すっごい気障だけど、お前らしい告白。 知ってるか? 好きな人間から『一緒に堕ちて欲しい』って言われることがどれだけ嬉しいか。 恋人冥利に尽きるってモンだよ。 それに僕だってもうとっくの前から答えは決まってるんだ。 手放せないよ、僕だって。 豪、お前が、好きなんだ。 はじめてものがたり ずっと一緒 とてもよく晴れた土曜日。 行楽日和のこの日、豪と烈は揃って立花カンナとの待ち合わせ場所に着ていた。 「せーば…。」 明らかに、不機嫌な立花カンナ。 当然だ。今日は豪とのデートのはずなのに、豪の隣には烈が立っているから。 ファミレスで豪が烈に告白をして、烈はそれを受けた。 そして、立花カンナとの決着を付けたいから、一緒に学校で噂になってくれと言われた。 烈も豪の想いを受け入れてこの場にいるという訳だ。 とは言っても、流石に烈もそこまで図々しくないし、 今日は豪とカンナ、二人で遊びに行く予定という事も聞いてる。 最初だけ烈を伴って今後の気持ちを告げて。カンナに対する豪なりの落とし前なのだろう。 「立花。お前が学校で何を言っても良いよ。 俺、兄貴と一緒だったら何言われてもかまわねーし、兄貴も一緒に噂になってくれるって言ったし。」 豪は傍らに立つ烈の手を握って、烈を引き寄せた。 その行動が嬉しくて、烈もついつい頬を染めてしまうのだが。 目の前に立つカンナの気持ちを考えると少し無神経だったか、とも思う。 「カンナちゃん、ごめん。僕も、豪が好きだから…誰にも渡したくないんだ。君にも。」 瞳に力をこめてカンナを見つめる。 目の前に立つカンナは拳を握り締めて少し震えている。 「ソレを…言うために、今日あけておけって言ったの?」 俯いて自分を抱きしめるように腕を回すカンナに豪はかぶりを振った。 「違う。今日は、立花と二人で遊ぶために来た。」 「…じゃあなんで…っ!」 「でも、言っておかなきゃって思ったんだ。 立花も、兄貴もいる前で俺の気持ちと、覚悟。今日で最後にしたいって事も。」 「ごめんね、カンナちゃん。…じゃあ僕は帰るよ。」 くるりと踵を返した烈に、カンナの声が追ってきた。 「ホントは、分かってた。こんな事したって気持ちが手に入らないこと。 でもどうしようもなかった。アタシには時間もないし、こんな方法しか…」 烈は振り返って、俯くカンナの髪の毛をそっとかきあげた。 その頬は涙に濡れていた。 「カンナちゃん…」 「ごめん…なさい…」 「僕のほうこそ、ごめんね。」 涙を流すカンナの肩をそっと引き寄せて、烈は軽く細いからだを抱きしめた。 「全部が、うまくまるく収まるように、なんて都合よく僕が考えたから、 豪も君も余計に傷つけちゃったんだ。」 「せーば…せんぱい…」 「今日は、めい一杯楽しんでおいで。明日からは、僕も豪を貸し出してあげられないから。」 茶化すように、カンナの涙を指で拭って豪の方へ押しやる。 「アタシ、せーばじゃなくて、先輩を好きになればよかった…」 泣き笑いの表情を作るカンナに、烈は微笑んだ。 その日、23時頃帰宅した豪は、烈の部屋に直行した。 「ただいま兄貴」 ノックもなしに烈の部屋に入って、机に向かっていた烈を背後から抱きしめる。 「ちゃんと、立花にも納得してもらって今日で終わりにしたから。」 「…そっか。」 豪に抱きしめられたまま、烈は呟いた。 「勉強してんの?」 「…まぁ。」 曖昧に答えた烈に豪は腕に力をこめた。 烈の手からシャープペンが落ちる。 「今は俺だけ見て、烈。」 「豪…」 背後から伸びた手は、烈の顎を捉えて豪は自らの方へ上向かせる。 ゆっくりと交わされる唇は、なにかの誓いのようで。 烈は抵抗することなく豪に身を委ねた。 翌日、星場豪と立花カンナが別れた、という噂は電光石火のごとく校内を駆け巡った。 「…星場豪の交際期間では最短記録だな。」 「そう、だな。」 八田の言葉に烈は苦笑しながら答えた。 「で?その原因はお前なんだろう?」 「…まぁそうなるかな…」 照れくさそうに呟く烈に、八田はあからさまに肩をすくめて溜息をついた。 「秀才と誉れ高いお前が、あんな無骨な弟に骨抜きにされるとはな。」 「なんとでも言ってくれ。」 「ますます、豪はお前の下宿に反対するんじゃないのか?」 「…だろうなぁ。」 困ったように授業の準備をする烈に八田は意味あり気な視線を送る。 「高校までは何とかなったかも知れないが。 さすがに大学じゃあいつの頭じゃついてこれないだろ。」 「八田、僕だって莫迦じゃないぞ。」 「お前の志望校の近くに、豪の学力でいけそうな学校があるってことか?」 「そういうこと。」 にっこりと笑う烈に、八田は口角を上げた。 「喰えないヤツ。」 「もう同じ失敗はしないさ。」 今回の立花カンナの一件の事を挙げて、烈は溜息混じりに八田に答えた。 将来の仕事を探すのは難しいが、少しずつでも形にしたい。 そして、豪も手放したくない。 だから烈は自分の志望校選びの中に、豪が通えそうな学校が近くにある事も考慮に入れておいた。 烈のわがままかもしれないが、お互いにお互いを手放す気がないのだ。 豪にも多少は譲歩してもらおう。 「それに、僕が大学で勉学に勤しんでいる間、 アイツが他の子とどうこうなるっていうのは耐えられないからな。」 「随分、ストレートに言うようになったじゃないか。」 感心するように言う八田に、烈は苦笑した。 「まぁ、"一緒に堕ちてくれ"ってこの上ない殺し文句言われちゃったしな。」 「…もうノロケはいい。腹いっぱいだ。」 八田は両手を上げて、ついに降参ポーズをとった。 「で、結局立花カンナはお前達の事触れ回ってるのか?」 「カンナちゃんはそんな子じゃないよ。 はじめは戸惑ったけど、良い子なんだよ本当は。ちょっと不器用なだけで。」 笑顔で答える烈に八田は心の底から安堵した。 「じゃあ、これで後は受験に打ち込むだけ、だな。」 「あぁ。お互いベストを尽くそう。」 当然だ。こないだまでのお前じゃ張り合いがない。と答え、八田は烈に手を差し出した。 一瞬とまどった烈だが、その八田の手を取った。 固く、握手を交わす。 「まずは、次の期末テストで勝負、だな。」 銀縁の眼鏡の奥、きらりと光る八田の眼光は鋭いが、烈をライバルと認めての事。 望むところだ、と続けた烈もこれから始まる受験の年に身が引き締まる思いだった。 「…聞いてねぇ…」 とある週末。星場家の烈の部屋。 烈のベッドの上で胡坐をかいていた豪は、珍しく豪の隣に座る烈に、恨めし気な目を向けていた。 「だから、今、話してるんじゃないか。」 「立花の件が落ち着いて、これからようやく兄貴といろいろできると思ったのに!」 「いろいろって何だよ!」 頬を染めて豪を押しやる烈の腕を掴んで、豪はさらに言い募った。 「いろいろっていろいろだよ!俺だって健全な男子高校生だもん!」 「"もん"とか気持ち悪いからやめろよな!」 豪に引き寄せられるまま体制を崩して、たくましい胸に頭を預ける。 「お前が何て言ったって、志望校は僕が決める。 で、僕の志望校はW大。下宿するから。」 「そんなぁ…兄貴…ひでぇ…」 「お前も追いかけてきたらいい。W大の近くに、お前でも頑張れば入れそうな学校があるから。」 「え?」 「お前がその学校に合格したら、二人で暮らせるだろ?」 「え?それって…同棲って事?!」 対外的には兄弟だから、"同棲"というより"同居"なんだろうが、烈は豪の言葉に頷いた。 ここでまたダダをこねられたらたまらない。 「二人だけで暮らすんだから、家の中なら誰にも何も気兼ねしないで済むだろ?」 だから、1年我慢しろよと続けた烈に豪の顔も緩む。 「1年の我慢…か。なぁ、週末は兄貴のところに遊びに行っても良い?」 「いいよ」 じゃあ、我慢できるかも。笑顔で豪は烈を抱きしめた。 「でも、僕がW大に受かってからだけどね。」 抱きしめられ、額に、頬に、唇に豪からキスを受けながら、烈はくすぐったそうに続けた。 「豪、好きだよ。 絶対に手放さないから。追いかけてこい。」 「言われなくても。俺だってぜってー兄貴を離さない。 下宿してるときに俺以外のヤツとどうこうなったりしたら…ゆるさねーから。」 「…信用されてないな。それは僕のセリフだよ。」 軽く豪の鼻のあたまに噛み付いて、烈は笑った。 この一年後の春、無事にW大に合格した烈のもとに足しげく通う豪の姿があった。 end |
はじめてものがたり、これにて終了でございます。 長い間お付き合いいただいてありがとうございました。<(_ _)> 最後はなんだか尻切れトンボって感じになってしまいましたが、 一応これで完了、と。 番外編で裏ものを書くかも知れません。 豪烈的初夜(笑)をwww |