07.屋上 天高く馬肥ゆる秋。 9月に入り、暑さよりも肌寒さが感じられるようになってきたが、 秋特有の過ごしやすさが手伝って、全ての欲に拍車がかかる季節。 星場兄弟の通う高校の屋上。 ここに、非常に不機嫌そうな顔をして表れた白皙の青年。 赤い髪、赤い瞳で、その赤い瞳を飾るような長い睫毛が印象的だ。 青年というには線が細いが、男子用の制服を着ているため、女性でないと分かるくらいだ。 おそらく、私服を着ていたら10人中半数は彼を『彼女』と間違えるに違いない。 彼こそが星場烈。星場豪の兄にして現在、恋人というポジションに居る人物。 実の兄弟だから、男同士だから、という常識を一切凌駕し、さまざまな経緯を超えて 漸く結ばれた二人だ。 そしてこの不機嫌丸出しの、兄であり恋人である星場烈を待ち受けるのは、 彼の弟であり恋人である星場豪。 こちらは兄とは対象的に非常に機嫌が良い。 「アーニキ♪待ってたぜ」 「…へぇ…。そりゃどうも…。」 烈の投げやりな態度に、豪は手をさし伸ばして呼び寄せる。 その手をとりしぶしぶ歩み寄って、烈は深くため息をついた。 「お前の集中力を侮っていた僕が悪い。」 「まぁ。烈兄貴の読みが甘かったって事だよな♪」 言いながら烈を両腕にすっぽりと抱きしめ、豪は満足そうにその場に腰を下ろした。 首筋に顔を埋め、ご満悦な豪に、烈はため息をつきつつもその腕のなかに収まった。 実はこの二人、付き合うにあたりいくつかお互いルールを決めたのだ。 付き合い始めた当初、豪はその嬉しさのあまり所構わず烈にじゃれ付き愛情を表現し続けた。 それは今まで兄弟・男同士という観点で抑圧してきた烈への想いが、 付き合うことにより一気に噴出したかのように。 流石に学校でも行われる過激な愛情表現に烈がぶち切れ、 条件を飲まないなら別れる、と突きつけたものが3つ。 その1:学校では一切のスキンシップ禁止 その2:帰りを待つなら目立たない場所で その3:両親が居る前では兄弟でいること これに対しそれではあまりにも一方的だ、と豪も自らを救済する条件を出した。 その1:朝と夜のキスは欠かさない その2:基本的に登下校は一緒に その3:二人のときは愛情表現の全てを拒まない お互いに条件を飲んだ形で交際がスタートした訳だが、 あまりにも学校でのスキンシップが少なすぎる、と、どういった経緯だったか些細なきっかけで、 豪がかつてないほどごね出した。 毎日のように部屋に押しかけられ、じたばたと暴れまくる豪に辟易した烈が 今回の実力テストで豪が学内50位以内に入ったら、 学校内で烈が膝枕をする、という約束をした。 毎回後ろから数えた方が早い豪が、前から数えて50位以内に入るとは考えていなかったのだ。 しかし烈が絡んだ場合の豪の集中力はすさまじいものがあり、 結果は見事40位。 豪にとっては奇跡の、烈にとっては不遇の結果が待ち受けていた。 「ごぉ〜…楽しいか?」 気持ちの良い風が吹く中、膝の上でニコニコしている豪を見下ろす。 「うん。すっげー楽しい。っつーか…幸せっていうの?」 「幸せ?」 下から烈の頬を包み込むように手を伸ばし、豪は烈の前髪を掻きあげた。 「風が吹いて涼しいけど、烈兄貴の膝はあったかくってさ。 天気は良くて空は青くて高いし、本当なら弁当の一つでも広げたいところだけど…」 言いながら豪はさらさらと烈の前髪をすく。 「そんなもんか?」 コトリ、と不思議そうに小首をかしげる烈を見、豪はふわりと微笑んだ。 「そんなもんだよ。俺、兄貴と居られればそれだけで幸せだから。」 「豪…」 微笑む豪に、烈もつられてにっこりと微笑んだ。 「本当は、世界中の人に叫びたいくらいだけど、俺。 この人が俺の一番好きな人で、俺の恋人ですって。」 「ソレはやめてくれ。」 クスクス笑う豪に、烈は真顔で答えた。顔にはありありと『恥ずかしい』と書いてある。 「冗談だよ、冗談。兄貴はすこし肩の力抜いたほうが良いって。」 「お前は抜きすぎなんだよ。」 苦笑いする烈に、豪は心の中で『叫びたいのは本気だけど』と呟いた。 「兄貴、オレさ、烈兄貴が大好き。すっげー愛してる。兄貴はどう?」 「…あんまり…調子に乗るなよ、豪…」 逆光からでも分かるほど、赤く染まった烈の頬を両手で大切に包み込み、 豪は自らのほうへ引き寄せた。 烈も逆らうことなく豪によって導かれるまま唇を重ねた。 ゆっくりと、時間をかけたキス。 ちゅっと軽い音を立てて離れた後、豪は幸せそうに微笑んだ。 「たまには素直になれば良いのに。」 「だから、素直にキスに応じたじゃないか。」 綺麗に微笑む烈。 「…へへ…」 今度は豪の頬が火照り、赤みが差していた。 「オレ、すっっげー幸せ」 秋の屋上。 星場兄弟の密かな幸せの時間は穏やかに過ぎてゆく。 |
秋のお外って気持ち良いですよね〜(*´∀`*) 10月も下旬になってしまって、めっきり寒いですが…orz 雲が豪烈を書くと、大概が強★風味になってしまうので、 たまにはラブラブしたものを書きたくなりました。 乙女として、強★ちっくなものにしか食指が動かないのはどういうことだろう。 なんてたまに考えてしまう今日この頃。 |