YES or NO



『兄貴、俺、烈兄貴の事がすげー好き。』
『お小遣い足りないのか?』
『ちっげーよ!そうじゃなくて、俺が言いたいのは…!』
『宿題溜まってるのか?』
『そうじゃねぇって…。頼むよ烈兄貴、ちゃんと聞いてよ。』
『なんだよ。』
『俺が好きだって言ってるのは恋愛対象として好きって言ってるの。』
『…で?』
『で?って…反応そんなけ?他にもっとねーのかよ?』
『うーん…。強いて言えば、お前僕に何を望んでるんだ?』
『望んでること…。俺とお付き合いしてください!』
『兄弟としてじゃダメなのか?』
『ダメ!俺兄貴とチューしたいしエッチもしたい。』
『うわー…露骨だな、お前。』
『そこ、嫌っそーな顔しない。俺だって健全な男子高校生です。
好きな子といちゃいちゃしたいって願望があってもいいじゃんか。』
『いちゃいちゃって…。勝手に抱きついてきたり、じゃれついてきたりするだろ。』
『そういうスキンシップだけじゃもう俺足りねーの。我慢も限界。』
『なんの我慢だよ…』
『もーいーから!兄貴真剣に考えてよ。』
『きょーだ…』
『ダメ。ちゃんと一人の人間として、俺の事見てよ。
兄弟なんて便利な言葉で括らないでちゃんと他のヤツと同じように考えてよ。』
『おまえなぁ…。兄弟って別に便利な言葉なんかじゃないぞ。
それに今まで兄弟としか見てなかったものを突然他のヤツと同じに考えろって言われても…』
『言い訳は聞きまセーン!今日から1ヶ月間、俺の事ちゃんと考えてよ。
考えてみて、やっぱり兄弟以上に見られないんだったら、それはそれでいいから。
1ヶ月後、YESかNOで答えてくれよな!』







と、俺から告白してそろそろ1ヶ月。
生徒会のある兄貴と部活のある身では帰宅時間がほぼ同じになるから、
告ってからは毎日兄貴を待って一緒に帰ってる。
1ヶ月の間、ただ待ってるだけじゃなくて最大限の努力をしないとな!
まぁ兄貴は先に帰っちゃうことが多いけど。そこはちょこっと悲しい…。

正直なところ、俺も本当は告白する気なんか無かったんだけど、
毎日一緒に居て手の届くところに居るのに手が出せないって状況に我慢が効かなくなっちまって。
言えば言ったで距離を置かれるかも、って考えもあったけど、
烈兄貴ならそうはしないんじゃないかってなんとなく思った。
実際告白してみたらすごく軽く流されそうになってショックだったけど。
仕方ねーよな!今まで兄弟だったんだから。

ぶっちゃけ兄貴は鬼みたいにかわいいんだけど、そんな強烈かわいい外見とは裏腹に鬼みたいな性格なんだ。
こんな兄貴を持って俺、よくまっすぐに育ったよなぁって思うことがある。
外面はいいんだけど、なんだろ。俺にだけ厳しいっつーかやたらキツイっつーか。
逆にそれが『好きな子ほどいじめたい』ってやつに思えちゃって。。。
気がついたら俺兄貴にゾッコンだったんだよなぁ。

今のところ、兄貴からの反応はほぼ無い。
俺って自分で言うのもなんだけど結構モテるし、顔だってガキの頃の間抜け面に比べれば
随分と精悍なカンジになったと思うんだけど。
身長だって高いし(兄貴と15cm差ある)部活で鍛えてるから筋肉だってある。
超お買い得物件だと思うんだけど、烈兄貴はなびいてくれない。
烈兄貴自体が超高額物件ってカンジだから中途半端な奴じゃそもそもダメだろうな!
兄貴に釣合う男に成長したと思ってるんだけどまだまだなんかなぁ…。
やべ…。なんかいろいろ考えてたら切なくなってきた…。
「烈兄貴ぃ…」
「なんだよ?」
「おわっ!」
今日は部活が早く終わって校門のところで兄貴の出待ち。
いろんな考えに没頭してたせいか、すぐ背後に立たれるまで兄貴の気配を感じ取れなかった。
びっくりして振り向くと、今日もネクタイ・ブレザーをかっちり着込んだ兄貴が立っていた。
「なんだよ、人をお…お化けみたいに…」
むかしっからお化けが嫌いな兄貴は口にだすのも嫌、といわんばかりに顔をしかめて、
『お化け』という単語部分だけ小さく呟いた。
すごくかわいい。
「ちょっと考え事してて…。兄貴終わった?」
「終わったからここに居る。」
「ですよねー。」
あまりにもクールビューティーっていうか、逆にそっけない?返事にちょっとうなだれる俺。
「じゃ、帰りますか。」
しゃがんでいた体勢から立ち上がる。
隣に立つ兄貴のつむじが見えた。
「お前さ、最近良く待ってるけど先に帰っていいんだぞ?」
並んで歩きながら兄貴はそっけないことを言う。
「一緒に帰りたいから待ってる。」
「女子中学生かよ、お前…」
素直に答えれば呆れたって態度でため息つきながら言われた。
なんかさ、この2週間を振り返ると流石の俺もだんだん悲しくなってくるんだけど。
朝も問答無用で置いていかれるし、帰りも俺を待ってくれてる、なんて事はない。
兄貴はいつも通り。
俺だけが空回り。
「俺、兄貴の事が好きなんだって。だから少しでも一緒に居たいの。」
「家では一緒じゃないか。」
「二人きりってワケじゃないじゃんか。」
少し不貞腐れてみると、兄貴が背伸びして俺の髪をわしゃわしゃ撫でる。
「よしよし。お前は大型犬みたいだな。」
すんごく子ども扱いされてるって分かってるんだけど。
撫でてくれる手とか、笑ってる烈兄貴がすごく綺麗だから…。
まぁいっか、という気になってしまう。
むしろ、嬉しい。
兄貴って無自覚なのが恐ろしいけど、すごいオトコゴコロを手玉に取るのがうまい。
「兄貴、俺で遊んでねぇ?」
「馬鹿な事言ってないで、キリキリ歩けよ。12分の電車に乗り遅れる。」
腕時計を指差し歩みを速める兄貴、ついていく俺。
やべぇ。すごく抱きしめたい。






鉄の自制心で抱きしめたり、キスしたいのを抑える日々もだんだん慣れてきた。
明日はいよいよ俺が告ってから一ヶ月。
兄貴からどんなこと言われるのかドキドキしてる。
っつーかアレだ。結構緊張するっていうか、もし振られたらどうしよう、とか
嫌な事考えると夜って寝れないもんなんだな。
初夏の寝苦しさも手伝って、なんど寝返りをうっても寝付けない。
出るのはため息だけ。

この一ヶ月、兄貴は俺を遠ざけることもしなかったけど、
だからと言って告白前と変わることも無かった。
晩飯のあと兄貴の部屋でごろごろしててもいつも通りだったし、
風呂とかもいたって普通(俺からみたら超無防備)に上がってくる。
兄貴の一挙手一投足にどぎまぎしてるのは俺だけって事か?
「うぅ〜…苦しい…」
緊張と嫌な考えで眠れない上に胸が苦しい。
これが恋煩いってやつかな、って他人事みたいに考える。

明日、兄貴はちゃんと返事をくれるだろうか。。。





「…豪…大丈夫か…?」
朝。開口一番烈兄貴からの一言。
俺そんな酷い顔してる?
「寝てないのか?」
「まぁ…そんなとこ…」
あくびをかみ締め、食卓につく。
ぼーっとした頭でテーブルに出してあった牛乳をグラスに注いだ。
結局明け方近くまで寝れなくて、本日の睡眠時間は1時間ちょっと。
「マンガでも読んでたのか?」
マンガね…。兄貴の事考えて夜寝れなかったって言ったらどんな顔するんかな…。
今日は運命の日だって言うのに、兄貴は今日もスッキり綺麗で忘れてんじゃないか?って
問いただしたくなる。
「兄貴、今日生徒会って会議あるの?」
「今日は無いよ。」
「俺、部活休むから一緒に帰ろうぜ」
あぶない。危うく兄貴が先かえっちまうところだった。
きょとんとした顔で「別にいいけど…」と呟く兄貴。
多分、今日俺に返事すること忘れてる。
惚れたほうが負けって良く聞くけど、なんだかなー。
「じゃ、6限目終わったら校門のとこで待ってるから。」
牛乳を飲み干して、目の前のトーストにかじりついた。





当然の事ながら。
授業なんてまったく手につかず。
「はぁ…」
出るのはため息ばかり。
「どうしたんだよ、星馬ー?最近ずっとおかしいけど、お前今日は特に酷いなぁ。」
隣の席の田中が俺に話しかけてくる。
「昨日寝てねー」
ぐったりと机に突っ伏してまたため息。
「なんだよ、恋煩いか?」
「…わりぃかよ…」
「マジでか?お前が?!」
ビックリした表情をすると同時に、面白そうに笑う悪友。
「冗談で言ってみたんだけど、そっかー。お前が恋煩いねぇ。」
元気があったらぶん殴ってやりたいところだ。
「で?相手は誰だ?3組の飯田か?6組の望月か?」
「そりゃお前の好みの女だろ…」
げんなりして答えると田中は笑みを深めた。
「実際、お前がそれほどになる相手って誰なんだよ?
あの美人のお兄様のせいで、ただ『かわいい』とか『美人』には見向きもしないもんなぁ」
「兄貴のせい?」
「毎日あの綺麗な顔見て起きて、寝るんだろ?そりゃかわいさや美人度には鈍感にもなるさ。」
うんうんと頷く悪友に、なんとなく納得してしまった。
「まぁ、正直なところ兄貴はそこらへんの女子よりよっぽどかわいいし、美人だと思う。」
「…お前、それ他で言うなよ。ここだけに留めておけ。」
いろんな意味で、と付け加える相手に、俺は上の空で頷いた。

授業はあと1時間で終わり。
俺、緊張して気持ち悪くなってきた。。。






「ごーぉ。お前、何時まで待たせるつもりだ?」
ぺし、っと頭を叩かれて気づいた。
「…え…?烈兄貴…?」
周りを見ると教室には誰も居ない。
慌てて時計を確認すると6限が終了して1時間経過していた。
「俺、寝てた…?」
「だな。お前のクラスの田中…?だっけ?待ちぼうけ食らってる俺にお前が教室で寝てるって教えてくれた。」
「アイツ…兄貴に声掛けるくらいならなんで起こしてくれなかったんだよ…」
ガックリ肩を落とす俺に、兄貴は苦笑する。
「目、覚めたか?」
言いながら、隣の席から椅子を引っ張りだして腰を下ろす兄貴。
「うー…。ごめん烈兄貴…。」
「いいよ、別に。お前寝て無いんだろ?」
「そうなんだけど…」
軽い鞄を机の上に置いて、ペンケースだけを放り込む。
「俺のせい…か?」
兄貴の声のトーンが下がって、ドキッとする。
「え…?」
「今日、お前に返事する約束だったろ?」
まさか覚えてると思ってなくて、不意打ちに頭がついていかない。
「この一ヶ月、お前がすごい努力してるのは分かってたんだけど、
今更兄弟以外に見るって難しくて…」
うつむきながら、鞄についてるファスナー部分を玩ぶ指が、綺麗だなと思った。
「烈兄貴…」
「お前はさ、生まれたときから弟でその時点で他と比べられない『特別』なんだよ。
まずそこは理解してくれるか?」
言葉を選びながらゆっくり話す兄貴に、俺はコクリと頷いた。
何を言おうとしてるのかすごくドキドキして、頭は真っ白。
でも『特別』という言葉は嬉しかった。
「他の人と同じように考えてくれって、お前は言うけどもう『特別』だから、
それってすごく難しいんだ。」
「うん…」
「で、だ。結論から言うとこの一ヶ月努力はしてみたけど、
まずお前を他の人と同じように考えられなかった。」
「…えー…」
そこは違うでしょうよ、オニイサマ。
俺の不服って態度が分かったんだろう、ちょっとむっとした顔になった。
「だってお前ねー。普通なら男から…しかも弟から告白されるなんて思わないだろ!」
「そこは、年下から告白されたって思ったら良いんじゃねぇの?」
「お前男だろ…」
「愛に性別は関係ない!」
「簡単に言うなよ…俺達は血の繋がった兄弟!なの!まずそこ分かってるか?」
なんとなく、やっぱり兄貴は『兄弟』って言う言葉で逃げようとしてるのがわかって、
俺も腹が立ってきた。
「分かってるよ。十分理解してるし、俺だってなんの気の迷いだ?って何度も考えなおした!
でもどれだけ考えてもやっぱり俺兄貴以上に好きになれる奴いないし、気にも止まらねー!」
「お前は極度のブラコンなんだよ。」
この鬼イサマはアッサリ『ブラコン』なんて言葉で俺の気持ちを片付けてくれる。
でも、そんな簡単な気持ちじゃないんだよってどうして理解してくれないんだろう。
兄貴は『兄弟』ってだけで考える事を放棄してるだけなんじゃないか…?
「じゃ、さ。兄貴に聞くけど。
ブラコンの一言で俺の気持ちが片付くなら兄貴にキスしたいって思ったりするもんか?
俺最初に言ったじゃん。『兄貴とエッチしたい』って。これも"ブラコン"で片付くワケ?」
「それは…」
言い淀む兄貴に、俺はもう押し倒す…じゃない、寄り切ることに決めた。

「兄貴、もし俺に彼女が出来たらどう思う?」
「は?唐突だな、お前」
「いいから、考えろって。俺に彼女が出来たらどう?」
「そりゃ…喜ばしいことなんじゃないか?」
小首をかしげる兄貴は強烈かわいい。でも今はそれに浸ってる場合じゃなくて。
「寂しくない?朝とか、帰りとか俺彼女と登下校する、って事になったら。」
「子供じゃあるまいし、思わないと思う…」
「休みの日も彼女と遊びに行ったりして俺が家にいないってのはどう?」
顎に手を当てて考える兄貴。
「うーん…確かに、今までべったりだったお前が寄り付かなくなるのは、ちょっと寂しいか…な?」
よっしゃ!もうあとは押して押して押し捲るしかない!!

「その彼女と手を繋いで歩いたり、キスしたりって想像するとどお?」
「そんな悪趣味な事しない。」
キッパリと言い切る兄貴に、俺は切り口を変えた。

「じゃさ、兄貴、俺とキスできる?」
「うーん…」
「嫌?気持ち悪いと思う?」
「…うぅーん…気持ち悪い、とは思わない…かもしれない…と思う…」
手ごたえアリ!
男同士ってだけでも気持ち悪い、って思うところだもんな、普通なら!
すごい微妙な言い回しなのはこの際置いておく。
「他の奴とはどう思う?例えば兄貴呼びに言った田中とか、兄貴のクラスメートの八田?とか」
「ありえないな。」
ズバッと言い切る兄貴に俺は確信した。
なんとか兄貴を落とせる!
もうそう思ったら先に手が出てた。
腕を伸ばして兄貴の耳下から首裏に手を回して引き寄せた。
そのまま俺は兄貴にキスする。
ビックリして開かれた目が揺れた気がした。
「…!ご…ぉ…」
俺の名前を呼んで開かれた唇に舌を差し入れた。
「んっ…」
絡めた舌にびっくりしたのか、兄貴が瞳を閉じた。

誰も居ない教室。
外から聞こえてくる部活やってる奴らの声。
時間が止まればいいのにって思った。

ゆっくり離れると、真っ赤になって目が少し潤んだ兄貴に睨まれた。
「…ごぉ…」
ちょっとお怒りなのか、声が恐い。
「嫌だった?」
まだまわしたままの手で、襟足の髪の毛を指に絡める。
さらさらと指の間からこぼれていく感触が気持ちいい。
「…嫌…じゃなかった…」
「決まり、だな。」
兄貴の答えに俺は嬉しくなった。
「何が決まりなんだよ?」
「兄貴は俺の事が好きって事。」
「なんでそうなる?」
「だってキスしても嫌じゃなかったんだろ?普通はヤロー同士でキスなんてしないって。」
「そりゃそうだけど…」
頬染めてもごもご言われても、かわいさが引き立つだけで俺が暴走しちゃいそうなんですが。
「いい加減認めろって。
俺に彼女ができると寂しくて、他のヤローからキスされるのは嫌でも俺は大丈夫なんだよな?
それって俺への愛がなきゃできねーって。」
「だから、始めから『特別』って言ってるだろ?でもそれは『兄弟』だからであって…」
「ハイハイ、すとーっぷ。もう俺確信しちゃったもんね。
兄貴は俺の事が好き!だから今日から俺達は恋人同士!決定!」
名残惜しいけど兄貴から離れて席を立つ。
「お前…!勝手に決定するなよ!OKしたつもりは無いぞ!!」
「キスまでしたのにそりゃないぜ、烈兄貴」
しゅんとしょげて見せれば兄貴の拳固が飛んでくる。
「勝手にしたのはお前だ!」
「でも逃げなかったし嫌がらなかった。大人しくしてたじゃんか」
「それは…びっくりして…」
「俺の手、最後まで振り払わなかったろ?」
固まる兄貴もかわいいなぁなんて思ってる俺は末期だろうか。
座ったままの兄貴の手を取り、立たせる。
そのまま手を繋いで引っ張った。
「帰ろうぜ、烈兄貴。」
多分、俺すんごい満面の笑みだったと思う。
なんせ兄貴が手に入ったんだからな!
まぁ多少強引に押した部分もあったけど、より切って俺の勝ちって事で!

「お前…やっぱり強引な奴だよな…」

兄貴の困ったような笑顔も気にしない。
告白してから一ヶ月。今日から晴れて、兄貴と恋人同士。









『even if』の前のお話。
豪視点で書いて見ました。次は烈視点で書きたいな。

どうしても雲が書く豪は手が早く、兄貴にちゅーしたり押し倒したりします。
なんだろう、本能直下型ってカンジだからかなぁ…