「それじゃ、先生職員会議に出てくるから、ちゃんと寝ててね。」
「はいはい。」
引き戸をガラガラと引く音がして擁護教諭が廊下を歩く音が消えると、
豪は保健室のベッドの上でため息をついた。



02.保健室



もう大丈夫だと思っていたのは気のせいなのかも知れない。
白い天井の模様を数えながら、ぼーっとする頭で豪は考えた。
思えば小学校の頃、よく風邪を引いて学校を休んだ。
中学に上がって、もうそういったこともなくなっていたと思っていたのだが…。
熱っぽい上に頭痛のする頭で遠い記憶をよみがえらせようとしたためか、
眉間部分が痛くなり、すぐに豪は意識を手放した。



『星馬です。豪を迎えにきましたー』
『ご苦労様、烈くん。豪君は2番目のベッドよ。』
『先生ありがとうございました。』
小学校の頃、学校で熱をだした豪を迎えに来るのは烈の仕事だった。
ベッドの中でうにゃうにゃになっている豪を起こし、一緒に家に帰る。
『ほら、豪起きて。家に帰るぞ。』
『うにゃー…烈あにきぃ…』
2番目のベッドに引かれたカーテンから中に滑り込み、眠る豪を起こす。
やっぱり少し熱が高いのか、ほっぺたが赤い。
『帰ろう。』
『烈あにきぃ…あたま…いたい』
『うん』
『おなかも…いたい』
『うん』
痛い、といわれた部分を烈は撫でてやりながら豪が起き上がるのを待つ。
豪が身じろぎをし、起き上がる意志を見せたため、烈は撫でてやっていた手を戻し、
豪のランドセルに手を伸ばした。
二つのランドセルを背負い、豪を支えて保健室を出る。
『それじゃあ先生、お世話かけました。』
『いいのよ、烈くん気をつけて帰ってね。』
家路はゆっくりと豪のペースで歩いて辿る。
家に着くと学校からの連絡を受けて待っていた母・良江が豪を抱き上げて部屋に連れて行く。
烈は二つのランドセルを持って後に続いた。



そんな微笑ましい想い出から時は過ぎ。
豪はもう一つ深くため息をついた。
「はぁぁ…俺って進歩ねーのな…」
小さい頃良く熱を出して烈に迎えに来てもらっていた。
もう大丈夫だと思っていたのに、中学に上がってもこのザマだ。
6限が終わるまでもう少し。6限が終わったら烈が迎えに来る。
大きくなった自分は一体どんな小言を言われるのだろうか。
なんて考えて意識を手放す。烈がくるまでに少しは回復しておかなければ。



ひんやりとした手が額に触れ、豪は再び意識を取り戻した。
「大丈夫か?豪?」
「烈…兄貴…?」
「もう6限終わったぞ。保健の先生はどこ行ったんだ?」
「んー……職員会議だって…」
「そっか。帰れるか?」
ギシリ、と烈の体重を受けてベッドがきしむ。
「うー…頭、いてぇ…」
烈の手が、豪の額から頬、首筋に触れて顔の横に落ちた。
そして、唇が豪の額に触れる。
「えっ?!」
この行動にビックリしたのは豪で、思わず目を見開いてしまった。
学校で過剰なスキンシップを許さないのは普段烈の方で、額にとは言え、キスされるとは思っていなかった。
「兄貴?!」
「他に、痛いところは無いのか?」
いつもより心なしか優しい烈の態度に、豪はおそるおそる指を自らの唇に当てた。
「…ここ…」
一瞬だけ烈の眉尻が上がったが、やがて軽くため息をつくとベッドをきしませ豪の唇に自らの唇を重ねた。
ゆっくりと触れるだけのキスに焦れたのは豪が先で、布団から手をだして烈を抱きしめようとしたところで、
額をペシリと叩かれた。
「こら。病人はもう家に帰って寝るだけだ。」
「ちぇっ…」
離れていく烈を名残惜しそうに眺め、豪もベッドから身体を起こした。
多少ふらつくものの、この短時間で多少は回復したようだ。
烈は豪を支えてベッドから起こすと、二人分の鞄を抱えて豪を促した。



幼い頃の記憶がよみがえる。
ふとした日常から。
並んで歩く二人の姿は小学校の頃のまま変わらず。
小学生の頃あった身長差は今ではもうないけれど。
豪はたまには風邪を引くのもありかな、と思う。

「俺、またちょくちょく風邪引こうかな…」
「どうしたんだ?急に。」
「風邪引くと烈兄貴が優しい…」
「…ばーか…」









たまには烈が豪を甘やかすシチュで。
病床にて制作したため、なんだかいろいろおかしいかも。。。
テヘ★