眩しい光。
温かい光。
全てを照らす、希望の灯。
そんな彼の世界を守るための、力になりたいと思った。

側には信頼できる仲間が居て、誰よりも大切なパートナーが居る。
それだけで、アタシは無敵になれる。

守りたいと思うもの。幸せにしたいと願うもの。
全ては彼の手の中にあげたい。
けれど、唯一つ、彼にも渡したくないものがある。

今は、アタシの手の中で暴れるこの武器のココロ。
彼には何もかも全部あげる。
でもこれだけは…この武器だけは渡したくない。
理解っている。どれだけ願ったところでこの願いは叶うはずない。

どれだけ想っても、どれだけ願っても、
この武器は彼を想い、彼だけを求めてる。

成就されることがないアタシの想いは、どこへ逝くのだろう。





黙示 side Maka





彼、デス・ザ・キッドの登場は、少なくともマカとソウルの関係を微妙に変化させた。
お互い、最高のパートナーという事は認めつつも、どこか恋愛感情に関しては
目をつぶっていた感があった。
けれど、キッドの登場により、二人の関係は変わった。

武器であるが故、もともと死神に惹かれやすいソウル。
そこに加えキッドは一個体としても、とても魅力的な人物だった。

そんなキッドにソウルが惹かれるのは簡単で。
死神の重力にキッド個人の魅力も加わり、傍から見ていて、
面白いくらいにソウルがキッドへ傾倒していくのがわかった。

そして、その様子を見て、マカも自身が抱くソウルへの気持ちを明確に理解したのだ。



職人と武器、というパートナーとしてだけでなく、
一人の男として、ソウルを見て、側に居て欲しいと想っていることに。



「どうしたんだ、マカ?最近元気がないみたいだが…」

教室で読書をしているつもりだったのだが、ページを繰る手は止まったまま、
考え事をしてしまっていたようだ。
最近、マカの変化や異変に真っ先に気づくのは、いつもキッドだ。
ほんの少し前まではソウルだったのに。

マカはそれを少しだけ寂しく思いつつも、キッドの好意も嫌ではなかった。
むしろ、キッドの好意はとても心地が良いもので、彼から与えられる温かな感情は
ソウルとの関係で悩んでいた心を癒すに十分だった。

もしも、マカがキッドを好きになる事が出来れば。
これ以上望めないほど、マカにとって全てが丸く収まる。
キッドが想ってくれている事は、マカも薄々気づいていた。
蜂蜜のような瞳が、さらに柔らかくマカに微笑いかけ、気遣ってくれる。
キッドの優しさも、気配りも、全てが心地良い。

そして、キッドとマカが想い合う事によって、おそらくソウルはずっとマカの側に居る。
マカを、引いてはキッドを守るために。

そんな考えを振り払うように、マカは軽く首を左右に振った。

「大丈夫。ほら、もうすぐ超筆記試験だし、最近ちょっと詰め込みすぎなのかも。」
「そうか?まぁマカなら今から詰め込むような内容でもないだろう?」
「そうなんだけど、ほら、手を抜きたくないし!」

力こぶを作るように、利き腕をまげて微笑んで見せれば、
それでも心配そうな表情のキッドの瞳が少しだけ和らぐ。

「マカは強いな。」
「…そんなこと、ないよ。」

キッドに褒められ、悪い気はしない。
今はクラスメイトとして一緒に行動してはいるが、
紛れも無く彼は、マカが敬愛する死神の息子で、彼自身も死神なのだ。
その死神に褒められて嬉しくないはずがない。
しかも、直接告げられたわけではないが、憎からず思われていることを知っている。

キッドの視線に、マカは顔が熱くなるのが分かった。
マカもキッドが好きだ。
だが、その『好き』はキッドと同じ種類の『好き』ではない。

「もし、同じ種類だったら悩まずに済んだのに…」

ソウルに声を掛けられ、男性陣の輪の中に入ってゆくキッドの背を見つめながら、
マカは小さく呟いた。





「ソウル、ご飯できたよ。」
「あー、今行く。」

今日の食事当番はマカだった。
チーズを挟んだチーズオムレツとポテトサラダ、
ブレアの好物、ツナを使ったオニオンソテーも添えて、ワンプレートで食卓に並べる。
彩りを考えたコンソメスープと、
帰りにパン屋で購入したロールパンはバスケットに入れて、食卓の中央へ。

グラスにミネラルウォーターを注いで、エプロンを外すと、
マカは椅子に腰掛けた。
猫の姿のまま、ブレアも自身の前に置かれた小皿の上のツナオニオンソテーを見つめ、
嬉しそうに喉をごろごろ鳴らしている。

そんなブレアをぼんやり眺めていた視線を上げれば、湯気の向こうに、ソウルの背が見える。
先ほどから電話をしているが、電話の相手は大体想像がつく。

「いや、だからよぉそんなんじゃなくて…。
まーいいや、とにかく、明日11時に公園の噴水前な!」

言いたいことだけ言って電話を切ってしまうのは、ソウルの良くない癖だ。
マカもそれで随分と振り回されたものだが、慣れてしまえばどうってことは無い。
むしろ、最近はそれが少なくなった気がして、寂しく思ってしまうのだから
少々重症なのかもしれない。

「明日、でかけるの?」

ケータイを置いて食卓につくソウルに声を掛ける。

「あぁ。」
「キッドくんと?」
「まぁな。あいつ今までどうやって育ってきたか知らねーけど、
あれはなんだこれはなんだってうるせーから。手っ取り早く体験学習だな。」

フォークを手に取り、手が焼ける、とこぼすソウルの口元を見て、マカは厭な気持ちになる。

「あーだこーだ言ってるけど。結局ソウルの方がキッドくんを構ってるんじゃない?」
「どいう意味だよ?」
「…別に。それより冷めちゃうよ。早く食べよう。」

いただきます、と手を合わせ、マカはフォークを取ってチーズオムレツの真ん中にザクリとさした。
普段ならそんな行儀の悪いことはしないが。
そんな荒っぽい行動を見て、ソウルも何か言いた気だ。
が、マカは無視して、オムレツを一切れ口に運んだ。

(厭だな…こんな自分。)

味見をして、ちゃんと作ったはずなのに、オムレツの味は美味しくは無かった。

マカも最近ようやく理解し始めたのだ。
マカがソウルを想うように、ソウルもキッドを想っていることを。
そして何かと理由をつけてキッドと接点を持とうとしていることも。
だからこうして都合をつけて、休みや学校の帰りにキッドを誘う。
課外授業もなるべく同じになるようなものを選んでるようだ。

マカも、キッドと組む課外授業は、
高レベルの物が受けられるため、特にソウルに異論を唱えたことは無かった。

マカの第一の目標。それは今も変わらず最高の武器職人になること。
そして、その最高の武器職人に鍛えられるべきは最強の武器・魔鎌のソウルであること。
ソウルも、デスサイズになるため、高レベルの課外授業を受けたい。
だから、マカ・ソウル組とキッド・トンプソン姉妹組がペアを組んで
課外授業を受けることは、マカにとってもソウルにとっても、利益になる。

二人の思いは一致しているはずなのに、
最近、だんだんとずれていっている気がするのだ。

マカの目標が変わらなくても。
ソウルの目標が変わらなくても。

ソウルにはもう一つ目的があって、
それが、キッドと接点を持つことだと。
そして彼の側に居ることだと、マカにも分かってしまっていた。

それが、マカには辛い。





翌日、憎らしいほど晴れた日差しの中、
どこか弾んだ様子で出かけていくソウルの背を見送るマカの心中は複雑だった。

「神様<キッドくん>って、意地悪ね…」

呟く声に、返る返事は無い。
マカは天気を理由に、家事に励むことにした。







黙示のマカ視点。
キッドの登場って、マカとソウルに少なからず影響を与えているような気がします。
ソウマカなら、キッドがいくら登場しようと、二人の絆は変わらないのでしょうが。
ワタクシ、ソウキドラバーズなものでして…(*´∀`*)
そんな、勝手な妄想