キモチ 烈の部屋、いつものようにベッドに陣取りマンガを読みふける豪。 背後に感じる豪の気配に、烈は机に向かうが集中できない。 「豪…おまえマンガなら自分の部屋で読めよ…」 勉強が進まない・気が散るのを豪のせいにして、烈は開いた参考書の文字を目で追った。 「えーいいじゃん別に。電気代の節約だよ。オレってエコロジー!」 「何がエコロジーだよ。歯磨きの時水出しっぱなしにするくせに。 いつも誰がその水止めてると思ってる…って、そうじゃなくて。お前がいると集中できない…。」 ため息ついて烈はシャープペンをノートに走らせる。 「いつもの事じゃんかー…。」 読んでいたマンガから目を上げ、豪はごろりとベッドに横になった。 (バカ豪…。こっちの気も知らないで…) もう烈も気づいていた。 勉強に集中できないのは豪がそこにいるから。 豪の一挙手一投足に神経が集中してしまっているから。 いつの頃からか、自分が豪に兄弟以上の感情を抱いていることに気づいてしまった烈。 それ以降豪のちょっとした行動に度どぎまぎしてしまう。 あくまでも兄弟として触れてくる豪に、それ以上を期待してしまう自分に浅ましさまで感じていた。 烈のベッドでごろりとくつろぐ豪をちらりと盗み見て、 分からないようにため息をついた。 あれは烈が中学3年、豪が2年だった秋。 学校の文化祭が終わった後、豪に一緒に帰ろうと誘われて待っていた時だった。 豪の後ろからかわいらしい女の子が付いて来て、豪に手紙を渡す場面を目撃した烈。 雰囲気からなんとなく告白かな、と見当はついたがその後なんだか胸が苦しくなったのを覚えている。 それとなく豪を冷やかしながら帰ったが複雑な思いが渦巻いていた。 ずっと自分のものだと思っていたオモチャが急に人のものになってしまった、と そんな子供じみた感情だと思っていたがどうやら違ったようだった。 冷やかした烈をはにかむように、困ったように話をはぐらかす豪に 手紙を渡した女の子に厭な感情がこみ上げた感覚は今思い出しても辛い。 (割と、恋愛については淡白なほうだとおもってたんだけどな…。) 烈のベッドの上で転寝を始めた豪に歩み寄り、そっと前髪を撫でる。 自分の中にあそこまでどす黒い感情があるとは思わなかった、というのが正直なところだった。 今まで自分だけのものだと思っていたのに、それが急に他人のものになる。 しかもそれはかけがえのないものだったとなれば、当然かも知れない。 結局中学2年の豪にとっては女の子とのお付き合いよりも 烈や仲間とのミニ四駆の方が魅力があったらしく、その子と友達以上の関係にはならなかったようだが。 「…もうお互い高校生だもんな…。お前はいつまで僕の側にいるのかな…」 気持ち良さそうに寝息を立てる豪を見下ろして、シーツに散らばる伸ばされた髪を指に絡めた。 小・中学生のころよりわずかに伸びた髪の毛。 豪を起こさないように慎重に指で梳く。 いつかはお互いに恋愛をして、結婚をして、家庭を築くのだろうけど。 「ずっと側に居たい…って思っちゃってる僕って相当キてるよなぁ…」 宿題を手伝って欲しいとか、たまにはミニ四駆走らせたいとか、 こうやって毎日部屋に居座ったり…なんでも良いから必要として欲しいと思う。 (多分、僕なら普通の兄を演じていられる。) 豪の髪を撫でるのをやめて、机に戻るためその場を立つ。 豪が寝ている間、集中できる時にせめて課題だけでも済ませてしまおうと思った。 ゆっくりと向き直ると背後から声が掛かった。 「…兄貴…」 ビクリ、と振り返ると豪はまだ眠っていた。 「なんだ…寝言か…」 (寝言で僕を呼ぶなんて、お前も相当ブラコンだなぁ…) 豪の寝言にふっと嬉しくなり、烈は再びベッドに歩み寄る。 逡巡した後、ベッドに手をついて身をかがめた。 烈の体重をわずかに受けて、ベッドが軽く軋む音を聞きながら 眠る豪の額に唇を落とした。 「もう少しだけ…側にいさせてくれ…」 (あと1年半。僕が大学に合格して下宿するまで…) |
たまには烈から豪への片思いチックな感じで。 もしも豪が『オレ様』な性格じゃなかったら、 烈は豪を想ってるけど絶対表にはださなくって、豪も烈が好きなんだけど なかなか壁を乗り越えてこない烈にやきもきしちゃいつつ、 二人の関係はこじれにこじれてもーどうしましょ!って感じになると思う。 |