収奪





BREW。
コレクション対象の一つ。

死神。
コレクション対象の一つ。

美しく未熟なモノ。
コレクション対象の一つ。

私のコレクション対象は「すべて」
すべてをコレクトし、私が「すべて」となるのが望み。

そう、私は強欲な収集家-コレクター-、ノア。

けれど…。


「死神くん、あなたの名前を教えてください」
「貴様に名乗る名など…」
「良いんですか?私は、一瞬で殺せますよ?あなたの大事な武器。」

あぁ…いいですね。その表情。
私を蔑む黄金の瞳は何よりも私のコレクター魂を刺激します。
ゾクゾクと背を走るこの感覚。何よりも私を恍惚とさせる。

「あなたは間違いなく、私にとって最高のコレクション。
そんなあなたが『死神』という名詞だけではあまりにも失礼でしょう?
もしあなたが名乗らないのなら…僕があなたにふさわしい名前を付けても良いのですよ?」

私を睨みつける『死神』。
ただの人間が神をコレクトする。
まさに神をも恐れぬ所業。
だけど、誰も私を止めることはできない。

「…デス・ザ・キッド…」

屈辱にゆがむ唇。
震える声すら愛おしい。

「デス・ザ・キッド…良い名ですね。
まさに、『死神』をあらわす名だ…。でもあなたにふさわしい名ではない…」
「貴様…父上が付けてくださった名を愚弄するか…」
「あなたの名は今から"エムザラ"にしましょう。」
「人の話を…」
「あなたも神の一人なら、聖書くらいはご存知でしょう?
聖書には"ノア"の妻の名は記されていない。けれど、私の一族には伝わっているのですよ。
ノアの妻の名。非常に高潔な方で"エムザラ"と言ったそうです。
あなたにふさわしい名でしょう?」
「それではまるで…」

キッドの白に映える紅い唇を褐色の人差し指が押える。

拘束しているわけではない。
けれど目の前のキッドは動かない。否、動けない。
モスキートを倒した私との圧倒的な力の差。
本の外にいる武器の命を握られていること。
どちらにしても今のキッドに勝ち目はないのだから。
抵抗せずに大人しくしているのが得策と考えての事だろう。

私が少しでも隙を見せたら逃げ出そうと算段しているのだろうけど。
きっとこの本からの脱出方法も考えているに違いない。
キッドの前に姿を現したとき、明らかにこの子の表情は安堵していた。
おそらく、私が本の中に姿を現したという事は脱出方法があると気づいての事だ。
頭も良い。
ますます惚れ込んでしまう。

「そう。君は私の"妻"になるんですよ。」

コレクション対象に愛情を注ぐのは当然として、
これほどまでに愛おしいと、偏った愛を注ぐのは初めてかもしれない。

「莫迦な!神が人と婚姻するなど…」
「でも、契ることはできるでしょう?」

黄金の双眸が大きく開き、私を見つめる。
白い肌に私の褐色のコントラストが目を引く。
信じられないと言いたそうに開いた唇にそっと親指で触れると、
戦闘の砂埃に曝されて少々カサついていた。
漆黒の髪にも埃がついてしまっている。
白と、黒、そして黄金と紅。

「まるで、芸術品のような美しさですね、あなたは。」

呟けば、ほんの少しだけ正気が戻る瞳。

「戦闘で疲弊しているはずなのに。こんなにも美しい。」
「俺が美しいというのなら、それは貴様とは違う健全なる魂のせいだろうな。」

吐いて捨てるような言葉さえ、愛おしいと思える私はどうかしているのかも知れない。

「…健全なる魂は、健全なる精神と、健全なる肉体に宿る…でしたか?
では、試してみましょうか。
あなたの健全なる魂が、健全ではなくなってしまった体にも宿るのか。
宿ったとして、魂が健全に保たれるのか。魂が健全でなくなってしまっても、
あなたの美しさに翳りがでるのかどうか…」

頬を指でなで、はねる襟足の髪の毛に指を通す。
耳裏をくすぐるように外耳の輪郭を撫でて「ザ ライン オブ サンズ」と呼ばれる白いラインをゆっくりと辿った。

「私の"エムザラ"。今からあなたを本当の私の妻にしましょう。」

私と、契ってください。

耳元で囁いて、死神の仮面を模したブローチをはじく。
宙に舞ったそれをキャッチして握りしめると簡単に砕けた。

きっちり着込まれたスーツとシャツをゆっくりと肌蹴させる。
逃げもせず、私を睨みつけるあなたの潔さ。
ただ、これから起こることへの恐怖を伝えるように細かく震える体。

未成熟な精神と、体。
意志と衝動。

「誰よりも、何よりも愛してあげますよ。
私は収集家-コレクター-ですから、お気に入りの品は、特に…ね。」
「戯け…貴様は収集家-コレクター-ではない。略奪者ではないか。」

俺から、何もかもを奪う、と続けた死神の屈辱に耐える顔。

「いいですね、略奪者。
あなたを手に入れたときも、言ったはずですよ。"収奪"と。
私を"略奪者"と呼ぶなら、それも良い。」

ただ、あなたが私に捉えられた事実は変わらない。
あなたがこれから私と契る現実も変えられない。
あなたの力ではここから抜け出すこともできない。
だから、あなたはここで私の妻に…"エムザラ"になる。



なんて幸運。
そして私はこの幸運を逃すほど、愚か者ではない。
BREWと、あなた。
二つを手に入れる。








14巻を読んで。

ノアキドです。
コミックス派なので、あのちょっとのページだけではまだまだノアが掴みきれませぬ。。。
あぁあ…キッドたんどうなるんだYO!
でも本の中でノアにエロい事されていれば良い。
んでノアは死神様の逆鱗に触れると良い。