『もう…やめてくれ…』
蜜色の瞳が苦痛に歪んでいた。
オレはそれを無視した。

今、目の前に横たわる体は……
オレの、罪の証。











どうしても欲しくて欲しくて、
でも求めても手に入らないと思っていたから半ば諦めていた。
ただ、目の前にころりとチャンスが転がってきて…。
一瞬だけ躊躇ったけれど、結局オレは欲望のままにそのチャンスを掴んだ。
そして、踏みにじった。一番、失くしてはいけないものを。


「キッド…」
体には、陵辱の痕。
他ならぬ、オレが残した痕。
気を失っていたキッドも気がついたらしく、焦点の合わない瞳で周りを見渡す。
うつぶせが苦しかったのか、両腕を着いてソファから体を起こそうとして失敗する。
「っ…い……っ…」
下半身に痛みが走ったのか、再びソファに体を沈ませるキッドに手を伸ばす。
その手を認め、さらに視線を上げるキッドは、視界にソウルの顔を収めると明らかに怯えた表情を見せた。
本当は、そんな顔をさせたいんじゃなかった。
くだらないことで笑いあって、お互い良い関係を築きたかっただけなのに。
今更ながら自分の失策を悔いるが、今ここで引き下がってしまってはいけない、と感じた。
「キッド…オレ、謝らないからな。」
「…貴様…人を陵辱しておいて随分な言い分だな。」
うつぶせたまま、ソウルを睨みつけるキッドの声にはいつものハリがない。
当然だ、散々泣かせたのだから。
「オレの前で無防備になったお前が悪い。」
「…オレのせいか。」
鼻で笑うようなキッド。
上体を上げてソファの周りに散らばった服をかき集める。
その中から何とかシャツだけ羽織って、キッドは前をかき合わせた。
頬に残る涙の痕や、まだ上気した目元、身体中に残した鬱血。
白い肌に白いシャツから見え隠れする紅い花弁のような痕がソウルを誘っているようだった。
「また、お前がスキを見せたら俺はそれにつけ込む。
つけ込んでまた抱く。何度でも。」
ソウルはキッドの頬に指を滑らせた。
指先が頬に触れる瞬間こそ体を引いたが、ソウルを睨みつけて強く言葉に力をこめた。
「もう、スキなど見せない。何度も良いようにはされない。」
これ限りだ、と強く。
「…どうかな。やってみろよ。」
ソウルは人の悪い笑みを浮かべて、キッドの顎を固定した。
そのまま嫌がるキッドに強引に唇を寄せて、非難の声を上げようとしたその声ごとキッドの唇を奪う。

ほら、もうこの小さな死神様は、スキを見せてる。

長い接吻のあと、キッドを解放するとソウルは黙って部屋を後にした。





ソウル=イーター。
莫迦な男だ。
これでもう、お前はオレから離れられない。
本当に、お前がオレに付け入る隙があるとでも思っているのか。
オレが作らない限り、隙なんてあるはずがない。
仮にも死神。武器ごときに遅れは取らない。

オレがお前を欲したから今がある。
お前はこれから死ぬまで"死神を陵辱した武器"としてその枷を背負いながら、
オレに囚われて生きていけばいい。

決してオレから逃れられると思うな。
死してもなお、お前の魂を束縛し続けてやる。

それが、死神に惚れられた人間の末期。
骨の髄どころか魂の核までも、全てがオレのものだ。
覚悟しておくがいい―――。



ソウルが出て行った部屋の扉を気だるげに見つめ、
キッドは喉の奥で嗤った。
体内に残るソウルの残滓さえも愛しく感じられる。

「オレは、狂っているのかも知れないな…」
こんな方法でしか、手に入れられない。

自らの体を抱きしめ、視界に入る鬱血に指を這わせる。





ソウルが残した痕。キッドが仕掛けた罠。








たまには性悪キッド。

ソウルがキッドをやっちまうんですが、それもキッドの計算のうちよ、みたな。
計算キッドたん。