遠い先のこと


「椿は何を作っていたんだ?」
「…あぁ、確か、『お盆』とかいう風習の飾りだろ。」

いつものようにマカとソウルのアパートに集まって、他愛ない雑談をしながら一日を過ごしたその夜。
ブラック☆スターと椿は修行に行くと言い出し、夕方頃アパートを辞去していた。
キッド、リズ、パティもそろそろおいとましよう、という事でアパートを出てきたのだが。
炭酸飲料が飲みたい、というマカの要望を叶えるべく、ソウルが一緒に使いに出された次第だ。

分かれ道までの間、リズとパティはじゃれながら歩き、その数歩後ろをソウルとキッドが並んで歩く。

キッドが質問したのは、昼間、椿が野菜と割り箸を使ってなにやら作っていたものが何だったのか、というもの。
椿を真似て、パティもバナナを使ってキリンを作っていた。
よほどキリンがお気に入りなのだろう。

「お盆?」

キッドが重ねて問えば、ソウルがマカから聞きかじった日本に伝わる風習について説明を始めた。
こういう魂事にはキッドの方が詳しそうなものだが。
意外とキッドにも知らない事があるようだ。

「なるほど…。では、先祖が帰ってくるための乗り物として、
キュウリで馬を、ナスで牛を作るのだな。」
「ま、そういう事みたいだな。」
「しかし、何故馬と牛なんだ。どっちかにすれば良いものを。」

半袖のパーカーから覗く白い腕を組み、キッドは歩きながら小首をかしげた。

「来る時は、馬でなるべく速く。帰るときは、牛でなるべく遅く、ってのが起源らしいぜ?」
「…そうなのか…」

納得、と言った具合に頷くキッドに、ソウルはふと脳裏を掠めた疑問を口にした。
それは、もしかしたら口にして良い類のものでは無かったのかも知れないが。

「なぁキッド…。もし、ずっと先…さ。俺が……」

お前よりも先に死んで、お盆に帰ってくるとしたら…。
そんな莫迦な質問をしようとした事に、ソウルは自分自身に腹が立った。
キッドも、ソウルも一番気にしている事で、触れたくない確定的な未来の話。

「…安心しろ。ベルゼブブで迎えに行って、帰しはしない。」
「…え?」

キッドを見やれば、控えめな笑顔でソウルを見上げていた。

「馬より速い。それに、一度俺の元に来たのなら、帰さない。」
「それ…ズルくねぇ?」

キッドの言葉に思わず赤面し、にやける口元を咄嗟に右手で隠したソウル。

「あ、でも、あの世に戻らない魂は、地獄に落とされるだかなんだか、ペナルティがあったかもしんねー…。」

咄嗟に口を出た言葉は、なんとも色気の無いものだったが、キッドは気にした様子もなく、鼻で笑った。

「そうか。では、蹴り出してやるから、走ってあの世に帰るんだな。」
「…ひでぇ…」

呟き、天を仰いだソウルの左手に、キッドは自らの指を絡めた。

「一日でも永く、俺の側にいろ。」

その切実な祈りにも似た言葉に、ソウルは無意識に頷いた。