Worry


今日は小学校時代からの幼馴染、星馬兄弟と映画に行く日である。
佐上ジュンは朝から準備に余念がない。

もとは父親から鑑賞券をもらったのだが、
なんの因果か中途半端に3枚だったのだ。
ジュンとしては仲良しの女の子を誘っても良かったのだが、
いかんせん3という数字は良くない。
あの子を誘えばこの子が誘えず。
この子を誘えばあの子が誘えず。という困った状況になってしまうため、
幼馴染の星馬兄弟を誘うことにしたのだった。

映画の内容もホラー系ではないため、烈も二つ返事でOKしてくれた。
映画はもっぱら楽しみなのだが、高校生となったジュンは本日3回目の身だしなみチェックのため、
鏡の前でいろんな角度から己を検証している。

あまりフリフリとした服装は好まないが、
今日はなんと言っても星馬兄弟と出かけるのだ。
気合を入れない訳はない。

黒いデニム地のサブリナパンツに白いキャミソールと黄色のキャミソールを重ね着し、
上から白い半袖パーカーを羽織る。
高校入学のお祝いに買ってもらったcoathのポシェットを肩からかけて、
トレードマークのキャップをかぶる。
いつもならアクセサリーは好まないのだが、少しでもかわいく見えるのであれば、と
今日は大きな水晶やタイガーアイを使ったロングネックレスをしてみた。
ついでに軽く化粧もして準備万端。

そう。
星馬兄弟との外出には否応無く気合が入るジュンだった。



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「おっせーぞ、ジュン!もう映画始まっちまう」
待ち合わせの場所に向かうと、既に星馬兄弟が来ていた。
「おはよう、ジュンちゃん。今日もまた一段とかわいいね」
開口一番文句を言う豪と、ジュンを褒める烈。
まったく持って豪はデリカシーがないと、ジュンは思う。
「おはよう、烈。褒めてくれてありがとう。豪、アンタは映画じゃなくって人並みでも見てなさい!」
二人に走りよって、さりげなく烈の腕に腕を絡ませて、
いきましょ、烈!と豪を放って促した。
背後でぎゃんぎゃん五月蝿い豪を置いて、ジュンは烈の腕を引いて映画館へと入っていった。

本日の豪は、
デニムに白いTシャツ、上からチェックの半袖シャツを羽織ったラフな出で立ち。
烈は白い細身のパンツに臙脂色のTシャツ、グレーの半袖パーカーという服装。
豪にも烈にも文句は無いジュンだが、一つ気になることがある。
コレが、ジュンの気合が入る原因な訳だが。

星馬兄弟と出かけると、とにかく声を掛けられまくるのだ。
主に、烈をメインに。

烈はジュンより身長がちょっぴり低い。
17歳になる烈は身長169cm、16歳のジュンは170cmある。
ジュンも美少女に成長したのだが、烈のそれはジュンを上回る。
中世的美人、とでも言うのだろうか。
とにかく大きな紅い瞳と長いまつげ、紅い髪の毛が周囲に鮮烈な印象を残す。
豪と3人で連れ立っている場合は良いのだが、
豪が飲み物を買いに行ったりして二人でその場に残されるとき、
十中八九は知らない男に声を掛けられる。
『かわいいね〜。どこの学校?ヒマなら俺達に付き合わない?』
大体がこんな感じだ。

正直烈は自分が原因で男に声を掛けられている、とは気づいていないため、
こういう窮地をジュンが救ってやらねばならない。
烈なら性別関係なく、お持ち帰りされてしまう可能性は大なのだ。
『ごめんなさーい。連れがいるから!』
と断るジュンに烈は感心しかしない。
ジュンちゃんはすごくよくもてるんだねー。毎回この調子だもん。
彼氏になる人がうらやましいよ、とは烈の弁だが、
誰のせいで断りまくっているのか、理解してほしいジュンだった。

こういった経緯があるため、ジュンは星馬兄弟と出かけるとき、
むしろ、星馬烈と出かけるときは準備に余念がない。
手が抜けない。女友達やもしかしたら彼氏が出来たとしても、
それ以上に気合を入れなければならない。
それなりの風貌でなければ、断る相手からも馬鹿にされるというもの。


「ねぇ、君達もし暇なら映画が終わったら、俺らと遊ばない?」
ほら、来た。とジュンは内心ため息をつく。
豪が『なんか飲みもの買ってくる』とシートから席を外して5分もしないうち、背後から声が掛かったのだ。
「悪いけど、連れがいるの。また今度ね。」
とジュンは笑顔で答える。
コレでも何度と無く烈の危機(本人は気づいていないが)を救ってきたジュンである。
相手に嫌な思いをさせないように、後々変なトラブルにならないように、
断り方も研究している。
大抵、頭が悪くてもこういう断り方をすれば引き下がるのだが、今回はそうもいかなかった。
「じゃあさ、電話番号とメアド交換してよ。」
二人組みの男のうち、耳にいくつかピアスをしてる、いかにも軽そうな男が
烈とジュンのシートにもたれ掛りながらケータイを取り出している。
烈と一緒でなければ相手の横っ面にグーパンチをお見舞いしているところだが、
烈の手前、殴るわけにもいかず、ジュンはにっこり微笑んでなおも断った。
「ごめんなさい。そういうのはちょっと…」
「なんだよー、良いじゃん。電話番号とメアドくらい。」
「そうそう、ここで会ったのも何かの縁だしー」
ピアス男の連れらしき茶髪の男も便乗して、ますますジュンはイライラしてきた。
流石に烈もジュンが気の毒になって助け舟を出そうとした。
「俺たちさー、何もとって食おうって思ってないし。」
「一緒に遊んで、ぱーっと盛り上がろうよ。かわいい子と一緒の方が俺らも楽しいし!」
ね、ねとケータイを差し出してくる男達に、烈も困り顔で応対する。
「嫌がってるし、あんまりしつこくするのもどうかと思うけど?」
「えー、俺らしつこい?君、俺らみたいなタイプ嫌い?」
問われて烈は一瞬疑問符を浮かべたが、気にせず答えていた。
「まぁ…嫌いというか、苦手…かな」
軽く握った右手を唇の下に当て、困った、といった仕草をした烈。
その表情見て男達はヒートアップした。
「うっわ!マジかわいい!!ねー君、名前教えてよ〜」
「かわいい…?!」
茶髪の言葉に眉尻を上げる烈。
「うんうん。超かわいい。名前だけでも教えて〜」
烈の顔を覗き込むピアス男。
ジュンは一つ盛大なため息をつくと、顔を近づけてくる男達を退けた。
「あんたたち、そろそろ映画も始まるしいい加減にしなさいよ。
怒ると本当に恐いんだからー。」
恐いのは本当だ。
ただし、ジュンが、ではない。
烈と、その弟、豪が、だ。

「えぇ〜。かわいい君らに怒られたってちっとも恐くないもーん」
こいつら、相当馬鹿だ、とジュンは思った。
烈の何とかの緒も切れそうなことであるし、何とか早急にこの場を押えたかったが。
ここへ来て豪様の登場となってしまった。
「お前ら、俺の連れに何してんだよ。」
両手にコーラ、コーヒー、紅茶、ポップコーン、フライドポテト、パニーニの乗ったトレイを持ち、
仁王立ちの豪。
一体何時から話を聞いていたのか、ご機嫌はMAXの状態で斜めのようだった。

単細胞な部分は否めないが、外見上は身長183cm、良い男の典型である豪だ。
チャラチャラした野郎など目ではない。
この豪の登場により、ピアス男・茶髪男、ともども
『なんだよ、野郎連れかよ』と呟きシートも移動してしまった。
しかし、きっちりと烈とジュンに、
「3人だと一人余るでしょ、俺達は3人でも良いからさー。
いやになっちゃったらおいでよね♪」と声を掛けていくことを忘れなかった。

「なにやってんだよ烈兄貴〜」
仁王立ちのままだったが、烈の隣のシートに腰を下ろす豪。
「ごめんごめん、助かったよ。あいつら頭悪くってさぁ。話が通じないんだ。」
烈は、豪が持ってきたトレイから紅茶をジュンに手渡しながら続けた。
「ジュンちゃんもゴメンね。嫌な思いしたでしょ?僕がもうちょっとキツく言えば…」
と申し訳なさそうに告げる。
「あたしは別に、慣れてるから良いんだけど…
(それにどっちか言うと相手も烈目当てなのよね、大体は。)」
「言うな〜ジュン。『慣れてる』だってさー」
シシシと笑う豪は幼いときのままだと思うが。
外見だけがかっこよくなっているため不思議な感じだ。
烈は、さらにコーヒーを受け取りながら、豪をぽかりと小突いた。
「ジュンちゃんはすごいんだぞ。大体男の人から声かけられるんだから。」
はい、ジュンちゃんどうぞ、とジュンが頼んだフライドポテトを手渡してくれた。
「ありがと…」
受け取りながら、ジュンは非常に複雑な気分になっていた。
ジュンが、というよりむしろ烈が、声を掛けられているのだが。
そんなもの烈本人には気にならないのだろう。
軽いため息をつくジュンを尻目に、ポップコーンをおいしそうに食べている。
その烈のポップコーンのご相伴に預かっている豪。
まったく、この兄弟は…と再びため息が漏れてしまう。

そんな訳で星馬兄弟とのお出かけは気合が入る。
そして、家に帰ればどっと疲れる。
しかしながら、烈を守るためお洒落に気合を入れるジュンも、
原因の一端を担っている事など本人も気づいては居なかった。

佐上ジュン、16歳。
彼女の苦労はまだまだ続く。









ジュンちゃん登場。
ジュン→豪烈も好きですが、個人的にジュンちゃんは腐女子だと良いと思います。
星馬兄弟のためにいろいろ尽くしてくれる、アネサン女房的な存在。
でもジュンちゃんは美少女になると思います。
そんな思いの表れがコレ。
烈への賛美しかないような、そんな感じでゴメンなさ…(´;エ;`)
これでもジュンちゃんに萌え萌えしている雲です。