初めてその存在を認めた時、身体の中を何かが駆けていった。
武器が持つ本能が何かを告げたのかも知れない。
オレは瞬間的に理解した。

―――逆らえない。

武器として使役されることにも、
そもそも心が、身体が惹かれていくことにも。

オレが武器で、アイツが死神だから惹かれていく、
その事実を認めることが悔しかった。
抗えない力に流されて好きになるなんて、認めたくない。

だってそうだろう。武器であれば死神に惹かれる、なんて。
他の武器にも言えることだ。
そんな事、許したくなかった。
俺が俺の意思でアイツを好きなんだ、と確証が持ちたかった。





黙示 side Soul





第一印象は「すごい」の一言だった。
やはり、死神なだけあって根本的な部分が違うと感じた。
ブラック☆スターに負けないスピード、パワー、そしてセンス。
全ての素材が違う。
武器の扱いも一線を画す。

第二印象は「変な奴」だ。
あれだけの能力を持っているのに、妙な信念がある。
シンメトリーと拘わり、その拘り方も半端ではない。
勝てる勝負も捨てるほどに拘りぬく。
気持ちが良いくらいに潔い。
その潔さ故に、損をしている部分は多々あるのだろうけれど。

気づけば、そんなキッドから目が離せなかった。





「…で。俺のどこが世間知らずなんだ。」

むぅっと頬を膨らませて腕を組む姿は、とても死神には思えない。
本当に、こうして立っていると普通の少年だ。
無駄に整った容姿のせいで目立ってはいるが、悪い目立ち方ではない。

ソウルは、キッドという存在が気になり始めてから、
何かと理由をつけて誘い出すことを続けていた。
今日は、何かの会話の弾みに"世間知らずだ"とこじつけて、
そのこじつけにキッドが面白い程反応するものだから、
ついつい"世間知らずだと分からせてやる"と、強引に誘い出してしまった。

ケータイで一方的に約束を取り付け、一方的に電話を切ってしまった。
相手が相手なら、無視されても良いはずだが、こうしてキッドはソウルの目の前に居た。

ハイネックの黒いシャツに白のパーカーという、
一見パンダ色にも見える服装だったが、髪の色と合っていて、不思議と可笑しな印象は与えない。

「まぁ、とりあえずその辺ぶらぶらしてたら分かるんじゃねぇの?」

適当な事を言いながら、憮然とした表情でその場にとどまり続けるキッドの腕を引く。

「あ!おい、ソウル!話をはぐらかすな」
「はぐらかしてねぇって。とにかく、歩いてれば分かるから。」

何も勝算なくキッドを誘い出したわけではなく。
ソウルもソウルなりに、誘い出した後作戦を練っては来た。
それがどこまでこの世間知らずで、純真無垢な死神に通用するのかは分からなかったが。



二人で連れ立って歩く街並み。
デス・シティーのどこか殺伐とした雰囲気の中でも、キッドの周囲だけ華やぐような気がする。
それは惚れた欲目なのかも知れないが。

秋の風に色づく木々たちを頭上に眺めながら、
ソウルはのんびりと歩く。
掴んだキッドの腕をそのままに。
キッドもどこか諦めたように、ソウルに引かれるままに歩いていた。

そして、立ち並ぶ商店や店先で、瞳を輝かせては立ち止まり、
店内を物色しては歓声をあげ、を繰り返す。



「な。だから、言っただろ?」

歩き疲れたところで、(キッドに至ってははしゃぎ疲れた、といった感じだが。)
二人は手近なオープンカフェに入った。
4人掛けのテーブルに二人で座り、
空いている椅子にはキッドが購入した手荷物がどっさりと積まれていた。
物珍しさに負けて、いろいろと買い求めてしまった結果だ。

トンプソン姉妹あたりなら、この近辺にも頻繁に買い物に来ているだろうに、
彼女らへのお土産だ、とシンメトリーの何某やら、甘い菓子やらを山ほどに購入する姿は、
修学旅行に来た子供のようだった。

「……少し、はしゃぎすぎたかもしれないところは認める…」

オーダーしたコーヒーを口にしながら、キッドはバツ悪そうに呟いた。

「まぁ、気持ちは分からないでもないけどな。」

どうするんだよ、その荷物。と続ければ、キッドは困ったように小首をかしげた。

「まぁ、持って帰るのは大変だろうが、ベルゼブブで帰れば問題なかろう。」
「別に運ぶくらい、俺も手伝うぜ。」
「それではソウルに悪い。」
「いや、無理に誘い出したの俺だし。気にすんなよ。」

少し考える素振りを見せるキッドだが、ソウルにしてみれば
キッドを誘い出して一日楽しく過ごした上に、家まで送っていけるのだ。
その間ずっと一緒に居られることを思えば、荷物持ちなど苦にもならない。
常日頃、マカに鍛えられているせいか、荷物持ちという役割にも『嫌だ』と思う気持ちはどこにもなかった。

「そうか…?では、お願いする。」
「おぅ。まかせとけ。」
「荷物持ちをさせるだけというのも気が引けるから、
夕飯はご馳走しよう。」
「…っえ?!」

キッドの申し出に、ソウルは危うくカップを落としそうになった。
誘い出して一日連れ回した上に、キッドの方から夕食に誘ってもらえるなど、思っていなかったのだ。

「あ、悪い。そういえばマカに断らねばならんな。」
「いやいや!大丈夫!!全然平気だから。」
「そ…そうなのか?」

ガタンっと椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで立ち上がったソウルに、
少々面食らいながら、キッドはきょとんとソウルを見つめ返した。
思いもかけず立ち上がってしまったことに気づいたのか、ソウルが無言で椅子に戻る。

「マカとは、いつも一緒って訳じゃねぇし。」

どこか言い訳じみたような口調になりながら、ソウルはカップに残ったコーヒーを飲み干した。
こんな些細な事に動揺して、柄にもなく取り乱してしまう。
そうして如何に自分がキッドに惹かれているのか、日々自覚するのだ。
このキッドへの気持ちが、武器が死神に焦がれる本質からなのかどうかは分からないが。
少なくとも、ソウルは自らの意思でキッドを想っているのだと、思っている。



カフェを出て、二人で荷物を持ち、他愛ない話をしながら、
茜に染まる道を並んで行く。
夕日を受けて薔薇色に見えるキッドの頬や、はにかむような笑顔、ふと考え込む仕草。
その全てが愛おしいと思う。

キッドに想いを告げるつもりはない。
心ひそかに、キッドがマカを想っている事は気づいていた。
恋愛感情の好きか、友愛の好きか、計りかねるところはあったが、
それでもキッドが大切に思っているものは、武器姉妹にマカ、そして仲間全て。
彼が抱えるものとその責任の大きさを、少しでも軽減することが出来れば良い。
そのために彼の武器になるのだ、とソウルは決意を新たにした。





(そのうち、キッドの全部が欲しくなるんだろうけどな…。
まぁ、そん時はその時考えるしかねーよな。)



三人の均衡が、割とあっけなく崩れることなど、この時のソウルはまだ知らない。







黙示のソウル視点。
ちょっとだけ小賢しいソウル。
なとんなく、計算とかじゃなくて、直感で動いてそうなんですけど。
どちらかというと、ブラックスターの方面に分類されるような。
それにしても、最近ブラックスターは良い男になったなぁと思うのです。