気がつけば俺の中でその人の存在はすごく大きくなっていて。 兄として、チームのメンバーとして、リーダーとして。 俺の『目標』だと思っていたものが実は『憧れ』や『恋慕』に似た感情だったと知った。 キッカケ。 兄弟なんだから、当然『兄弟愛』ってものもある。 この兄貴への思いもそんなもんだと思って軽く考えていた節は、確かにある。 幼馴染である佐上ジュン曰く、「アンタの場合は異常。」なほど 傍から見ると兄貴に執着しているらしいけど。 兄貴に構って欲しい。構ってくれないと拗ねる。 でも集中してる時は邪魔されたくない。 甘えてるから何でも言うし、頼んじゃう。 他の人に構っているところを見るとムカつく。 兄貴が怒ってても絶対許してくれると思ってる。 ざっとこんな感じらしい。 これだけ見りゃ確かに俺は兄貴に甘えたで執着…というか…まぁ…ブラコンだと認めてもいい。 小学生の頃ならいざ知らず。 お互い別々の高校に上がって、生活のリズムもずれてくるとなれば こんな幼馴染からの指摘も少しは改善されるものだと思っていた。 俺は部活が盛んな学校でサッカー部。 兄貴は進学校で弓道部。 そんな状態でも結局俺はガキの頃から変わらないまま、ブラコンっぷりを発揮しているらしい。 *+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+* 顔を合わせるのは夜か土日だけ、というすれ違いの生活も4ヶ月過ぎた夏休み。 部活の練習もなくて暇してた俺は、何気なく久しぶりに兄貴と出かけてみようと思って声を掛けた。 「なー兄貴、たまには二人で出かけねぇ?」 白いコットンシャツにデニム姿の兄貴は冷房の効いたリビングのソファで本を読んでいた。 「出かけるって…どこにだよ?」 「んー。テキトー。冷房効いて涼しいから映画とか?」 Tシャツの袖をまくりあげて、ハーフパンツ姿の俺は、アイスをかじりながら兄貴の隣に座る。 勢い良く座った瞬間、兄貴の髪の毛から良い匂いがしてきた。 「映画かー。俺そういえば見たい映画があったんだよな。」 珍しく乗り気の兄貴になんだか妙に嬉しくなった。 「どんな映画?俺恋愛系はパス。ホラー系は大歓迎」 最後は少しニヤついて言うと、烈兄貴は眉を寄せて嫌そうに答えた。 「お前と恋愛系を見る訳ないだろう…。ホラーなんてもっての外。俺が見たいのはアクション。」 呆れたのか、ため息交じりで新聞の映画欄をめくる兄貴。 「よし!じゃあ決まり!映画行こうぜ。30分後に出発な!」 「あ、おい豪!まだ丁度良い時間があると決まったわけじゃ…」 「タイミング合わないならテキトーに時間潰せばいいじゃん」 多分、傍から見ても俺すっげー浮かれてたけど、兄貴と出かけられる事が素直に嬉しかったから 気にせず二階に上がって準備を始めた。 兄貴と出掛けるのは久しぶり、ということもあってかなりはしゃいでいた気がする。 中学に上がって暫くしたら身長が止まってしまった兄貴と、未だに伸びている俺。 俺が隣を歩くのを実は少しだけ嫌がってる兄貴だけど、構わず並んで歩く。 乗り込んだ電車でドア付近に立つ兄貴をなんとなく盗み見た。 ガキの頃からそうだったけど、睫毛が長い。 肌も白いし、肌理も細かい。 本当に中性的で黙ってれば女でも通用すると思う。 すごい綺麗な烈兄貴。 性格は漢気溢れてるけど。 こんなこと考えてるとブラコンも末期だな、と思う。 確かにジュンの言うとおりかも知れねー。俺って異常なほど兄貴が好きかも。 「豪…?どうした?」 俺の視線に気がついたのか、兄貴が見上げてきた。 上目遣い(本人は気づいて無いんだろうけど)に白いコットンシャツから覗く鎖骨が すげー色っぽいんですけど…。 「なんでもない。そういえば、映画の時間ってどうだったんだよ?」 「お前なー…人の話聞いてないな。上映まで1時間くらい時間あったよ。」 「ゴメン烈兄貴…。じゃあ適当に何か食べてから行く?」 「…そうだな。そうするか。」 多分、本人はなんにも意識してないんだろうけど。 俺から見たら花が綻ぶような笑顔って言うのか?そんな感じに見えた。 「俺、マジでやばいのか…?」 「豪…本気で大丈夫か?熱でもあるんじゃ?」 もとから『かわいい』とか『綺麗だ』とか『女顔』って思ってたけど、 なんだか急に現実めいて兄貴が気になって、顔が赤くなったんだと思う。 心配そうに手を額に伸ばしてくる兄貴にドキドキする。 「や…大丈夫…。ホント…気にすんなよな烈兄貴。」 どぎまぎしながら答えると、兄貴は手を引っ込めた。 「そうか?ならいいけど。」 目的地に着いたら適当に最寄のレストランに入ってオーダー。 兄貴がこれまた"なんとかパスタ"に"ストロベリーパフェ"って 女の子みたいなチョイスをするからまるっきりデートみたい。俺的に。 さっきから俺ばっかりテンション上がってて正直ヤバイ。 「兄貴さー…本当にそれだけ食べるの?」 俺の記憶が確かなら、兄貴って食が細めだから『別腹』が存在しないなら、 パスタにパフェなんて絶対無理。 「多分無理だな。でもお前が半分食べるだろ?」 当然のように言い放つ兄貴にクラクラする。 何コレ。すげーかわいいとか思ってる俺頭おかしい? 「くそ…この小悪魔め…」 思わず小声に出してしまって、兄貴が怪訝な顔をする。 「何か言ったか?」 「…イイエ。何も…。」 オーダー前に注がれたレモン水を一口口に含む。 にやける顔を必死に抑えてると、突然声が掛かった。 「あれ…?星場くん?」 烈兄貴と二人、同時に顔を上げる。 「やっぱりー。偶然だね。」 目の前に立ってたのはかわいい系の女。 俺のほうに面識が無いってことは兄貴の知り合いってことになる。 「あぁ、神崎さん。偶然だね。買い物?」 「うん、そう。友達とー。星場くんは?お友達?」 「弟だよ。」 少しだけ困ったように微笑む兄貴は超かわいい。 二人の会話はそっちの気で兄貴ばっかり見てたら、その兄貴から 「豪、お前黙ってないで挨拶しろよ」って突っ込まれた。 「あー…そっか。星場豪です。いつも兄貴がお世話になって。」 とりあえずの社交辞令。 「いえいえこちらこそ。いつも星場くんにはお世話になってます。」 かわいい笑顔で挨拶してくれる神崎…さん? 多分、学校でもモテるんだろうなぁと思う。 「じゃあ星場くん、私友達待たせてるからまた今度」 手を上げて立ち去る彼女に兄貴も笑顔で別れを告げる。 「そうそう、例の件だけど…やっぱり真剣に考えてみて欲しいの。 返事はいつでもいいから…お願い。」 最後はちょっとだけ切ない顔をして一言告げる彼女。 「…うん…そうだね…」 兄貴は笑顔のままだけど、心の中では困ってる仕草。 神崎さんが立ち去って気配がなくなった後、俺はこっそり聞いてみた。 「兄貴、今の人って?」 「弓道部の仲間だよ。」 「例の件って?」 「…まぁ…色恋沙汰というか…おこちゃまのお前にはまだ早いだろ?」 兄貴がレモン水を口に含む。 薄く色づいた唇が水に濡れてすごく色っぽかった。 「俺にはまだ早いって…年一つしか違わねーじゃん。」 ムッとして言い返すと、兄貴はすごく綺麗な笑顔で返してきた。 「精神年齢が、だろ。」 あの、俺すごく兄貴にキスしたかったんですケド、 これってやっぱり異常デスカ…? *+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+* この後運ばれてきた料理も、観にいった映画も、 兄貴のかわいさにヤられてちっとも記憶に残ってない俺。 大満足そうに俺の隣でにこにこ歩く兄貴は壮絶にかわいかった。 俺等、絶対カップルに見えてると思う。 っていうか、見えろ!って正直念じてた。 *+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+* 「なぁジュン。俺変態かも知れねー。」 俺の通う学校は夏休み中盤に全部活動の合同合宿がある。 2泊3日の工程で、男子は学校に泊り込み。 この合同合宿がキッカケで割とカップルが誕生するらしいんだが。 陸上部のジュンももちろん参加している合宿で、俺はちょっと相談を持ちかけた。 「アンタ、突然何訳のわかんないこと言ってるの?」 午前中の2時間耐久ジョギングでバテた体にへヴィな内容ね、と付け加え ジュンはペットボトルの水を飲む。 今は休憩中で、校舎裏の水飲み場で見かけたジュンに声を掛けて木陰に並んで座ってる。 「変態っていうか、烈馬鹿なのは知ってるケド。」 遠慮のカケラもない言い方はジュンらしくて好きだ。 「こないださー、俺兄貴と映画いったんだよ。 なんかもー烈兄貴が超かわいく思えて、正直ヤバかった。」 首にかけたタオルで汗を拭きながら、二人で出かけたときの顛末を話す。 「へぇ…そりゃ確かに変態だわっていうか、 キスしたいとまで思ってるのに、アンタ烈の事が好きだって気づいて無いワケ?」 「へ…?そりゃ兄貴の事は好きだけど…」 盛大なため息をついたジュンに、俺はビクビクした。 一体何を言われるのか、わかっていたけど理解したくなかった…。 だって…致命的だろ? 「違うわよ。アンタ本当に鈍いわね!」 「や、でも…兄弟だし…」 「キスしたいくらいのブラコンなんて、あたし聞いたこと無いわ。」 「男同士だし…」 「愛に性別なんて必要ないわ。好きなら好きで良いじゃない。」 「ジュン…おまえすげーな。」 関心して言うと、ばしっと頭をはたかれた。 「あのねぇ…。小学生の頃からアンタたちを見てるのよ? アンタが烈を好き、なんて随分前から分かりきっていることじゃないの。」 「え…?そうなの?」 伸ばした足をぱたぱたと上下させながら、ジュンは当たり前の事のように言う。 「多分、気づいてないのは烈だけね。 Jもリョウもトーキチも、次郎丸でさえ気づいてるんじゃない?」 ぽかんとした顔でジュンを見ると、おかしくて仕方ないといった感じで俺を見てた。 「まー、アンタもようやく気づくくらい鈍いけど、烈はその上をいく鈍さだから、 頑張んなさいよ。烈にアンタの気持ちをわかってもらうのは大変だと思うから。」 「ジュン…。サンキュー…」 兄貴への思いに気づいたから突然どうこうってワケじゃないと思っていたけど、 なんだか気づいてしまった勢いは止められそうになかった。 「俺、合宿終わったら兄貴に告白するよ。」 今度はジュンがぽかんとした顔をしていた。 「はぁ…アンタって本当走り出したら止まらないわね。猪突猛進というか。」 「褒め言葉って受け取っておく。」 頑張んなさいと励まして去って行くジュン。 俺はその場で軽く伸びをした。 なんだかすっきりした気分だったけど、告白するとなるとやっぱり少し不安だった。 NEXT(under) |
豪烈高校別設定。 まずは豪→烈への気持ち。 本人たちは気づいていないけど回りは二人が想いあってる事を知ってる… そんな雰囲気も好きだったりします。 で、二人が円満にまとまるまでをぬるく見守っている感じが良い。 次は裏で、まぁチョメチョメな感じです。 |