その後 「解せぬ。」 「…どうした、三成。」 与えられた部屋で、静かに書物を読んでいると、突然三成がやってきた。 ずかずかと室内に入り込み、何を言う間も与えられず政宗は引っ張りこまれた。 胡坐をかいて座る三成の、その足の間に座らされ、政宗は軽い溜息とともに、半眼になる。 思いが通じ合ってから、最近いつもこうだ。 突然部屋にやってきたかと思えば、政宗にくっつき、好き放題弄り倒した後、また執務に戻っていく。 その類だろう、と今日も思った。 政宗を気遣ってか、あの日以来体を繋げてこようとはしないが。 こうして髪を撫でられたり、首筋に顔を埋められるだけで、心が埋められていく気がするから不思議だ。 過去、母に与えられなかった愛情を、今注がれているような、面映い想いが政宗を満たしていく。 それと供に、三成の子供じみた嫉妬や、訳の分からない独占欲に疲れもするが。 「あの時、左近に御厨へ行け、と言われた。」 「あぁ…。お前に差し入れを作ってやろうと思って、わしが左近に御厨を貸して欲しい、と頼んだのじゃ。 左近も意地悪な奴じゃ。準備も出来ておらぬまま、お前を呼んでしまうのだから。」 「その前は、左近と仲睦まじく座って語らっていたな。」 「それは、左近が…!」 「左近が何だ。」 腕の中の小柄な政宗の体を、ぎゅうっと抱き込み、首筋に顔を埋める。 吐息が掛かる首筋からぞわぞわとした感覚が政宗を襲う。 普段にない角度で三成の美貌を見ることになった政宗は、若干鼓動が早くなる。 「さ、左近が、お前に見せ付けるために、と。」 「私に見せ付ける?」 「お前がどこかで見ておるじゃろうから、仲が良いところを見せ付けて、多少はやる気を出してもらおう、と そのように左近が言ったのじゃ!」 「ほぉ?」 意地悪く、三成が笑った。 政宗はぐっと唇をかみ締めた。 三成がこういう顔をする時は、政宗にとって良い事が起こらない。 「それにしては、随分と左近に懐いていたようだが?」 「それは…」 「恋人のように左近の肩に頭を預けて。左近に肩を抱かれ、嬉しかったのではないか?」 「……む……」 「否定はせぬ、か?」 問うた後、三成の手が政宗の裾を割って、膝を撫でた。 きちんと整えられた着物は、簡単に肌蹴ていく。 「三成っ!」 「政宗、お前は左近とわたしと、どちらが好きなのだ? 左近に心を許しすぎではないのか?」 三成の手が、政宗の足をゆっくりと撫でる。 それにあわせて、着物の袷が開かれていく。 三成の手を何とか押し留めようとするが、腕の長さが足りずにうまくいかない。 「なんなら、今から左近を呼んでやっても良い。三人で楽しむか?」 三成の言葉に、政宗から血の気が引いていく。 「ば…っ!莫迦かお前はっ!!誰がそのような…」 「左近は、お前のことを憎からず想っているぞ?」 「…左近が…」 耳郭に唇を寄せられ、政宗の背にぞくっと痺れが走る。 その反応も三成には面白くなかった。 そのまま体勢を前に押し出し、うつぶせる形で政宗を押し倒した。 強引に前から腕を伸ばして、下穿きの中に直に触れる。 「あっ…」 「左近を、呼ぶか?」 「や…いや…じゃ…」 このような姿を三成以外の誰かにさらすなど、政宗には考えられなかった。 恥ずかしさのあまり、憤死してしまうかもしれない。 身を捩って逃れようとするも、三成の腕から逃れることが出来ずに、与えられる快楽を享受してしまう。 「莫迦…め…わしがこのような無礼を赦すのは…お前だから……」 「聞こえぬな。」 政宗は、目元を朱に染めながら、背後の男を見やる。 その秀麗な顔は、これでもか、と言うほどににやけていて、政宗の怒りを煽る。 けれど、この不埒な手の動きを止めねば、もう言葉も出てこない。 「だから…っ……三成以外は…厭じゃ…と言うておる! このような痴態、曝すのは三成だけじゃ…言わねば分からぬか!莫迦め…!!」 半ばやけくそ気味に告げられた言葉だが、三成には事の外、絶大な効果を発揮したらしい。 ぴたりと動きが止まり、暫く反応がない。 どうしたことか、と政宗が振り返れば、顔を赤く染め上げた三成が居た。 「…三成…?」 反応がない三成をいぶかしみ、政宗は何とか体を反転させて、その頬に触れてみる。 かなり無理な体勢を強いられはしたが、この際文句も言ってはいられない。 「……ま……こ…ば…」 「なんじゃ?良く聞こえん。」 「今の、言葉…」 赤い顔のまま、三成がじっと政宗を見つめた。 「今の言葉、わたし以外の誰にも言うな。」 「……………なんじゃ…それは…。お前も存外、可愛い奴じゃな。」 ふっと笑む政宗を睨みつけるが、顔が赤いままでは凄みはない。 政宗は、そんな三成を愛おしく思い、柔らかく、その腕に抱きこんだ。 |
『歪み』の後日談。 ツンデレ同士、くっついてしまえばあまあまになるのかしら。 三成が一方的だったので、とりあえず、政宗も三成好きになっていただこうかと。 しっかりしているように見えて、割とお子ちゃまな三成。 |