世界の終わりの始まり


やめろと言ったのに。
俺の体は特別製なんだから、お前が身を呈して守る必要など、ないのだと。
それでも。
『魔武器は主を守るのも役目』と引かなかったソウル。

その体がゆっくりと俺の腕の中に倒れこむ。


再び目覚めた鬼神。
混乱する世界。
あの時の仲間たちと、あの時のように鬼神と戦った。

ただ違うのは、俺が『死神』になったという事。
そして、ソウル・リズ・パティ・椿がデスサイズスになった事。

相変わらず俺はリズとパティを愛用していたし、この戦いでもマカとソウルはパートナーだった。

それなのに、何故…。
「戯けがっ!何故俺などを庇う!!」
リズとパティが慌てて武器化を解除しようとするが、それを制して傍らに置く。
ソウルが倒れたとは言え、今はまだ戦闘中だ。

「絶対に武器化を解くな。」
『わ…わかった…』

俺の思いのほか厳しい声に、少なからず動揺している姉妹と、勝手に己の手から飛び出したソウルに駆け寄るマカ。

「ソウル!」

声を張り上げてパートナーの名を叫ぶマカの姿は、悲痛だ。
俺の腕の中にどろりと生暖かいものが広がってゆく。
そして、腕に抱く体からは体温が奪われる。

「キッド…怪我、ないか?」
「ある訳ない!」

俺に怪我はない。お前が庇ったのだから。
良かったと微笑むソウルの顔を張り倒したい。

今はこちらを気にしながらも、ブラック☆スターと椿が新たなる鬼神と戦っている。

「マカ、リズとパティは使えるか?」
「…え?」
「時間を、繋いでほしい。」

俺たちはもう、一つの武器しか使えない訳ではなかった。
確かに、実際のパートナー程相性は良くないが、以前のようにブラック☆スターがソウルを使えない、という事はない。
マカもリズ・パティを使いこなすことができる。

「…わかった…」

瞳に涙を浮かべながらも、マカは力強く頷いてリズとパティを取り上げた。

「わりぃ。こんな時に…足ひっぱっちまった…」

クールじゃねぇと力なく笑うソウル。
血の気が引いて、顔色が蒼白になっていくその顔に。
弱々しくなっていく掠れた声に。
吐き気と怒りが込み上げる。

「もういい。しゃべるな。」
「…怒ってるか?」
「怒ってない!」
「めっちゃくちゃ怒ってるじゃねーか。」

舌打ちと共に告げた言葉に、こんな状況でもソウルはしょげる。
あぁ、クソっ!本当にハラワタが煮えくり返る。
こんな状況でもこの男は。

「お前は真性の莫迦か。
こんな…死にそうな状況でしゃべるなと言っているのに!」

今この状況で応急処置できるはずもなく、命を残すというより、延ばす、という事しかできそうにない。
俺などを庇うから。

「人間ごときが神を庇おうと思うな!
傲慢も甚だしいぞソウル!!」

違う。本当はこんなことが言いたいんじゃない。
ひでぇと笑いながら、力なくまぶたを閉じるソウル。
頼むから、頼むからこのままだなんて、終わるだなんて。
信じたくないし、認めたくない。

「俺に…恋人を盾にした死神として生きていけというのか、お前は…」

ソウルの血の気の引いた頬にいく粒も水滴が落ちる。
銀糸のような髪の毛にも。
懇願にも似た呟きに、ソウルが困ったように微笑んだ。

「…雨、降ってるぞ、キッド。」
「死ね…」

どっちだよ、と呟くソウルにもう力はほとんど残っていない。
閉じられた瞼に触れる。あの紅い瞳が見たい。
かさついた色のない唇にキスを落とし、俺はソウルの耳元で囁いた。

「…許す。俺のために、死ね。」
「それって、魔武器にとってサイコーの栄誉じゃん。」

驚いたように、一瞬だけ現れた血の瞳。

「お前を、俺の中に迎え入れよう。ソウル…。」

俺に大量に付着しているソウルの血。
魂のもう一つの形。
指先についたソレを、俺は舐め取った。
そしてもう一度ソウルに口付けを。

力なく落ちたソウルの腕。
それが最期だった。

ソウルが事切れた瞬間。
魂が暴走するのが分かった。

膨れ上がる魂の波動。
怒りなのか悲しみなのか、それとも…

鬼神と同じ、狂気か。

「キッドくん…ダメ!!」

マカが何か叫んでいた気がする。 けれど、今の俺には届かない。
爆発的に膨れ上がる魂。
鬼神の狂気すら圧倒する死神の魂。

マカの手から、俺の魂に呼応するかのようにリズとパティが引き寄せられた。
両手に銃を構え、鬼神に向けて乱射する。
けれど、正確に一点だけを狙って。

死神となった今の俺が、魂を暴走させてしまったら、世界の半分を破壊しつくしてしまうかもしれない。
けれど、マカの静止の声すらもう耳に入らない。
ブラック☆スターが、俺の魂の余波を受けて、吹き飛ばされているのを視界の端に捉えても。

「神の荒霊を言うものを、その身をもって知れ、鬼神。」

思いのほか、静かな声だと思った。
それほどまでに、赦せなかったのだ。
俺自身が。
鬼神ごときに、ソウルの魂を奪われた、俺が。
荒ぶる全ての魂の波動を、リズとパティに送り込む。

『…っう…キッド…これ以上は…無理っ』
『キッドくん!…耐えられないよっ』

キャパ超えを訴えるリズとパティの声すらどこか遠くに聞こえて。
姉妹を気遣いながらも、二人が失神しないギリギリの量を見極めて魂を送り続ける。
もちろん、俺とてここまでの魂の放出は危険だ。
それでも。
限界を超えても。

体が軋む。
視界が歪む。
みしり、と魂に亀裂が走る。
この魂の質量を受け止めている姉妹の負担は、一体どれほどのものだろう。
どこか傍観している俺自身が、リズとパティを心配している。

が、もう止めることは出来なかった。そして、射出する。
すでに乱射を浴びて消耗していた鬼神へのダメ押しの一撃。
巨大な死神の魂をまともに受けて、あっけなく散ってゆく鬼神の魂と、鬼神のために集められた魂の群れたち。
始めから、こうすればよかったのか。

死神の魂の大半を流し込まれ、武器化を保っていられず、人型でその場に倒れこむ姉妹。
それを横目に俺も両膝をつく。
ずきずきと痛む胸は、魂に亀裂が入ったからか、それとも。

駆け寄るマカ、ブラック☆スター、椿。
救援を連れて遅れてやってきたクロナ。
何か声を掛けられたような気がしたが、もう、どうでも良い。

俺の魂が、鬼神と共に世界の半分を吹き飛ばした。
平和と人々の安寧のために。
魔武器が、死神を守ったが故に。







この小咄はちょっと改訂が多めに入っています。
そして、キッドがソウルに死を許す部分は、"花咲○る青少年"の、一部から
雲、"花咲○る青少年"が大好きであります。
華僑の若きボス、黒髪の美丈夫が大好物です(*´∀`*)