、こういった仕草はそこらへんの女性と変わらないのかもしれない。

「貧血?ちゃんと喰えよー。
体重も軽かったし。俺にはその体型であれだけのスピードと重さのある攻撃できることの方が不思議だ。」

ソウルの言葉に、さらにキッドは頬を染めてごにょごにょと続けた。

「いや、その…丁度昨日から月次の…まぁその…何というか…始まってしまって…」

だから普段は大丈夫なんだ、と言いたかったのだが。

「月次のって…へぇ…キッド…もしかしてそれって…」

ソウルの口角が意地悪そうに上がり、キッドの頬は益々赤くなった。

「覚えていろよ、ソウル。4日後には八つ裂きにしてやる。
あと…みんなにはこの事は黙っていて欲しいのだが…」

このこととはキッドが女性である事を指すのだろう。
ソウルは神妙な顔で頷いた。

「それは、リズ・パティにも伏せておくのか?」
「いや、あの二人は知っている。」

リズとパティにだけ知らされていた、という事実に若干怒りを覚えつつも、ソウルはニヤリ、と笑った。

「いいぜ、約束してやる。ただし、交換条件だ。」
「…交換条件?」

いぶかしむキッドにソウルは努めて明るく告げた。

「お前、俺と付き合えよ。」