月夜に浮かぶ、月光を反射する白い身体。 その白く輝く身体が、ゆっくりと掛け布を引っ掛けるように起き上がった。 目元は赤く染まり、その顔には涙の痕がはっきりと残る。 身体には無数の赤い鬱血。 まるで薔薇の花びらのように散るその痕は、明らかに情事の後を思わせた。 掠れた声が、乾いた部屋に響く。 「随分と酷い仕打ちだな…」 月光 冴え冴えと輝く月。 先ほどまであんなにも空は赤く、夕暮れに染まっていたのに 気づけばもう太陽は消え、月が中天に昇っている。 問答と、沈黙、そしてまた問答、と繰り返し、気づけばもう何時間経ったのか。 発端はキッドの一言。 ただし、キッドに他意はなかったし、もしソウルの本心を知っていたなら、口にしなかっただろう。 キッドは仲間が、友達が出来たことが、ただ素直に嬉しかった。 その気持ちを、ソウルに告げただけなのだ。 「俺は、ソウルたちと出会えて良かった。 仲間になれて、友達になる事ができて、幸せだと思う。」 告げたキッドに、ソウルは冷たく突き放した。 「俺は、お前を友達だと思ったことはない。」 その言葉に、キッドの瞳は驚愕に見開かれた。 我知らず唇が震え、まじまじとソウルを見返していた。 「…それは……どういう…」 ソウルの拒絶の言葉に、キッドは乾いた唇を軽く舐めた。 「友達だと思ったことはない。お前の事は、もっとずっと…大切に想ってる。」 「ソウル…」 強い視線に、キッドはたじろいだ。 「俺は…お前の事を友達だと思っている…」 「俺は友達なら、要らない。お前とは、友達以上でいたい。」 「困らせたいのか、お前は」 冗談として流すべきか、真摯に受け止めるか、キッドは迷った。 真摯に受け止めるにはソウルの言葉は重く、キッドが望む『友達』にはなれないのだ。 ソウルは友情を拒否し、キッドに愛情を求めているのだから。 ソウルから目を逸らして、晒される視線から逃れた。 今はこの場を立ち去ってしまいたい。キッドはそう思って、踵を返す。 が、その腕はソウルに引かれ、逃れるどころかソウルの腕の中に納まってしまった。 「何を…」 口を開けば、キッドの唇に押し当てられる、ソウルの熱い唇。 すぐさま滑り込んでくる舌に、眩暈がした。 仲間だと思っていた。 友達だと思っていた。 いつも笑いあって、下らない事で喧嘩して、些細な事で真剣に悩んで。 そんな関係がキッドには心地良いものであったのに。 何故、どうして。 ソウルはそんな居心地の良いキッドの空間を壊そうとするのか。 訳が分からないまま、キッドはなし崩しにソウルのキスを受け止めた。 抵抗の二文字も浮かばないほどに、キッドの思考は混乱しているのだ。 絡めとられる舌 ざらつくような感触 そして、咥内に触れる舌が、ビリビリとキッドに痺れるような感覚を与える。 ここへきてようやく、キッドはソウルの身体を押し返した。 ようやく抵抗らしい抵抗を見せたキッドに、ソウルはあっさりと引いた。 身体が、腕が、唇が順に離れ、最後に二人の間を繋ぐ唾液が、ゆっくりと切れた。 「どういう…つもりだ…」 涙が滲んだキッドに、ソウルは熱が一点に集中するのが分かった。 「これで、友達にはもどれねーな。」 自虐的に笑うソウル。 泣きそうな表情のキッド。 背を向けるソウルを暫し見送ったが、暫くするとふつふつとこみ上げる怒りに、キッドは我を忘れてソウルを追った。 「待てソウル!」 怒りのまま、ソウルの腕を引っ張って、振り向かせた。 予想外の行動なのか、ソウルの瞳が驚愕に見開かれ、引かれる腕もそのままに、キッドに向き直る。 キッド自身にも、もう何がなんだか分からず、ただ、怒りをソウルにぶつけた。 「お前…一方的に言いたいことだけ言って、それでお前は満足なのか?! 何故、乱そうとする!何故、俺から大切な物を奪おうとするのだ!」 俺は消化不良のままだ!と叫び、続けて胸倉を掴み上げた。 その腕を、ソウルが払う。 「先に俺の想いから逃げようとしたのはお前だろ?文句言われる筋合いはねぇよ。」 「俺が何時逃げた!」 「今だろが!」 今度は逆にソウルがキッドの襟を掴み上げた。 「もう一度言うぜ、俺は、友達なら要らねーんだよ! お前が欲しい。お前の全部、全部俺によこせよ。それができねーならもう近づくな。」 「勝手な事を…!お前自分で何を言っているか、解かっているのか?!」 ソウルに掴み上げられ、二人の間にあるわずかな身長差が災いし、 キッドの踵が床から少しだけ浮く。 掴まれる襟を取り返すため、ソウルの腕に手を添えれば、逆にその手を掴まれた。 キッドがソウルの胸倉を掴み上げ、ソウルもキッドの襟を掴み、 空いている手でキッドはソウルの腕を掴む。 さらに、そのキッドの腕をソウルが掴むという、傍から見ればなんとも奇妙な光景。 けれど、本人達にその状況を冷静に見つめる余裕は、すでに無かった。 「百も承知だ!俺はデス・ザ・キッドが欲しいって言ってる。」 恥も外聞もない、ただ素直な欲求の発露。 キッドは瞠目する。 ソウルは少し引いたところで周囲を観察するような、 そういうタイプの人間だと思っていたからだ。 それが、こうして自分の願望・欲望を曝け出す。 それ故に言葉の全てが真実味を帯び、適当にあしらうことなど出来ない。 友達なら要らない、と言うのであればそれは真実。 キッドが欲しいというのも、真実。 だとすればキッドは、どの道を選べば良いのか。 友達として、キッドはソウルとの関係を深めて行きたいと思っていたのだ。 けれど、ソウルはキッドとは友達付き合いできないと断言している。 死武専の仲間として、絆を保たねばならないと思う。 誰が嫌だから、この任務はこなせない、などあってはならない事だ。 それすらもソウルは許さないのだろうか。 「恋人でなければ、お前の側には居られないのか…」 「俺の側に居たって、良い事なんかないだろ、お前には。」 「お前達といるひと時は楽しい。」 「はっ!知ってるか?そうしてお前は楽しく過ごしてるつもりだろうけどな、 そういうお前を見て俺が何を考えてるか。」 つかみ合った状態も、キッドも拒絶するように、ソウルは両腕を払って、乱れた襟を正す。 「嫌がるお前を屈服させて、服も引き裂いて、泣いてるお前を犯すこと考えてるんだぜ? それでも、お前は友達で居たいって言うのかよ。」 「……っ!!」 露骨な言葉にキッドが肩を揺らす。 「最初は泣いて俺を拒絶するけどな、最終的には啼いて、よがって、お前の方から腰振ることばっかり考えてる。」 ソウルはキッドを凝視して、「気持ち悪ぃだろ、こんなの。」と続けた。 「もう、妄想なのか現実なのか、俺にも分からねぇ。 いつ本当にお前を犯しちまうか分からねぇ。 だから、もう俺に近づくな。オトモダチで居たいなら、なおさら、だ。」 「……どうにもできないのか…。ソウルと同じ気持ちでないと、友達ですら、居られないのか。」 無言で背を向けたソウルに、キッドは俯いて唇を噛締めた。 どうしたら良いのだろうか。 このままソウルの背を見送ってはいけない気がしていた。 けれど、どう言葉を掛けて良いか、接して良いか分からない。 縋るように、キッドは知らずソウルの名を呼んでいた。 「…ソウ…ル……」 あまりにも悲し気な音に、ソウルが止まる。 苛立たしそうに舌打ちをして、振り返った。 明らかに、機嫌が悪そうな表情。あからさまに舌打ちをする。 「わっかんねー奴だな、お前も!」 言うなり、足早にキッドの下まで戻り、腕を掴んで乱暴に引き倒した。 「いっぺん、思い知れ。そんで、もう俺に近づくな!」 言うや否や、再び乱暴にキッドに口付け、力任せに衣服を引き裂いた。 乾いた空気に、ビリビリと布の裂ける音が響く。 どこか他人事のようにその音を聞きながら、キッドの腕は空をさまよった。 先ほどソウルが言っていた、ソウルの想像そのままに、服を裂かれ、 嫌がり、身を捩るキッドの抵抗を塞ぐ。 首筋に、鎖骨に、腕に、胸に、腹に。 そこら中に唇が舌が這い、チリっとした痛みを伴う。 今この身に起きていることを、ぼんやりと意識しながら、それでも力なく抵抗を繰り返すが、 完全に拒絶しきれないキッドの抵抗は易々と封じ込められた。 「良いのかよ、本気で嫌がらないなら、このままだぜ?」 ふっと口角が上がり、ソウルとキッドの視線が絡む。 どうして良いか分からずに、先にキッドが視線を逸らした。 「馬鹿な奴だな、お前。」 ソウルがキッドの耳元でささやき、そのまま舌先をキッドの耳孔に差し入れた。 ぴちゃり、と水音がし、身を震わせるキッド。 「……っ……ぁ…」 存分に耳を犯し、耳朶を甘く歯み、わざと息を吹きかける。 じっと耐えるキッドに、ソウルは嗜虐心と劣情しか煽られない。 そこに罪悪感も、後悔も一切無かった。 痛みも快楽も、すべてを植えつけるような行為に、キッドはただされるがままになっていた。 気づけば声も掠れる程に喘がされ、呼吸すら侭ならない。 痛いのか気持ちいいのか、内臓を揺さぶられる衝撃。 うっすらと瞳を開けば、瞳に溜まる水分でソウルの表情ははっきりと分からなかった。 ぼんやりとする視界 ぼんやりとする意識 ただ触覚と聴覚だけが過敏に反応した。 卑猥な水音と、信じられないほど甘い声。 酷い抱かれ方をしているはずなのに、どこか甘さも残すこの行為。 何度も何度も絶頂に導かれ、程よい疲労感に投げやりに体を投げ出せば、 体内に大量の熱を感じ、ソウルも果てたことを知った。 暫く、二人分の荒い呼吸が響く部屋の中、キッドが半身を起こした。 思いの他掠れた声に、キッドは自嘲する。 「随分と酷い仕打ちだな…」 「もうコレで懲りたろ。俺に近づくな。また、同じ目に遭うぜ。」 肯定することも、拒むことも出来ない。 嫌なら嫌、良いなら良い。白黒はっきりと付けられないこの状況がもどかしい。 掛け布を引っ掛けて起き上がったキッドは、軽い意趣返しのつもりでソウルに告げる。 「…お前の方から近づいてくる。この身が欲しくて、な。」 身体中に散らされた所有印を見せ付けるように、立ち上がった。 体内からソウルの放ったものがとろりと足を伝う。 その淫靡な風情に、ソウルの喉が鳴るのが分かった。 「性質悪ぃ…」 呟くソウルをその場に残し、キッドはシャワー室に向かう。 やや、足取りは覚束無いが、振り返って口角を上げた。 「付いて来ても、いいぞ?」 「何煽ってんだよ。」 多少の強がりもあったのだが、大人しくソウルも付いて来た。 ソウルの言い分も、キッドの言い分も平行線のまま、何も解決はしていないが、 それでも今暫くはどっちつかずの関係でも良いかも知れない。 ソウルは友達としても振る舞い、キッドは恋人としても振舞う。 そんなグレーな関係ではダメなのだと分かっていても、今はこれ以上に良い道が見えない。 |
ザ☆中途半端。 あーもうなんていうか、本当、ごめんなさい。 恋人以外の関係は要らないソウルと、恋人って良く分からないキッド。 ただ、ソウルは恋人以外は要らないと言いつつも、なんのかんのキッドにちょっかいかけるというか、 多分気にしちゃうんだろうなーと思っています。 恋人以外にはなりたくない、と思いつつも、結局キッドの側に居られるなら何でも良いとか、 思っちゃえばいいと思う。 なんというか、ただやってるだけな感があります…orz |