ずっと、想ってた。 誰かと付き合ったって聞いてもすぐに別れると分かっていたから我慢も出来た。 どんな女と付き合ってもそれが星場豪の本気じゃないと分かっていたから。 でも今、星場豪は告白してくる女を片っ端から断ってるって…。 断る理由が『本命がいるから』って。 それじゃあ、この気持ちはどこへやればいいの? はじめてものがたり ヤキモチのち、ノロケ 「兄貴ー!一緒にかえろうぜ」 2年生の教室に堂々と入ってくるのは星場豪。 「来たなブラコン星場豪!」 烈の机の前で迎え撃つのは腐れ縁の八田。 ど派手に追いかけっこをした日から、豪は毎日のように烈の教室に烈を迎えに来るようになった。 「八田も豪も、やめろよ!みんなが見てるだろ」 クラスの目を気にしながら二人の間に割って入るのは烈だ。 「豪も、教室までくるなって言ってるだろ。下駄箱で待ってろよ。」 「兄貴そういってまた逃げるかもしんねーし。」 「あー!!俺の教室でイチャつくな星場兄弟!」 「イチャつくっ…?!八田!いちゃついてなんかないだろっ」 豪と烈と八田のやり取りもいつもの事で、教室ではまたやってるのか、といった空気が流れている。 やがて、やれやれと銀縁のメガネを押し上げ、八田は星場兄弟に手の平をひらひらと振る。 「もう帰れ星場烈。目障りだ。」 「悪かったなぁ目障りで。」 苦笑しながら鞄を持ち上げ、烈は豪を促す。 八田の憎まれ口も慣れたもので、コレがホンネでない事も理解済みの烈だ。 「明日は生徒会の会議があるからな。一緒に帰るならお前の犬は外で待たせて置けよ。」 「誰が犬だよ八田!」 「お前だ星場豪。」 腕組みをして踏ん反り返り、八田は教室から星場兄弟を送り出した。 ある意味、このクラスの風物詩になったやり取り。 烈は複雑な気持ちで教室を後にした。 「星場!」 下駄箱で靴を履き替え並んで門を出た烈と豪は背後からかけられる声に同時に振り向いた。 走って近づいてくるのは『女子高生』然とした女生徒。 濃い目の化粧にコテで巻いた長い髪の毛、短いスカートといういでたちで、 烈個人的には彼女にしたくないタイプの女の子だ。 「烈兄貴知り合い?」 二人同時に振り返ったは良いが、豪に面識はないようだ。 しかし烈にも面識はない。 耳元で小声で聞かれ、烈もそのまま豪に答えた。 「…お前じゃないのか?少なくとも僕は知らないし、同学年にいなかったと思う。」 こそこそと耳元で囁きあう様を見て、声を掛けてきた女生徒は明らかに眉をひそめた。 「何、星場ってブラコン?」 「誰、おまえ?」 女生徒の言葉はスルーして豪はさも興味なさそうに聞き返した。 その態度が気に入らなかったのか少し怒り口調で女生徒が腕を組む。 「アタシは立花カンナ。隣のクラス。星場って今フリーでしょ? アタシと付き合って欲しいんだけど。」 今時の子は公衆の面前ですごいことを言うもんだ、と傍から見ていた烈は思わず感心してしまう。 ほう、と感嘆のため息を漏らした烈に対し、豪は呆れたようなため息をついた。 「俺、もうそういうのやめたんだ。悪りぃけど、ほか当たってくれよ。」 「…ふぅん…本命が出来たってウワサ、本当なんだ?」 立花カンナの言葉に烈の方がドキリと顔色を変える。 「お前にカンケーないだろ、そんなこと。」 面倒臭そうに頭をガリガリとかき、豪は烈を促した。 「その本命に手が出せなくて攻めあぐねてるっていうのも本当だったりするワケ?」 「おまえなぁ…」 当の本命本人がいる前でなんちゅーことを言ってくれるんだ、と 豪は内心ヒヤヒヤしながらこっそり烈を覗き見た。 こんな事を言われて、せっかく自然と手を繋いだりキスできるようになってきたのに、 変に意識されて関係が後退してしまっては困る。 烈は烈で居心地悪そうに少し下を向いて、先に帰るべきかどうか迷っているようだ。 「とにかく、ウワサだろうがなんだろうが好きに言ってて良いケド。 俺は手当たり次第付き合うのはやめたから。お前とは付き合えない。いいだろそれで。」 行こ、と烈の腕を引っ張ってそのまま歩き出す。 引っ張られるまま烈も歩き出した。 「豪…あんな断り方でよかったのか?」 二人で電車に揺られながら、烈がそっと豪に問いかける。 気持ちが入っているかどうかは分からないが、女の子の方から告白してきた訳で。 それをあんな形で断って良かったのかどうか。 烈としてはもう少し誠意のある断り方でも良かったんじゃ無かろうか、と思ったのだが。 豪は烈の言葉にムッとしたようだ。 「あんなって。スパッと断ったほうが後腐れなくてイイじゃん。 結果的に付き合えないんだからキッパリ言った方がアイツのためだって。 それに、俺の本命って誰か知ってるだろ?その本命サンが、告ってきた女の肩持つの? あの女だって俺が好きなんじゃない。俺なら断らないから付き合ってくれって言ってるだけだよ。」 納得いかない、という顔で豪が烈に訴えた。 「そんなもんかな…」 「そうだよ。…だいたい、兄貴は俺の事なんだと思ってる?」 帰宅ラッシュの満員電車の中、扉に凭れて立つ烈を周りから遮断するように、囲うように立つ豪。 長身の豪が頭を垂れれば、扉と豪の間にすっぽりと収まってしまう。 頭上から囁かれて烈は固まってしまった。 「どうって…」 「俺の本命サンでしょ、兄貴は。 攻めあぐねてるってウワサも本当だって知ってるでしょ。」 「…それは…」 言葉に詰まる烈に、豪は自分の失策を知った。 これでは烈を追い詰めているようなもので。 せっかく二人で、自然な流れで関係を進めていけると思った矢先にとんだ後退だ。 それもコレもあの女があんな場所で変なことを言い出すから…と半ば八つ当たり的な気分で豪は烈に分からないように小さくため息をついた。 「…別に、焦るつもりもないし兄貴が嫌がるような事はしないよ。 でも俺、烈兄貴の事が一番好きなんだ。それを否定だけはしないでくれよな…。」 「わかってる。」 烈は豪の腕の隙間からきょろきょろと車内を見渡し、 車内が満員で誰もこちらを気にしていない事を確認すると頭を垂れている豪を見上げた。 そのまま、触れるか触れないかくらいのキスを豪の頬に贈った。 「兄貴…っ」 びっくりして烈から少し身体を離す。 照れたように頬を染めて車外へ視線を向ける烈に、豪は小さく苦笑した。 (本当、わかってねーよな烈兄貴は。こんな事されたら悪戯したくなるっつーの…) 満員電車を降りて、自宅までの道のりを二人並んで歩く。 途中の公園に寄ろう、と豪は烈を誘った。 家に帰れば兄弟としての時間を過ごさなければならない。 電車内での事があって今日はそのまま家に帰るのが少し惜しい。 もう少しだけ甘やかな雰囲気に浸っていたい。こういった気分は初めてだ。 公園による前にコンビニに寄って、ペットボトルのジュースや肉まんを買う。 本当なら手を繋いで歩きたいけれどここは地元で家もそこそこ近い。 手を繋ぎたい欲求を抑えるためにも買い物袋を持った。 公園に着くと、ブランコに二人で座って他愛ない話をする。 すでに日も落ちて、日中なら子供や親子連れでにぎわうであろう公園も、今は二人の姿しかない。 時折公園の側を人や自転車が通りすぎて行くが、周囲からは夕飯の良い匂いが漂ってくるだけ。 ブランコを適当に揺らしながら、肉まんを食べてジュースやお茶を飲む。 こんな時間がとても幸せだ、と烈は思った。 豪の女遊びが激しかった時はこんな時間は一生送れない、と考えたものだが。 逆に、豪はこういった形でいつも彼女を誘っていたのかな、と思うと少し妬けてしまうが。 「兄貴、そっちって何味?」 「えっ?あぁ…んーと…豚角煮まん。」 「一口ちょーだい」 ブランコを寄せて、烈の細い手首を持ちそのまま口へ運ぶ。 ぱくり、と中華まんを食べる豪の姿に烈はゾクリとする。 彼女にいつもこんな事していたのか、と思うとやはり胸の中に燻るものがある。 「ん?何…俺の顔に肉まんついてる?」 烈の視線に気づいた豪が、中華まんから烈に視線を向けた。 「…別に…」 ちょっと不機嫌な烈の雰囲気に、豪は自分の中華まんを差し出す。 「俺のはもんじゃ焼きまんだけど。兄貴も食う?」 「要らない。」 ぷいと顔を背けてしまい、烈は我ながら子供っぽいなと思ったが仕方ない。 掴まれたままの手を取り戻そうとするが、思ったより強い力で握られていてびくともしない。 「兄貴、なに怒ってるの?」 不思議そうな顔をする豪に烈はなんでもない、とただ返した。 「嘘だろ。ぜってー怒ってる。顔に書いてあるもん。」 さらに掴んだ腕を引き寄せようとする豪に抵抗する烈。 「怒ってない。」 「怒ってる。」 「手、離せよ」 「嫌だ。」 豪の真剣な視線を受け止めきれず、烈はふっと視線を逸らした。 「兄貴、俺家に帰りたくなかったから公園に誘ったんだけど、嫌だった?」 「…嫌じゃない。」 「じゃあ何でそんなご機嫌ナナメなの? 俺電車で兄貴からキスしてくれた事が嬉しくて、もう少し二人きりで居たいから誘ったんだけど。 烈兄貴の機嫌がどんどん悪くなるのはなんで?嫌じゃないならなんで不機嫌なんだよ。」 幸せな気分が一転、自分の行動が烈の機嫌を損ねてしまっていたなら元も子もない。 烈も一緒に甘い気分に浸ってくれているもの、と思っていたのに。 口調が多少責めるものになってしまったのは豪のそんな気分の表れだった。 「…もう帰ろうか、豪。」 視線にも言葉にも耐えられず、烈はブランコから立ち上がった。 中華まんもすっかり冷えてしまった。 「なんで不機嫌なのって俺は聞いてるんだけど。」 歩き出そうとする烈の、捕まえたままの腕を引き寄せて逃げられないように自分の膝に座らせた。 「豪!」 豪としては、自分の行動の何が烈を怒らせたのか知りたいのに教えてもらえず。 烈としては、豪の行動に今までの彼女に対して妬いているとは言えず。 お互いに相手にイライラしてしまう。 烈はふぅ、と怒気を混ぜ込んだため息をついて豪の頭を撫でた。 「お前は悪くないよ。気にするな。」 「…納得できない。ちゃんと説明するまでこのまま。」 急にやわらかくなった烈の態度に豪は少しだけ安心するが、それでも納得できずに烈の腰を抱きしめる。 「……あまり…言いたくないんだけど…」 「ダメ。」 キッパリと言い切る豪に、烈は半ばやけくそになって答えた。 こうなれば兄としてのメンツも何もない。 今、豪の膝に座らされ、逃げられないようにがっちりと腰を抱きしめられているこの現場を誰かに見られる事の方が大問題だ。 「お前、いままで付き合ってきた彼女ともこうやって過ごしてたのかなって思って。 それ考えたらなんだかムカついてきた。」 「…へ?…それって…もしかして、ヤキモチやいてくれたってこと?」 烈からの想定外の言葉に豪がきょとんとした顔で聞いた。 「うぅっ…そーだよ!平たく言うとそういう事。もういいだろ?離せよ。」 ぷい、とそっぽを向いてしまう烈に、どうしてこの人はこんなにかわいいのか、と叫びたくなるくらい豪は愛しさで胸がいっぱいになる。 「あー…もぅダメ!兄貴かわいい!!かわいすぎるっ!!」 離すどころか、さらにぎゅーっと烈を抱きしめ烈の胸にぐりぐりと顔をこすり付ける。 「ちょっ…豪!…ばか!よせ!はなせー!」 じたばたと暴れる烈を押さえつけて、豪はその頬に額にキスを繰り返す。 ここが自宅の近くの公園だとか、そもそも外だとか、そういった道徳的な概念はすっ飛んでいた。 冬の日の太陽はもう既に無く、街灯もまばらな公園で周囲に人影もない。 豪はそっと烈の首筋から髪に指を差し入れて引き寄せた。 ただ触れ合うだけのキスを繰り返して、烈の身体から力が抜けたタイミングでするりと舌を滑り込ませた。 「んっ!?」 初めての深いキスに烈の身体がビクリと強張る。 いい加減恋人同士のふれあいに慣れて欲しいものだが、こういった烈の反応一つ一つも愛しい。 舌を絡めて、咥内をあますことなく味わう。 豪の舌に翻弄されながら、なんとか豪に応えようと烈もおずおずと舌を絡める。 「…っ……ん…」 飲み込む吐息に甘いものが混じり、豪の肩を掴んでいた烈の手に力が篭った。 そろそろ限界か、と豪が唇を離すと二人の間を糸が繋ぐ。 「…ごぉ…」 暗くてよくは分からないが、おそらく頬を染めているだろう。 少しぽぉっとした表情で烈が小さく豪の名を呼ぶ。 「烈兄貴…俺、すげー兄貴が欲しい。」 素直に言葉に出してしまってから、とんでもない発言をしてしまった、と豪は後悔した。 けれど、今のキスだけで下半身に熱が集中してしまっている。 「もう、お前のものじゃないか…」 キスで力が抜けたのか、くたりと豪の肩に頭を預けて烈が言う。 「いや、そうなんだけど…。意味が違う…」 烈の言葉に少し安心したようなガッカリしたようなそんな面持ちで豪は寄りかかる烈の頭を撫でた。 「烈兄貴…好きだよ。」 どれだけ言葉にしても足りない気持ちを、あえて烈に告げる。 「僕も好きだよ。」 幸せそうに微笑む烈に、豪も嬉しくなる。 烈が自分のものになるとも思っていなくて、こんな日が来るとは思いもしなかった。 「帰ろっか」 もう少しキスの余韻に浸っていたいが、これ以上は正直ヤバイ。 豪は名残惜しいものの、烈を立たせて公園を出た。 「お前の最大の不幸は、全てにおいて標準以上の兄貴を持ったことだ。」 「…はぁ…。何言ってんの、お前?」 前日の出来事をだらしない笑顔で語り倒すの豪に対し、 惚気は勘弁してくれ、と両手を挙げながら宣言したのは豪の悪友、高木だ。 「そんでさ、聞けよ。兄貴ってば俺が今まで付き合ってきた彼女にヤキモチ妬いてさぁ。 俺の方から何かしたいって思ったのは兄貴だけだって言ってんのに。もーかわいくてかわいくて!」 鬼ごっこの一件以来、星場兄弟の関係を知ることとなった高木の呟きもなんのその、 豪は構わず話続ける。 「星場、お前さ。兄貴と付き合うようになってから一皮剥けたっていうか… なんか吹っ切れたって感じするな。」 呆れた顔をして高木は豪を見た。 今までの豪は誰と付き合っていてもこんな惚気を言うことはなかった。 この年齢特有の男子の興味として付き合ってる彼女とどこまで進んだか、等話には出るが。 豪はまったく興味なさそうに適当に話をあわせるか、周りが喜びそうな話題を提供するだけだった。 いつも何か辛そうな顔をしていた豪に生気が戻ったのは、女が途切れた頃。 女が途切れたせいか毎朝兄貴と登校するようになり、件の鬼ごっこだ。 正直、高木はあの無関心・無感動・無執着の星場豪がここまで顔をだらしなく綻ばせて聞きもしない事をあれやこれやとしゃべる様が想像できなかった。 高木が狙っていた女子も豪に告白し、豪と付き合っていたこともあった。 豪には黙っていたが、面白くなかったし、自分のお気に入りの子と付き合っているのにつまらなそうな豪に対して怒りも覚えたものだが。 今のこの状態を見ればその理由が良くわかる。 好きになったのが実の兄貴で、普通ならどれだけ想ってもその想いが通じることも、報われることもない。 やけになって手当たり次第付き合う気持ちもほんの少しは分かる気がする。 実の兄貴はあの容姿であのかわいらしさだ。 十ン年も一緒に居れば、そりゃ自分も参っていたかもしれない。 どんな経緯があったかは知らないが、恋焦がれていた兄貴が手に入った喜びは計り知れないんだろう。 (そんな訳で、二人の事気づいちまったオレが誰にも話せない惚気話の人身御供になったんだろうけどなぁ…) 嬉しそうに話す豪の顔を見ながらため息をついた。 どこまで続くか分からない惚気にうんざりし始めたところで教室に来訪者があった。 1時限の開始まであと5分あまり。 「星場、ちょっと話があんだけど。」 デレデレと高木に話続ける豪の前に立ったのは、 昨日の立花カンナだった。 |
長くなってしまったので次に続きます。 ほんとうはここから先の方が今回の本題でした。。。orz あー、でもただひたすらにいちゃいちゃしてる豪烈も良いですなぁ(*>ω<*) わたくしが書きますと力不足でイマイチ状況描写に欠けたりして萌えないんですが。 他のステキサイト様でイチャらぶの萌えをいただいております♪ |