壊したくなかった関係を先に壊したのはソウルの方なのに。 これはそれを受け入れてしまったアタシへのあてつけなの? 好きだと囁く声は、一体誰に伝えたい言葉なの? 優しく抱きしめてくれるこの腕は、本当は誰を抱きとめたいの? ソウルを受け入れて、抱かれて、愛を囁かれて。 幸せだと感じたのはほんの一瞬。 気づいてしまったアタシの心は音を立てて軋む。歪む。壊れていく。 ねぇソウル、あなた本当は誰を見ているの? 哀愁ピエロ 「…もう、こんな関係やめよう。ソウル。」 「どうしたんだよ急に。」 死武専をトップの成績で卒業して、望みどおり最高の鎌職人になったマカ。 99個の悪人の魂と1個の魔女の魂を無事に食べてデスサイズとなり、 今やキッドの武器として活躍しているソウル。 その二人が付き合っている事実は、当時の死武専の仲間には周知の事実で、 実際結婚秒読みとまで言われていたのに。 マカは急に"別れたい"と言い出した。 シンメトリーの武器しか使わないと公言していたキッドだったが、 今回は運悪くトンプソン姉妹を別任務に出してしまった後だったため、ソウルが召集された。 その任務を無事にこなして、三日振りにソウルは恋人であるマカの元に戻った。 そして、三日振りにマカを求めてみれば、突然のこの言葉。 ソウルとしてもいまいち状況が飲み込めない。 「ソウル、キッド君と任務に出かけた後は絶対って言って良いほど求めてくるけど、それってどうして?」 「…どうしてって…そりゃ任務で離れてる時間が長いから…。 つーか、好きなヤツを抱きたいって思って何か悪いのかよ?」 殺伐とした任務から帰って、恋人の肌や温もりを求めてはいけないのか、とソウルは思う。 純粋にマカが好きだし抱きたいと思うのは当然だと思っていた。 逆に付き合っているのに肉体関係すら持たないのは、正直どうかと思う。 死武専で学んでいたときのような子供じゃない。 お互いすでに大人で、それでも二人で一緒に生活し続けると決めた時点で ソウルはマカに想いを告げたしマカもそれを受け入れた。 二人が恋人同士になって体を繋ぐ仲になるのは当然で。 ソウル自身はゆくゆくはマカと結婚しても…と考えていたのに。 「アタシが、何も気づいてないとでも思ってる?」 「…気づいてるって…なんの話だよ?」 「ソウル、本当はアタシの事なんて好きじゃないでしょ?」 「はぁ?」 マカの言葉に今度こそソウルは声を荒げる。 「急に何言ってんだよ。俺はお前が好きだって言ってるはずだけど?」 「違う。馬鹿にしないでよ!」 「マカ…落ち着けって。何をそんなに怒ってんだよ」 いつもとは違う雰囲気を感じて、ソウルは落ち着かせようとマカに腕を伸ばした。 抱きしめて、背中でも叩いてやれば少しは落ち着いて話ができる状態になる、そう踏んでいた。 けれど、伸ばした腕は力強く叩き落とされた。 「アンタはアタシを見てない。 ずっとずっと、アタシを通して"誰か"を見てた!」 「マカ?」 「アタシじゃない"誰か"に好きだと言って、アタシじゃない"誰か"をその腕に抱いてた!」 マカの言葉にソウルは目を見開く。 対するマカの瞳からは涙がこぼれ落ちた。 「…"誰か"って…誰だよ。俺はちゃんとお前を見てるし、お前が好きだって言ってるだろ? なんでお前が俺の言葉を否定すんの?」 一方的に否定されて、ソウルも不機嫌になってゆく。 今までこんなことは一度もなかった。 マカが、泣いている理由が分からない。 マカに、言われている意味が分からない。 否、分かりたくない。 だから余計にイラつく。 一体自分の何が気に入らなくてマカは急に"別れる"などと言い出しているのか。 しかも任務から帰って心身共に疲れている時に。 特に今回は死神・キッドとの任務で疲労状態はいつも以上なのに。 恋人なら優しく労って、やわらかいその肌で受け止めてくれても良いじゃないか、とソウルは思う。 「ソウル、あんた本当に解かってないの?そんなはずないでしょ?」 「だから、何がだよ。俺が好きなのはマカで、付き合ってるのもマカだろ?」 白い肌に、透明な涙が伝っていく。 マカが泣くところなど久しぶりに見た、などと心のどこかで悠長に思っていたら、 次のマカの言葉にソウルは衝撃を覚えた。 「アンタはアタシじゃなくて、キッド君が好きなんだよ! どうしてこんな事までアタシの口から言わせるの?」 寂しそうなマカの表情。 ソウルは一瞬頭が真っ白になった。 (今、コイツはなんて言った??) 「解からない訳ないよね?自分の気持ちのことだもん。」 (俺の…気持ち?) 「アンタはキッド君が好きなんだよ。 でも、その想いをキッド君に告げられずにいる。」 (俺が、キッドを…?) 「アタシをキッド君の替わりにして、 言えない言葉を、できないことを、アタシにぶつけてるだけ。 ソウルは、マカ・アルバーンが好きなんじゃない。」 (俺は…俺が好きなのは…) 「ソウル・イーターは、デス・ザ・キッドが好きなんだよ!」 (どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!!!!) 「これ以上、アタシの口から何も言わせないで!惨めな思いをさせないで!!お願いだから出て行って!」 (どうして、どうして、どうして…?どうして、お前がずっと隠してきた俺の気持ちを、言葉にする…?) 呆然と立ち尽くすソウルに、マカは手近にあったクッションを投げつけた。 「これ以上話したくない!!出て行けーーーー!」 マカに部屋を追い出され、ソウルは呆然と立ち尽くす。 マカの言葉。 隠し続けてきた自分の気持ち。 なぜ?どうして? 何が原因で彼女の口から発せられた? 自問自答するが、明確な答えは得られない。 ただ分かっているのは、もうマカの元ヘは戻れない事。 マカと以前のような関係に戻ることもない事。 そして―――。 マカ・アルバーンという代替物を失って、ソウルの欲望が向けてはならない本人へ… デス・ザ・キッドへ向かうだろう、という事。 |
マカごめん。 ソウルって実は酷いヤツだと思うんですよ。 っていうか、天然のたらし?みたいな…。 (ソウルもごめん…) 続きも考え中なので、もしかしたら続くかもしれません。 |