ヘタレ神


「うぅ…二階の廊下の手前から3つ目の窓のカーテンを、ちょっと開けてきてしまったかもしれん…」

このキッドの一言に、トンプソン姉妹はまたか、と大仰に空を仰ぐ。

「キッド…いい加減にしろよ。今朝ぜんぶきっちりかっちり調べただろ…。
(おかげで今日も3時間遅刻だよ…)」

他の通行人も気にせず、道のど真ん中でへたり込み、どんよりと頭を抱え込むキッドの後ろ姿に蹴りを入れてやりたいところだ。

「果たして本当にそうだろうか。
もしも、万が一にも、億が一にも、1mmだってカーテンが開いていたら、オレはカーテンに全否定されるんだぞ…」

おろおろそわそわと、落ち着きなくさまよう視線。
いつもすっきりと澄み切った、濁りも澱みもない瞳が曇り、
瞳にじんわりと水分が溜まってきているのは、見間違いではないようだ。

「キッド…」

リズは半ば呆れ、テンガロンハットを右手で深めにかぶりなおす。
これは、いつものパターン。
最終兵器、パティの鶴の一声が必要だ。
ひとつ、溜息を吐いて咳払いもして。
リズは背後で、蟻の行列を眺めていたパティに声を掛けた。

「パティ、悪いけど。いつものアレ、頼むわ。」
「おっけーおねーちゃん♪」

しゃがんでいたパティがスクっと立ち上がる。
トンプソン姉妹は、妹のパティだってキッドよりも背が高くスタイルが良いので、二人並び立つサマは相当迫力がある。
加えてスラム上がりの肝っ玉も持っているのだから、凹んでいる最中のキッドが敵うはずもない。

「んじゃ、いっくよー。」

にっこり笑っていたパティのその笑顔が、
天使の微笑みから悪魔の冷笑へと変貌する。

「カーテンごときで凹んでんじゃねーぞ、このヘタレ神。
後ろから犯し倒すぞ、コノヤロー」
「ちょ…パティ…?
おねーちゃん、なにも、そこまで言わせるつもりはなかったんだよ…?」

あんまりの内容に、ドン!と構えていたリズも焦り始める。
そして、当のキッドはと言うと…

「こらパティ!
お前…!女性が『犯し倒す』とか…なんて言葉を!!」
もっと恥じらいを持て恥じらいを!と顔を真っ赤にぷんすか怒り始めてしまった。

一応、キッドは元気を取り戻したものの、リズの心中は大層複雑なものだった。