「いや、ダメだ!断固拒否する!!」 「なんでだよ、いいだろキッド。たまにはのんびりして帰ろう。」 「そうだよキッド君。キッド君たちはベルゼブブでひとっ飛びかも知れないけど… アタシやソウルはなが〜ぃ旅になるんだよ?!その前に、ちょっとだけ休んで行こうよ。」 「ならばマカとソウルだけ残れば良いではないか。」 「人数は多いほうが楽しいよ、キッドくん!!」 口々に説得され、両腕を自らの武器であるトンプソン姉妹にズルズルと引っ張られ。 腰を落として全力で拒否するキッドは、とある旅館に引きずり込まれていく。 中ではソウルが既に宿泊の手配を終えていたところだった。 危機 マカ組み、キッド組みで課外授業に来ていた。 デス・シティーから列車では3時間ほどの距離。 朝出発して、午後に目的地へ到着し、ちょっとだけ手こずって魂を回収した頃には夕方になっていた。 ちょっとだけ不便な街で、その日の列車は既に終わってしまっていた。 キッドとしては、ベルゼブブでデス・シティーに帰ることが出来る。 もちろん、武器化すればリズとパティも連れて帰れる。 が、マカとソウルはそうも行かず。手近に宿を取ることにしたのだ。 日帰り可能なリズとパティだが、たまにはみんなでわいわい騒ぐのも良いじゃないか、とキッドも誘った次第だ。 「旅は道連れ世は情けってね!一緒にお泊りしようよキッドくん」 マカの言葉に、キッドは言葉に詰まる。 「お前達は知らないんだっ!今、現在進行形で俺に貞操の危機が迫っていることを!!」 「何が迫ってるって?キッド?」 「出たなっ!ソウル!!」 「いや、ずっと一緒に居ただろ…」 ふぅ、と溜息を吐くソウルに、キッドは大仰にのけ反った。 そして、ソウルの手に握られている二つの鍵を見て、やっぱり、と顔を引き攣らせる。 ソウルが何かを言う前に、キッドは鍵の一つを奪った。 「手配してしまったからには仕方ないな。 じゃ、俺とリズとパティはこっちの部屋を使うからな!」 「…ちょっと待って、キッドくん。その部屋割りはおかしくない?」 「いやいや、職人とパートナーの絆を深める、実に合理的な部屋割りだ。」 「キッド、お前今すごく必死だな。」 リズが面白そうにキッドを観察している。 それもそのはず。 ソウルがキッドにアタック中である事は周知の事実で、ソウル自身もそれを隠そうとしない。 むしろ、『キッドと付き合いたいから、お前ら協力しろ』と平然と言ってのける始末。 そして周囲もそれを面白がって、ソウルとキッドをくっつけようとしている状態で。 キッドとしてはそれは非常に困るのだ。 ソウルは手が早い。そしてキッドが押しに弱い、という事もあるのだが。 ソウルから好きだと告げられて、二の句を告げられないうちにキッドは唇を奪われた。 ファースト・キスが、とショックを受けている間にもう一度。 とにかく気を抜けば喰われそうな日々を過ごしているのだ。 今回の課外授業も本当はマカ組みと一緒に組むつもりは無かった。断ろうと思っていた。 けれどマカが。シンメトリーな髪型で、シンメトリーに顔の正面で手を合わせ、 『お願いっ!一緒に行って、キッドくん』 と言ったのだ。 キッドに断ることが出来るだろうか、否、できない。 だから、なるべく早く出発して、さくっと魂を回収して、さっさとデス・シティーに帰還したかったのに。 もう既に日はとっぷりと暮れ、トンプソン姉妹には裏切られ(?)、四面楚歌の状態で宿屋に入った。 このメンツで部屋が二部屋、となれば自然、男と女に分けられてしまう。 そうなる前に、キッドは手を打とうとしたのだが…。 「キッドくん。やっぱりここは、アタシ、リズ、パティで一部屋で、 ソウルとキッドくんが同じ部屋って事に、なるんじゃないかなぁ?」 「まぁ普通に考えれば、そうなるよな、キッド?」 マカとリズの言葉にキッドの顔面が蒼白になる。 「お前達は、餓えたオオカミの前にコヒツジを差し出したら、翌朝どうなってると思う?」 「…………えーっと?」 「とぼけるな!喰われるだろう?!間違いなくっ!」 キッドの力説に、リズが笑う。 「オオカミがソウルで、コヒツジがキッドって言いたいみたいだけど、 いっくらなんでもコヒツジってタマじゃねーだろ、キッド」 「まー、食べちゃいたいくらい可愛いのは、あってるけどね〜」 パティも同調する。 「お前達…っどうしても、ソウルと俺が同室だというなら、俺はもう一部屋とるぞ!」 キッドが全力で拒否するので、ソウルはふっと寂しそうに呟いた。 「そんなに、俺と同室が嫌か?キッド…」 「あぁ。嫌だ。」 キッパリと言い切るキッドに、ソウルが肩を落とす。 「あーぁ…ソウルがかわいそう。」 「こんなにキッドくんを想ってるのにね…。」 「キッドくん、アタシが言うのもなんだけど、本当に嫌がることは、ソウルしないと思うよ?」 口々にソウルのフォローに回る女性陣に、キッドは一人アウェー感を感じずには居られない。 確かに、ソウルはキッドの嫌がることはした事がない。 不意打ち等は多いが、キッドが拒めば割とあっさり解放された気がする。 だがしかし…。 好んで危険の中に飛び込む物好きは、ブラック☆スターくらいのものだ。 「…なんで…俺が悪者扱いなんだ…」 あまりの空気に、キッドがバツ悪そうに俯く。 女性陣の視線とソウルの肩を落とした姿が胸に突き刺さる。 数秒の事が、キッドには永遠のように思えた。 あぁ、と溜息を吐いて、若干目尻に涙を溜めながら、観念した。 「分かった。俺が悪かった。ソウルと相部屋で良い…。」 ソウルよりも肩を落としてキッドが告げれば、さっとキッドの腕を掴んで歩き出すソウル。 持っていた鍵をマカへ投げて渡し、引きずるようにエレベーターホールへ向かう。 「よし、そうと決まれば部屋へ直行だ!」 「っ!!ソウル!今までのは演技かっ?!」 あまりの変わり身の早さにキッドは目を白黒させる。 そんな二人を、女性陣は手を振って見送った。 「あのね、ここ温泉あるみたいだから!ご飯は後で一緒に食べようね〜」 マカの声が、キッドの耳にむなしく響く。 部屋に押し込まれて早々、キッドはソウルから体を離した。 しかし、部屋の中央に鎮座するベッドにキッドはますます身に迫る危機を感じた。 「…おまえ…よりにもよってダブルの部屋にしたのかっ!!」 「人聞きの悪いこと言うなよ、ダブルしか空いてなかったんだっての。」 「…帰っても良いか…?」 「冗談、帰すとでも思ってんのか?」 意地悪く笑うソウルに反し、キッドは半泣き状態だ。 体力的にも、運動能力的にもソウルに負けることは無いはずなのに、気持ちの面でもう押されてしまっている。 「そもそも、旅館なのに、なんでベッドの部屋なんだ!」 「だから、マカたちに和室を譲ると、この部屋しか残ってなかったんだよ。」 いい加減現実を見ろ、と言われてキッドは黙る。 「なんでそんなに構えるワケ?」 「…お前が不必要なスキンシップを好むからだろう。」 迫ってくるソウルにキッドはじりじりと後退する。 狭い、廊下と呼ぶには短すぎる通路を抜けて、ベッドに引っかかりそうになりながら、何とか避けて。 それでも近づいてくるソウルに、キッドはついに窓際まで追い詰められてしまった。 「不必要なスキンシップって…例えば?」 「……抱きしめたり、髪を撫でたり、服を脱がそうとしたり…」 キッドの顔の両脇に、ソウルの腕が"逃すまい"と明確な意図を持って、囲うように手をつく。 黒い艶やかな髪に自らの唇を押し付けて、ソウルは囁いた。 「好きなんだから、触れたい…」 「生産性など、何もないのに。」 逃れるように身を捩るが、ソウルの腕という狭い空間の中で上手くいかない。 ソウルの胸に腕を突っ張って、力をこめる。 死神が本気を出せば、武器くらい難なく退けられる。 それが今、出来ないのは、ただ力が入らないだけなのだ、と言い訳して、キッドはソウルの肩口に顔を埋めた。 「俺の、何がダメ?」 ソウルの声がキッドの耳をくすぐる。 「ダメというか…流されてしまいそうで、困る。」 「流されちまえば良いだろ?」 甘い声と、甘美な誘惑。 キッドはふっと溜息をついた。 ソウルと同じだけの強さで想っているかどうかも分からないのに、 ソウルの声や言葉はとても魅力的に聞こえて。 思わず頷いてしまいそうになる。 だから、困るんだ、と。 キッドは呟いた。 この後も暫く、キッドの危機的状況は続いた。 巧妙に張り巡らされたソウル、マカ、リズ、パティの罠から、キッドが逃げられたかどうかは… 本人達のみぞ知る。 |
温泉とか一切関係なかった…orz また温泉はリベンジしたいと思います! せっかくの温泉シチュなのに、ちっとも活かされてないYO!! 残念な感が否めません。 |