無防備


年に一回の健康診断。
メデューサが学校を去ってから、保健室はナイグスの管理となっているが、流石に死神様の健康診断はシュタインが行っていた。
もちろん、死神様の息子、デス・ザ・キッドも同様だ。

「特に、悪い部分はありませんね。至って健康体ですよ。」
お気に入りのキャスター付きイスをくるくると回転させて、シュタインはカルテを見る。
キッドは検査着から平服に着替え、ボタンを留めていた。
「体のつくりは他の生徒より頑丈だからな。」
相変わらずシンメトリーな服を手際良く着込み、シュタインの横からデスク前に照らされたレントゲンを覗き込んだ。
「大丈夫。魂の劣化もありませんよ。」
そんなキッドをイスから見上げながら、ふとシュタインはほっぺたに糸くずがついているのを見つけた。
おそらく、服を着替えた際、糸くずが付いたのだろう。

「キッド君、糸くずが付いていますよ。」
シュタインは自らのほっぺたを指差して、キッドに場所を示す。
指し示された場所を手で探るが、どうにも微妙にずれて、糸くずは取れない。
もうちょっと右です。いきすぎです。ちょっとだけ左です。
などとシュタインに言われ、そのうちキッドはぷくっと頬を膨らませた。
「…とってくれ。」
「仕方のない子ですね。」
やれやれと首をすくめて、キッドの頬に手を伸ばす。
滑らかな肌に、大人の無骨な指が触れる。

そこで、シュタインはふと興味を引かれた。

「目を、閉じてください。」

言われるまま、素直に目を閉じるキッド。
そんな様子に苦笑を禁じえない。
ほっぺたについている糸くずを取るのに、目を閉じる必要などないのに。
一体この子はどこまで素直で、人を疑うことを知らず、無防備なんだろう、と。

キッドの頬に触れ、糸くずをつまむ。
そのまま指を顎に滑らせて、イスから立ち上がる。
中腰の状態で、無防備な唇にキスを落とした。

瞬間的に金色の双眸が開いて、シュタインを突き飛ばす。

「…っ…なんて教師だ…」
忌々しげに呟いて、唇を拭うキッド。
「拭われるのは、流石に傷つきます。」
へらへらと笑いながら、シュタインはイスに戻った。
「健康診断中、悪戯しなかっただけ感謝してください。」
ぽんぽん、と頭を撫でられ、キッドは俯いて黙ってしまった。