家庭教師 今年もやってきた超筆記試験。 去年はマカが学年1位となった。 ソウルはカンニングがバレて35点。 ブラック☆スターは問題用紙を盗もうとして0点。 キッドは名前が書けず0点で、ソウル以下リズ・パティも含めて仲良く追試を受けた。 今回は追試などCOOLでない事は避けたいのだが。 マカは学年TOPを守るためにソウルの勉強など見てくれないし、 椿はブラック☆スターの面倒で手一杯。 となれば、残された道は…。 「…で、オレのところに来たというわけか?」 処刑台屋敷。 訪ねたソウルを快くリビングに通し、目の前に紅茶を出したキッドは、 豪奢なテーブルを挟んで向かい側のソファに腰を下ろした。 ソウルなどには良くわからないが、とても高価な家具なのだろうと思う。 マカとソウルのアパートにおいてあるソファとは すわり心地も重厚感も一線どころか三線程隔していると思う。 「魂学は専門だろ?」 出された紅茶を一口、二口と飲み下しカップをソーサーに戻す。 甘い香りの割りにすっきりとした味はどこの銘柄の葉を使っているのか分からないが、 善し悪しの分からないソウルにも"美味しい"と感じることができる。 おそらく、葉もさることながら淹れ方にもこだわりがあるんだろう。 紅茶は蒸らす時間がどうとかこうとか、以前キッドが言っていたような気がする。 ソウルが訪問し、リビングに通されてからお茶が出されるまでにちょっとした時間があった。 きっと茶葉を選び、湯を沸かしてからこの茶に合う茶器を選んだり蒸らしたり…と さまざまな手順があったのだろう。 流石、きっちりかっちりを有言実行するだけの事はある。 大体の事情を聞き、ソウルの家庭教師となることを快諾したキッド。 「オレは、厳しいぞ?」 「…望むとこだ」 挑戦的に笑いかけるとキッドはうきうきと立ち上がった。 「そうと決まればまずはスケジュール作りからだ!」 ビシリと眼鏡をかけ、どこから現れたのか樫材の立派なデスクに紙を広げて枠を引いている。 「…えっと…キッド…?」 「安心しろ、ソウル。オレに任せておけばもう心配はいらん。 きっちりかっちり完璧なスケジュールを立てて、100点を取らせてやるぞ!」 びしっと両方の親指を立ててソウルに合図するが、逆にソウルはたじたじとなる。 「あ…いや…まぁ70点くらいでいいんだけど…」 「何を言う!オレに家庭教師を頼んだからには100点だ。 いや…シンメトリーを考えるならば88点か…。よし、88点だ!」 「まぁ88点くらいなら…」 満点は無理だろう。けれど88点なら何とかなるかも知れない。 ソウルはそう考えて、キッドから魂学の手ほどきを受けることになった。 「じゃあ、今日から合宿だな!」 ニコっと微笑むキッドの可愛さに、ソウルは苦笑いした後、瞑目した。 「"合宿"…多くの人が同じ宿舎で一定期間ともに生活して、共同の練習や研修を行うこと。」 まぁこの場合は処刑台屋敷に住むリズ、パティとキッド、ソウルとなるわけだが。 「一定期間ともに生活して…」 このくだりに謀らずも不埒な想像をしてしまうソウル。 キッドには友達以上の感情を抱いていることに気づいてかなり経つ。 その間、言葉も手も出せずにここまで友人関係を続けてしまっているのだが。 この合宿中にあんなキッドやこんなキッドを見ることになったら理性の箍を飛ばさずにいられるかどうか、 少々自信がない。 この屋敷にはリズにパティもいるのだから我慢は必至なのだけど。 ソウルにあてがわれた部屋。 マカと供に住むアパートの一室より大きな部屋だ。 これでもこの家の主が使っているベッドよりはそう立派なものではないのだろうが、 豪奢なベッドの上に横になってソウルはため息を一つついた。 「おい、ソウルご飯だよ。」 扉の外からリズの声がする。 呼ばれて外に出ると意味ありげに笑うリズの視線とかち合った。 「…んだよ…」 「…別にぃ…アタシらの事は気にしなくていいからさ。 せっかく作ったチャンスなんだから、うまいことやりなよ」 「う…うまいことって…」 「片想い歴何年だよ。そろそろキッドに気持ちを打ち明けても良いんじゃねーの?」 ニヤリと笑うリズに開いた口が塞がらない。 そんなソウルを楽しそうに見つめ、リズが食堂へと促した。 「ほら、キッドとパティが待ってる。行くぞ。」 リズから放たれた一言に、ソウルの頭は真っ白になっていた。 キッドが用意したという食事の味も分からないまま、 ただただ目の前にある食べ物を切って口に運ぶ作業を続けた。 夕食の後、小一時間ほど休憩を挟んでソウルに与えられた部屋には魂学の教科書をもったキッドが訪れていた。 部屋に設置してあるテーブルに二人で腰掛け魂学の教科書を開く。 ソウルはぼぅっとしながらノートを開いてシャープペンシルをカチカチとならして芯を出した。 そんな様子を見てキッドは少々躊躇いがちに声を掛ける。 「ソウル、具合でも悪いのか?」 「いや…。」 「じゃあ食事が口に合わなかったか?」 「…いや…。」 「…じゃあ……なんで元気がないんだ…」 いつものお前らしくない。と続けられてソウルははっと目の前のキッドを見た。 「マカのところに帰りたいか?」 キッドとしては、ホームシックを心配しているのだろうが、 今のソウルにはそのように聞こえなかった。 まるでキッドが、ソウルに側にいて欲しいと望んでいるような、 言葉にそんな想いが含まれているような気がするのは気のせいか。 「そんなんじゃない。気にすんな。」 間近にあるキッドの髪をくしゃりと撫でて、ソウルは教科書に向かう。 「ソウル、別に合宿でなくても良いぞ?」 「いや。マカも集中したいだろうし。オレは合宿で良い。それとも、キッドは合宿が嫌?」 人の心の機微には聡いキッド。 そして、いつも自信家で自分の思いや意見を通す傾向の強いキッドだが、 こういう人の心配をするときは自分の気持ちを引っ込めてしまうところがある。 「オレは…。今までこうして友達が家に来るということもなかったから… ソウルが来てくれてとても嬉しく思ってる。…でも…」 言外にソウルは違うだろ?と言われているような気がして、ソウルは苦笑した。 「オレの事が心配?」 「友達なら、元気が無いとき心配するだろ?」 コクリと頷いたあとの言葉にちょっとだけ肩を落とす。 キッドの中でソウルはただの"友達"なのだろうか。 リズの言うとおり、そろそろ他の仲間とは違う、特別な存在になりたいものだ。 「ちょっと考え事してただけだ。気にすんな。今日はどこから勉強始めるんですか?センセイ。」 この場の暗くなりかけた雰囲気を打開しようと茶化した調子でキッドに問えば。 ニコリと笑って教科書を開くキッド。 「今日は、魂学の基礎と歴史だ。その後オレが作った小テストをやってもらう。 この小テストで8割取れなかったら、お仕置きだ。」 バチバチと音がして、キッドの右手の平から布団たたきのような、 死神様の手を模したお仕置き棒が出てきた。 それを楽しそうにびゅんびゅん振るキッド。 「…もしかしてお仕置きって…それ?」 「うむ。出来なかったらお尻ぺんぺんだぞ!」 (お尻ぺんぺんって…) 軽いめまいを覚えながら、ソウルは何かを閃いた。 「じゃあ、8割り取れたらご褒美くれるんだよな?」 「む…?ご褒美か…まぁ考えてやらんでもない。」 お仕置き棒を傍らにセットして、頬杖をつきながらキッドを覗き込むソウルに問い返した。 「ご褒美は何が良い?」 その問いに、少しだけ悩んだ振りをして、ソウルはあらかじめ決めていた内容をキッドに告げた。 「じゃあ、キッドからのキスが良いなぁ」 「キスか…意外とお前も子供なんだな。」 こともなげに答えるキッドに、ソウルの方が狼狽してしまう。 「えっ…?!…ナニそれ!キスが子供って…えっ…?えぇ?!」 うまく言葉が出てこない。 ソウルの頭の中ではものすごく不埒な想像がいくつも浮かんでは消えていく。 慌てふためき、真っ赤になったり真っ青になったりと顔色を変えるソウルを不思議そうに見つめ、 キッドは小首をかしげた。 「オレも小さいとき、正解するたびに父上から額にキスをしてもらっていたのだが…?」 この言葉にソウルはテーブルに突っ伏した。 「…なんだ…デコちゅーかよ…」 ぽつりと呟くが、その後すぐに死神とキッドの幼き日々を想像して 嫉妬の炎がめらめらと燃え上がってきた。 死神様の仮面の下、素顔は知らないが正解に喜ぶキッドを見て、おそらくめろめろになっていただろう。 額にとは言え、"教育"と称してキッドにキスをするなど不届き千万だ。 死神の教育方針は一体どうなっているんだ、と激しい怒りがこみ上げてきた。 「じゃあ、子供じゃないキスにしよう。」 ソウルの提案にキッドはさらに首をかしげる。 「キスに子供用と大人用があるのか?」 「まぁな。オレが一回お手本見せてやろうか? だから、小テストで8割取れたら、同じようにキッドがオレにキスする。これでどう?」 何も知らないキッドを騙しているようで少し心が傷むが、 先に煽ったのはキッドだ、とどこか責任転嫁してソウルはキッドの顎に指を掛けた。 是も非もなく、きょとんとソウルを見つめ返すキッドに、勝手に"了承"と解釈してソウルは顔を近づけた。 そしてキッドの唇に己の唇で触れる。 ちょん、と一度軽く触れたあと、今度は少し長めにキスをする。 抵抗が無いのを良いことに角度を変えて何度も何度もキスを繰り返す。 キスを繰り返す間息を止めていたのか、ソウルの唇が少し離れたところで漸く息を吐いたキッド。 その気配を感じ取って、ソウルは薄く開かれた唇に舌を差し入れた。 「…っ!?」 流石にビックリしてキッドは初めて顎に掛かっていたソウルの手を押し返そうと抵抗するが、時既に遅し。 キッドの口内に侵入を果たした舌は、奪いつくすように蹂躙する。 奥の方に隠れていたキッドの舌を絡め取り、舌先で何度も舐める。 気が済むまで舌を絡め、今度はその触手を上顎へと移動させた。 ビクリ、と跳ねる肩を宥めるように撫でて密着するようにキッドの腰を引き寄せた。 あまりにも強く引いたため、キッドは座っていたイスから落ちそうになったが、 何とか支えられてソウルの膝を跨ぐ形で座らされた。 「…っ…ん………ぅ…っ」 キッドの口端からはとろとろとどちらのものとも分からなくなった唾液がこぼれはじめ、 軽い酸欠状態に陥ったかのごとく、体から力が抜けていった。 キスをやめさせようとソウルの腕を押し返していた指先にはもはや力が入っておらず、 縋るように指をひっかけるだけの状態だ。 長いキスから漸く開放されて、 キッドは頬を紅潮させてぼんやりとソウルを見つめた。 「…大人なキスはどうだった?」 意地悪く感想を問うソウル。 キッドの口端から溢れていた蜜を舐め取りながら、ソウルはキッドを抱きしめた。 「…これを…オレからするのか…?」 無理だ、と涙目になりながらキッドは続けて、抱きしめられるままソウルの肩口に顔をうずめた。 「いいよ、キッドから出来ないならオレからするから。」 満たされた気持ちでソウルはぽんぽん、とキッドの背中をあやすように叩く。 が、現実はそう甘くはなく。 キッドの出す超難問揃いの小テストにソウルは尻がはれ上がるほどお仕置きされた。 その甲斐あってか超筆記試験でソウルは見事80点を取るのだが。 キッドが"大人なキス"の用法を間違って覚えてしまったため、 その後『大人なキスは恋人同士がするもの』という大前提を叩き込むのに、 ソウルはこれからしばらくの間大層苦労することとなる。 |
何も知らないキッドにある意味家庭教師のソウル。 ちょっとヘタリアなソウルをイメージしてみたんですが。。。 いまいちソウルが掴みきれていないので、いまいち偽者ちっく。 ソウルとキッドは牛歩並の速度で進展していくか、黒血ソウルで一気に進んじゃうか どっちかな気もします。 |