「ダメだ。」 「…烈兄貴…オレまだ何も言って無いんだけど。」 「僕の部屋で、正座してるお前の口からでる話なんてロクなもんじゃない。」 「……鋭いデスね……。」 06.視聴覚室 深いため息の後、烈は椅子を反転させて正座する豪に向き直った。 「…で?今度の"お願い"ってなんなんだ?」 「えっ?!聞いてくれんの?!」 「話を聞くだけだ。」 それでも十分!と豪は嬉しそうに話始めた。 「実はさ、オレのダチが自主制作の映画を撮るらしいんだよね。 その中のワンシーンにオレと烈兄貴の絡みを入れたいんだって。」 「どんな映画なんだよ?僕とお前を入れたい、だなんて。」 秀麗な顔をひそめて、男性にしては細く長い指を顎に当てる烈。 「んー、なんでも男の友情ものって言ってたけど?」 「友情で兄弟を使うのか?」 「そこまでは…オレもちょっと…。でもさ、多分"友達を大事にしろよ"的な事言うんじゃねー?」 「ふぅん…」 少し考えこんだ烈に、豪は身を乗り出して瞳を輝かせた。 「なっ、な、引き受けてくれる?」 「却下。」 即答する烈に豪がガクリと肩を落とす。 「なんでだよ烈兄貴ー!」 「兄弟なんてどこにでもいるだろ。特に僕とおまえである必要が感じられない。 それに、"映画"なんだからキャスティングなんてどうとでもなるじゃないか。」 机に向き直り、烈はぱらぱらと辞書を捲り始めた。 「別にちょっとだけなんだから、引き受けてくれてもいいじゃんかー。」 「僕はお前と違って忙しいんだよ。別に他のヤツに頼めばいいじゃないか。」 そもそも、お前そこまでして映画に出たいのか?と問われ、豪は口を尖らせながら答えた。 「オレだってダチの力になりてーし。面白そうだし。…それに……」 言葉を区切った豪に烈が視線を上げて振り向く。 「…それに?」 なんだよ?と先を促され、豪は正座していた足を崩し、つま先を投げ出して答えた。 「本当は、オレじゃなくて兄貴ご指名なんだよ。 この映画のイメージだと烈兄貴がぴったりなんだってさ。」 「…僕?」 いったいどんな映画なんだよ…とため息ついて烈は再び机に向き直った。 「とにかく、断ったからな、僕は。」 そんな話をしてから一週間。 「ごーーーーぉ?」 ちょっと来て!と豪に引きずられるまま連れてこられた放課後の視聴覚室。 目の前に広がるのは映画の撮影に使用されるであろう機材の数々。 とは言っても、三脚とその上に乗ったDVDカメラとちょっとしたライトがあるだけだったが。 バツの悪そうな豪に不機嫌マックスの烈。 「僕、断ったよな?」 「うっ…それは…そうデス。」 「この状況は、何かな?」 「あのぉ…カメリハ?」 視聴覚室には確かに機材が揃っている。でも流石に『友情モノ』と聞いている映画の撮影が コードやテレビがたくさん置いてある教室で行われるとは思いがたい。 豪の言うカメリハというのは本当だろう。 「おかしいな。僕は断ったと思ったんだけど。説明してもらおうか?豪。」 烈のとびっきりの笑顔に、周囲の空気が5度程下がったように感じた。 「しかも、機材だけでお前の友達とやらがいないな?」 「とりあえず、オレと兄貴だけで。」 「オレとお前だけで何ができるっていうんだ。僕は帰る。」 「ちょっと待ってよ烈兄貴!」 豪は帰ろうとする烈の腕を取り、そのままぐいと力任せに引き寄せた。 力加減を考えずに引っ張ったせいで烈がバランスを崩し豪の腕の中に納まる。 「おいっ…豪…!危ないっ…」 「わりぃ…」 謝罪はするものの、一向に解放しない豪の腕を引き剥がそうと、烈は腕のなかでもがいた。 背後から抱きすくめられる形になっている烈は居心地の悪さも手伝って ふと豪を振り返った。 「豪…っ!」 振り返った先に真剣な豪の視線とぶつかり、言葉に詰まった。 けれど、すぐにふにゃりといつものおちゃらけた豪の顔に戻る。 「まぁまぁ烈兄貴、ちょっと落ち着こうよ。クールに行こうぜ!」 「ダレの口真似だよ、それ…」 過去の出来事をちょっとだけ思い出し、烈は顔をしかめた。 「まーさぁ。今はオレしかいないわけだし。カメラテストだと思ってちょこっとだけ付き合ってよー。」 頼むよ烈あにきぃ〜と情けない声色で続けば、ブラコンを自負する烈はしぶしぶ体の力を抜いた。 「カメラテストだけだぞ。映画には出ないからな!」 一つ貸しだ、と続けて豪の額を小突いた。 「サンキュー兄貴!」 じゃあ早速!とおもむろに豪は烈の制服を脱がし始めた。 「…ごぉ?」 手早く学ランのボタンを外し、更にシャツのボタンも外し始める手に烈は慌てた。 「ちょっ…何してるんだよ?」 「準備だけど?」 耳元で息を吹きかけられながら囁く豪に、背がぞわりと粟立つ。 「…な…なんの…?」 「カメラテストって言ったじゃん?」 「僕が聞きたいのは、なんでカメラテストで脱がされてるんだってことでっ…っ!」 ベルトからシャツが出され、その裾から豪の手が烈の肌に触れた。 豪の手の感触に瞬間的に息が詰まる。 抵抗を忘れている間に豪の手はどんどん進む。 ある意味羽交い絞めにされた状態で、豪の唇は絶えず烈の耳元に熱い呼気を吹きかける。 「オレ言ったじゃん?オレと兄貴の絡みって。」 「…聞いたけど…」 ただの絡みだろ?と口の中で呟いて烈はハっと頭を上げた。 「絡みって…えぇえ!そっちの絡みかよ!」 「どの絡みだと思ってた?」 可笑しそうに笑いながらも豪の手は止まらない。 烈の耳朶を甘噛みし、舌で舐めまわす。耳孔に舌を差し入れられて烈から悲鳴があがった。 「やっ…豪ストップ…っひゃぁ」 本格的に暴れるが時すでに遅し。 豪の不埒な手は烈の胸の飾りを探りあて、引っかくように刺激したり摘んだりを繰り返す。 「烈兄貴かわいいー」 うっとりと呟く豪に思考が付いて行かない。 「まてまて豪…!こういう意味の絡みなら僕は断る!」 「もうダーメ。オレのスイッチが入っちゃったもん。」 「スイッチってなんだよ!」 「んー。兄貴を抱きたいスイッチ。」 「なんだよそのスイッチ…っあ…やっ…ストップ!ごぉ」 豪の腕に撫で回され、耳元や首筋を舐められ、焦る烈から甘い吐息が漏れ始める。 いままで兄弟として過ごしてきた豪からよもやこのような行為を受けよとは思わなかったし、 そもそも豪の言葉に、秀才と名高い烈の頭が付いて行かない。 「ずっと我慢してた。ずっと兄貴にこうしたかった…。」 背後に感じる豪の体温が上がった気がした。 囁かれる言葉も吐息も、体を這い回る手も全てが熱くて烈ものぼせてしまう。 こうして、豪の手練手管により体内の熱を吐き出すことを強要された烈。 最後の方はふわふわと何も考えられない頭で豪に促されて豪の熱も解放させられた。 ぐったりと床に座り込み、乱れた息と制服を何とか正そうとするが簡単には収まりそうになかった。 そんな中、豪から信じられない言葉が飛び出した。 「おー、ちゃんと映ってる。」 「…?」 『やっ…ごぉ……っ…ぁっ…』 『兄貴…いいよ、出して?』 『あっ…あぁん……ダメだっ…はなっ……んぅっ…あーっ!』 視聴覚室内に響く卑猥な水音と、甘い声。 「!おまえっ…まさか…!!」 「うん。撮っちゃった。」 えへへ、と照れくさそうに笑う豪に真っ赤になって烈が叫んだ。 「消せーーーーーっ!!!」 「ヤダ!ぜってー嫌!!オレの宝物にするんだ!」 「たからっ?!バカっ!!バカ豪!消さなかったら殴るからな!」 「殴られるだけだったら消さない!」 頑なに拒否する豪に足腰立たない烈がよたよたと近づく。 「消してくれ、頼むから」 自分の痴態など残したくない。そもそも、もし万が一何かがあって、 誰かの目に触れてしまったら…。 烈は立ち直れない。むしろ生きていられない。 「嫌だ!だってコレ一回きりかもしれねーじゃん。でも思い出があればオレ強く生きていける。」 「何バカな事いってんだ!消してくれぇ」 本気で泣きが入ってきた烈をちらり、と見て豪が言う。 「…どうしても消して欲しいの?」 「消してくれるならなんでもする。」 うるっと赤い瞳に涙が浮かぶ。 「なんでもするの?本当に…?」 豪の魂胆など知らず、烈はためらいがちに頷いた。 「……う…うん…」 「じゃあ…」 嬉々として烈に交換条件を持ち込んだ豪。 その内容を聞いて早まったかもしれない、と心底後悔して天を仰いだ烈。 ちなみに、視聴覚室で撮影された豪と烈の映像は、しっかり豪の宝物として管理されている。 この事実は烈もまだ知らない。 |
視聴覚室終了です。 なんだかだんだんやってるだけのシリーズになりつつある『萌えシチュ』 今回はコメディタッチの豪烈で。 これのねっちりバージョンもあるのですが、それはまた今度。 |