関白宣言


普通、こういうキャラは生活力ないのが普通だろう。
それなのになんだ、この完璧さは。
いや、彼だから『完璧』なのか…。
ソウルは目の前の光景に軽くめまいを覚える。
そういえば、実家に居た頃はこんな風景が日常だった。
決して広いとはいえないキッチンに立つのは、マカから贈られたピンクエプロンをつけたキッド。
リボンが大きめなのは、彼女なりの洒落のつもりなのだろうが。
キッドが右に左に動くたびに後ろで結ばれたリボンがひらりひらりと舞う。
そのリボンを解きたいなぁと思うのは男の性か。

いや、論点はそこではなく。
そもそも昔見た光景は母親のエプロン姿であって、決して男子がするものではなかった。
そうセルフツッコミを入れるソウルの気配に気づいたキッドが、満面の笑顔で振り返った。

「あ、おはようソウル。顔は洗ったか?」
「…あぁ。」
「じゃあ早く席に着け。
温かいものは温かいうちに!お前の信条だろう?」
「…あぁ、まぁ。」

言われて食卓につく。
新婚家庭ではごくごく一般的な2LDK。
つい最近二人で借りた部屋だ。
まぁ、ひょんなことから二ヶ月前に婚約して、あれよあれよという間に結婚し、ただいま新婚一ヶ月目。
世間もうらやむ(?)ラブラブ状態、のはず…だ。
笑顔のキッドに鼓動が早まるのは、絶対に周囲がはやし立てるからだ。
そう結論付けて、ソウルは食卓に並ぶ料理に目をやる。

湯気の立つ紅茶にスライスレモン、
カリカリに焼けたベーコンとこげ色も美味しそうなトースト。
ジャムは常に3種類は並んでいて、どれもこれもキッドのお手製なのだから脱帽する。
目玉焼きはソウル好みに白身は堅く、黄身は半熟だ。
サラダはホワイトアスパラやらコーンやらプチトマトやら、目にも鮮やかで。
もちろん、ドレッシングもキッドの手作り。
野菜がたっぷり入ったポトフ風のスープの味付けも絶妙だ。

そう。全てにおいて完璧。
この上ない朝食。
新婚家庭で、美味しそうな匂いで目が覚めて、
新妻(?)がエプロンつけてキッチンに立っているのだ。
文句のつけようがない。

けれど…だけど…。
だからこそ、ソウルには一言、キッドに言っておきたいことがあったのだ。

「キッド…」
「どうしたソウル?食べないのか?」

きょとんと小首をかしげるこの可愛さは一体なんなのか。
女の子が好きだったはずなのに。
目の前に座るのは間違いなく男で、死神のキッド。
いや、もうこの際そこに突っ込むのは諦めるべきか…。

そう、他に言わねばならない事があるのだ。
今日こそは。
いつもいつもキッドのこの小悪魔的(?)仕草にやられてきたが、今日こそは言わねば。

「キッド!」
「…はいっ!」

突然大きな声で呼ばれて、キッドは背筋を伸ばして返事をしてしまう。

「俺、朝は和食派なんだ!
出し巻き卵に大根おろしは必須で、一汁二菜!これはたとえ相手がお前でも譲れない!」
「わ…わかった…明日から…気をつける…」

ソウルの厳しい語調とひょうじょうに、怯えたように目尻を紅くして、今にも泣き出しそうなキッド。
ソウルはキツく言い過ぎたか、と反省したが後悔先に立たず。
その後、朝食は無言で終わってしまった。

対するキッドは…

(こ…コレが噂に聞く関白宣言…?)

と、実はドキドキしていた。