頭の中がぐちゃぐちゃする。 何がどうしてこうなったのかよく分からない。 でもとにかく今の流れ全てが良くない事は分かってる。 どうにかしてこの流れを変えたいけれど、どうしたら変えられるのか。 立花カンナに関する問答のあとの微妙な雰囲気。 もう修復は出来ないのだろうか…。 はじめてものがたり 分岐点 「おはよ、兄貴」 「あぁ…おはよう。今日はちゃんと起きたんだな。」 「まぁ。迎えに行かなきゃなんねーし…」 「…そっか…」 「じゃあ先行くわ。」 「あぁ。」 短い会話を交わして、豪は玄関へ向かって烈の隣を通り過ぎる。 少し前ならいつも通りの朝。 でも今はぎこちない朝。 烈は食卓から豪を見送って、小さくため息をついた。 豪は立花カンナを迎えに行く。 期限付きとはいえ、昨日から二人は付き合っている訳で。 烈が豪の行動についてとやかく口を挟むべきではない事は重々承知だ。 それに烈もそこまで子供じゃない。 豪もどうして良いか分からない状態だという事も理解しているから。 昨日、感情のままに豪は烈を押し倒し手に入れようとした。 未遂には終わったけれど、やはりこの立花カンナの件も含め二人の関係は微妙なものになってしまった。 立花カンナの件があったにしても、お互いが納得できる形で話合いが出来ていれば 一ヶ月我慢することも出来ただろう。 しかし、自らを責めて、立花カンナと付き合うなと言って欲しかったと言う豪に対し、 自らを律することに関しては大人顔負けの烈が感情を爆発させることはなく。 この状況を生み出した責任すら感じて、豪の行動を黙認しようとした烈。 気持ちのすれ違いが行動のすれ違いになって、 カンナと約束した一ヶ月後に元の二人に戻れるのかどうか、分からなくなっていた。 (泣き喚いてどうにかなる問題でもないだろう…。 付き合わざるをえない状況で、付き合うなって言って問題が解決する訳ないじゃないか…) コーヒーを飲み下しながら、烈は胸中で呟く。 ブラックコーヒーは当然のように苦い。 けれど今朝のコーヒーはいつもよりずっと苦く感じた。 「おはよ、星場。えらく暗い顔じゃない。」 「カンケーねーだろ…」 立花カンナとの待ち合わせ場所。 駅と学校の丁度中間地点にあるコンビニ前。 昨日の今日で烈と同じ食卓につく事が出来ず、朝食は食べずに出てしまった豪は、 カンナが来るまでコンビニでパンと牛乳を買って食べていた。 「カンケーあるじゃん。朝っぱらからそんな暗い顔しないでよ…」 少し拗ねるような表情のカンナ。 昨日、烈からカンナの話を聞いたせいか、少しだけ優しくしてやろうか、とも思う。 同情…というわけではないけれど、確かに烈が言うとおり家だのなんだのに縛られて 自由に生きられないのは窮屈な気がする。 そうは思うけれど…やっぱり豪は今までの自分を省みる意味でもこのような関係は良くない、と思う。 烈に対しても、カンナに対しても不義理であるし、何よりもう自分自身を欺くことが出来ないでいる。 頭では分かっていても感情がついていっていない。 豪は一つ、息をついて呼吸を整えると、カンナに向かって切り出した。 「立花、お前今週末ヒマ?」 「…予定はないケド…」 「空けとけよ。どっか行こうぜ」 思いがけない豪からの言葉に、カンナは頬を紅潮させて俯いた。 そして小さく頷く。 *+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+* 2年の教室。 授業が始まる前の教室では前日のドラマの話や今日の予定・部活の話などでざわついている。 そんな中、イスに座る烈とその隣に立つ八田。 「で、結局星場豪とは話がこじれたままなのか?」 「…まぁ…。お互い頭を冷やすって感じかな…。」 ふっとため息をついて烈は授業の準備をする。 朝から古典の授業だ。退屈な上眠気を誘うだろうがおそらく昨日の豪とのやり取りや 立花カンナの件も含めてゆっくり考える時間にあたる筈だ。 結局昨日は柄にもなく泣いてしまって、考えるどころではなかった。 朝もなんとなく思い気分で朝食を取っていたが、豪とのやり取りで二人の間に大きな溝が出来てしまった事を知った。 「何とかしたいけど…さ。こればっかりは…。」 どうあっても一ヶ月は身動きが取れない。 その間に考えるつもりでもあったのだけれど。八田はそんな烈の様子を見て眉をひそめる。 「烈。随分とゆっくり構えているが、本当に大丈夫か? オレが察するに…。豪はお前にヤキモチ妬いてもらいたかったんじゃないか?」 「…ヤキモチ?」 ヤキモチを妬くも何も。そういう次元の問題ではないような気がしていた烈は不思議そうな顔をして八田を見返した。 「原因は確かに豪の女遊びなんだろうけどな。 仮にも付き合ってる奴に嫉妬されない…って言うのは悲しいものだと思うが?」 八田の物言いに烈も少し考える。 もしかしたら、そうなのかも知れない。 豪としてはただひたすら謝るしか方法がないのだろうが、 謝るどころかあっさり『仕方ない』と引き下がられたらどう思うのだろうか。 …もし自分が逆の立場なら悲しくなるかも知れない…。 そこまで考え至って烈は頬杖をついた。 「確かにそうかもな…。豪なら普通にあり得る。つまり、アッサリ二人の仲を認めた僕が悪かったってことか…?」 烈にしてみれば、そんなにアッサリ認めた訳でもないのだけれど。 長くため息を吐いて、烈は八田を見上げた。 「…可能性の一つでは、あるだろうな。あの単純バカの弟なら。 オレは兄貴にとって何なの?くらいは言いそうじゃないか?」 存外、女々しいしな、と続ける八田に烈は苦笑いを隠さなかった。 「ご名答、だよ。」 確かに、言われたなぁと呟いて、烈は乾いた笑いしか出てこなかった。 豪を悲しませた原因は分かったとして。 さてこれからどうしようか。 今更本音を曝け出したところで白々しい。 それに一度認めた二人の仲を期限前に解消して欲しい、などと割り切った当の本人から言える訳がなかった。 「まぁ、考え過ぎることもないだろう。 お前の弟はバカだが真性じゃない。あいつなりに考えて何とかするだろうさ。」 八田の言い方は酷いといえば酷いが、確かに豪の正確を見抜いている感じで烈は曖昧に微笑むに留めた。 「豪との事どうするかは置いておくとして…。来週から始まる進路相談について 相談に乗ってくれないか?八田。」 今日の昼は豪はここには来ないだろうから。 烈は豪との問題解決とは別に、来週から始まる進路相談について頭を切り替えた。 「…豪…」 「なに?」 烈の予想に反して。 昼休みの時間には豪はパン持参で烈の元までやって来た。 八田と進路の話でもしながら昼食を、と考えていた烈にとっては想定外の事だ。 弁当を広げていた八田と烈の向かいに豪は座る。 「弁当、忘れてきたのか?」 目の前の豪にどうやって対応して良いか分からず、とりあえず別の話題を振ってみる。 「うん。でもパン買ってきたし。」 烈の弁当箱から卵焼きをつまみながら、豪はパンの袋を開けた。 「いいのか?」 烈は豪を見つめて問う。 言わずもがな、カンナの事で。それを分かって豪は頷いた。 「うん。良いの。」 ハナから気にしていない感の八田は、豪に自らの弁当箱を差し出す。 「炭水化物ばかりじゃ栄養が偏る。野菜も食べろ。」 「サンキュー」 ちゃっかり八田の弁当からブロッコリーをつまみ、豪は口に運ぶ。 コーヒー牛乳で喉を潤しながらパンを食べる豪を見て、烈は何も言わずに自分の弁当をつつき始めた。 食事中は、いつも通り他愛ない会話で時間が過ぎてゆく。 昨日のテレビの話だとか、なんだとか。 少し八田と烈の進路の話にもなり。 「八田は大学どこに行くつもりなんだよ?」 豪の問いに、八田は銀縁眼鏡の縁を押し上げて宣言した。 「オレはT大が第一志望だ。」 「マジ?!行けんのかよ?」 「ふっ…不可能なら言いはしないさ。」 自信たっぷりの八田に対し、豪はにやにやと笑うだけだ。 そして烈にも話を振る。 「で?兄貴は?どの学校行くの?」 「僕は…」 烈が口を開きかけた時、ちょうど予鈴が鳴った。 「あー…時間切れ。じゃあオレ戻るわ。」 ゴミをゴミ箱に放うりながら、豪は腰を上げた。 立ち上がりざま、豪は烈の耳元に囁いた。 「兄貴、話がある。どっかで時間作って。」 |
悶々と悩む豪と烈。 カンナが間に入ってどうなるものやら…。 でもそろそろ決着つきそうです。 はやく二人をラブラブにさせたいなぁ。 よし、頑張るぞ。 |