オレ、死神


「もー!何なの何なの!!」

デス・ルームのティータイム。
スピリットに梓も交えて、本日は甘さ控えめ生クリームトッピングの紅茶シフォンケーキに、ダージリンの組み合わせ。
紅茶シフォンケーキは、キッドが作ったものだ。
シンメトリーな型に惚れ込んで、最近良く作っては方々に配っている。
作るのは良いが、キッドとトンプソン姉妹では食べきれないのだ。

いつもの死神様ならば、キッドの作った絶品紅茶シフォンをコレでもかというほど褒め称えながら、ニコニコ笑いつつ紅茶を啜るはずなのだが。

「急に、どうしたんです死神様?」

慌てるスピリットはテーブルから立ち上がり、いきり立つ死神様を宥めようと手を伸ばした。

「だってさ!アラクネだのメデューサだの阿修羅だのさぁ!
わたしの世界で好き勝手し過ぎじゃない?!」
「…はぁ…」
「しかもノアだっけ?奴はわたしのキッド君まで誘拐してくれちゃって!!」

わたしのキッド君の行、"わたし"がとても強調されていたが、スピリットはスルーすることにした。
だんだんとヒートアップしていく死神様を宥めるのに必死だったスピリットは、梓にヘルプの視線を投げた。
当の梓は生クリームと紅茶シフォンの絶品さに頬が緩みっぱなしだ。

「ちょっと梓!お前も何とか死神様を宥めてくれよ。」

お面から鼻息まで飛び出そうな勢いの死神様を宥めつつ、スピリットは梓にバトンタッチを試みる。

「死神様。このキッド君お手製の紅茶シフォン、とても美味しいですよ。
これを食べてご機嫌を直してください。」
「ヤダ!そもそもなんで君らまでキッド君のお手製ケーキに舌鼓うっちゃってるの!」

梓の差し出した紅茶シフォンを撥ね付けんばかりの勢いで、さらにいきり立つ死神様。

「もー!嫌だよ!!魔女だの阿修羅だの知ったことか!
いっそオレがこの手で世界を終わらせてやる!!」

あろう事か理由も分からないまま800年前の死神様にスイッチが入ってしまった。
死神様の魂の波長で台風のような風が渦巻くデス・ルーム。

「もぅ…俺にはどうすることも出来ない…っ!」
「こうなってしまっては…キッド君を呼ぶのはどうでしょうか?!」
「キッドを?」
「はい。彼ならば、死神様を宥めることも出来るのでは、と」

荒ぶる死神様の魂の波長に耐えかねて、
とりあえずテーブルの下に避難したスピリットと梓。
一縷の望みをかけて、キッドを呼び出した。

「用って何?」

程なくして現れたキッドは、デス・ルームの惨状を見て片眉を上げた。
そして一人、鏡に向かって罵詈雑言を並び立てる死神様の姿を認めると、軽く溜息をついてその側へ寄っていった。

「スピリット、俺を呼び出すのは構わないが…。
何故、父上がこうなったのか、後できっちりかっちり説明してもらうぞ。」
「俺だって分からないよ!突然だったんだから!!」

テーブルの下に避難しているスピリットの横を通りぬけ、キッドは更に死神様に歩み寄る。

「父上。」
「…キッド…」

柔らかく声を掛ければ、死神様が振り向いた。

「どうしたんだい父上?」
「魔女や阿修羅が世界を狂気に染めるとか、壊すとか言うから…。それならいっそ私の手で壊してやろうと思って。」
「父上…俺は、この世界を気に入ってるよ。
仲間が居て、デスサイズスが居て。何より、俺の側に父上が居てくれる。その世界を、壊すの?」
「キッド…」

800年前の姿も徐々に現在の姿を取り戻す。
暴走気味の波長もだんだん押さえ込まれていった。

「俺は父上が大好きなんだ。
だから、俺を悲しませるようなことは、言わないで。」

キッドが高い位置にある仮面に精一杯の背伸びをして、触れた。

「…キッドくーん…ごめんよぉ…」

途端、おいおいと泣きながらキッドを抱き上げる死神様。
すっかりいつもの死神様に戻って、ちゃっかりキッドに頬擦りを繰り返している。

「分かってくれれば、もう良いよ。
それより父上、ティータイムの途中だったんでしょ?
抹茶シフォンも焼いたから、食べてみてよ。」
「うん!うん!食べるよ。
キッド君も一緒に食べて行くでしょ?」

わくわくいそいそとテーブルや椅子を直し、
お茶を淹れ直す死神様。
本当はこの後、授業があったキッドだが、そんな楽しそうな様子の父を見て釣れない返事は出来なかった。

「…まぁ…たまには…良いかな…」

父・死神の横に座り、スピリット・梓と共に、
ティータイムを過ごすキッド。

「で、一応聞くけど。
どうして父上は急に怒り出したんだい?」
「…キッド君…絶対怒らないって約束できるかい?」
「……努力はするよ。」

抹茶シフォンも紅茶シフォンも至福の表情で食べながら、
死神様はキッドの問いに答えた。

「わたしが駄々捏ねたら、キッド君が来てくれると思ったから♪」
「「…そんな理由でっ?!」」

声をハモらせたのはスピリットと梓。
キッドは軽く溜息をついて、ダージリンを口に運んだ。

「まぁ…そんなことだろうとは思ったけど…。
俺に会いたいなら夜、死刑台屋敷に戻ってきたら良いのに。」
「たまには一緒にティータイムもしたいでしょ♪
ま、わたしはキッド君さえ居てくれれば世界なんてどっちでも良いんだけどね〜」

物騒な事をさらりと言いながら、その日の死神様のご機嫌はすこぶる良かった。

「スピリット先輩。わたし、今とても転職したいです。」
「…俺も…。でも、あの人の側に居ないと、
何時世界が滅亡してもおかしくないからなぁ…」

デスサイズス二人の呟きは、ダージリンと共に各々の中へと飲み込まれた。