『兄貴…さ、本当にオレのこと好きなわけ…?』 好きだよ…。好きじゃなかったら僕が告白するはずないじゃないか…。 そういう豪だって、僕を好きだって言っておいて何もしてこない。 本当に付き合ってるのかそれともおちょくられてるだけなのか…。 僕だって聞きたいよ。本当に僕の事好きだと思ってるのか?って。 はじめてものがたり 二人で前進 上級生が下級生の教室に来ることは(その逆もだが)非常に目立つ。 それが、浮名を流す星場豪の兄で、眉目秀麗・容姿端麗・弟は正反対に真面目で優等生と評判の星場烈ときたらその注目度は跳ね上がる。 一瞬ざわつく教室に入ってきた真紅の髪を持つ兄・星場烈に豪は情けない視線を向けた。 「豪、おまえ弁当忘れて行っただろ?届けに来てやったぞ」 なんだ、その情けない顔は。と付け加えられて、豪の顔がさらにふにゃんと歪む。 「烈兄貴ぃ〜…」 「ほら。朝食べてない分僕のりんごもつけてやったから。」 「うぅ…ありがと烈兄貴…」 差し出された弁当を受け取ろうとして手を伸ばす。 不意に烈の手に豪の手が触れて、その瞬間烈の肩がぴくりと揺れた。 「…っ…じゃあ、僕教室に戻るから。」 「あ、待ってよ烈兄貴!どうせなら一緒に喰おうぜ」 すぐに離れようとする烈の手を捕まえて、豪もそのまま席を立つ。 「お前なぁ…朝も夜も一緒に食べるのに、昼くらい友達と食べたらいいだろっ」 ポーカーフェイスを装っているつもりではあるが、烈の耳がわずかに赤い。 「いいじゃんたまにはー!弁当取りに行くだろ。オレも行く!」 「もー…っお前なんでそんな勝手ばっかり…」 いつもは何事にもクール…もとい、無関心な星場豪がその兄と繰り広げる甘えたな一面に、 教室中の注目が一気に集まる。 ただでさえ学校一有名だと言っても過言ではない星場兄弟のやり取り。 豪、烈それぞれのファンのみならず、見逃すはずは無い。 その周囲の視線にさらされて、いてもたってもいられなかった烈は 豪の手を振り解いて、ばたばたと教室を出てしまった。 その後を追おうとする豪を、朝の悪友が止める。 「おい星場!もしかして朝、お前の言ってたのって…」 「わりぃ!その話は後で。オレ今こっちが大事!!」 男とは思えないほどかわいらしい兄・星場烈の挙動と、 普段からは想像も出来ないほど兄に甘えた声と態度で話す弟・星場豪を見て、どこかしらピンときたようだ。 しかしそんな事に構っておれず、豪は弁当を抱えて教室を出る。 廊下の角を曲がる紅い髪が見えた。 『廊下を走っちゃいけません』とか『右側通行』とか今は考えていられなかった。 全力で走って烈を追いかける。 「待てよ、烈兄貴!」 後ろから声を掛ける豪をちらりと振り返って、烈は慌てて走り出した。 それを見て更にスピードを上げる豪。 小学生の頃は烈の方が高かった身長も、今では豪の方が10cm以上も高い。 ストライドの違いは明らかで、烈との距離をぐんぐんつめる。 昼休みという事も、何故か星場弟が兄を追い掛け回す、という鬼ごっこ的光景の珍しさも手伝って、 廊下に出ている生徒も教室にいる生徒も二人の追いかけっこを見物していた。 女遊びが激しいと噂される豪だがそれでも女性ファンは多く、 豪が全力で走るのを見て黄色い声援が上がる。 烈にも男女問わずファンがいるため、事情は分からないが烈が豪から逃げおおせられるよう さり気なくワザと豪の進路妨害を行ったり…と学校中を巻き込むような騒動となってしまった。 大変な騒ぎになってしまった、と烈は唇を噛んだ。 「豪…っ…なんで追いかけてくるんだよっ……」 走って逃げながら後ろを振り返って豪に問う。 「兄貴が…烈兄貴が逃げるからだろ!」 ぐいぐい距離が縮まるのを見て、烈は直線で走ることをやめた。 階段を使って小刻みに角を曲がってなんとか豪を撒こうと頑張る。 かれこれ5分も追いかけっこを続ければ息も上がるというもので。 インドアに過ごしてきた烈と女と部活に明け暮れていた豪とではポテンシャルが違った。 上がる息に胸が苦しくなってきた烈のスピードがガクンと落ちた。 「あーっ…も…ダメだ…」 階段を上りきって屋上に出るドアを開け、最後の力を振り絞って身を滑り込ませ、背でドアを閉じる。 閉まるか閉まらないかのわずかな隙間に豪が体当たりしてそれを阻止した。 「っうわ…っ!」 その体当たりの衝撃に前のめりに倒れそうになった烈の腕を背後から掴んで、豪は自分の胸に引き寄せた。 「…っ捕まえた…」 お互い走り回って息は途切れ途切れで、明らかに疲労困憊。 耳元で囁かれる少し低い声にやっぱり烈の肩は震えてしまう。 「…なんでっ…逃げんだよ烈兄貴。」 息切れで心臓がドキドキするのか、豪に囁かれることに対してドキドキしているのか分からず、 烈の体が強張る。 「お前が…っ追いかけるから……」 「"絶対離さない"って言ったはずだけど?」 耳に唇が触れるほど近くで囁かれて烈の背にゾクゾクと何かが走る。 「…とりあえず…放せ。もっ…大丈夫だから…」 豪の腕を解こうと手首を押し返すと、逆にその手を取られ振り向きざまに唇を奪われた。 「……っ!!」 びっくりして目を見開く烈。 大きな紅い瞳にはきっと自分が映っているんだろう、と豪はぼんやり考えた。 今は近すぎて確認はできないけど。 ただ触れるだけのキスだったが、走り回って息が上がった状態では長く続けることはできず、すぐに離れた。 「ばっ…誰か…見てたら…」 顔を真っ赤に、豪から顔を逸らして周囲をうかがう素振りを見せるが、 それが照れ隠しだと見てすぐにわかった。 「兄貴…逃げんなよ。怯えないでくれよ…。オレ、どうしたら良いかわかんないんだから…。」 ぎゅっと抱きしめられて、烈は強張っていた体から力を抜いた。 「お前…今までさんざん女の子と付き合ってきたじゃないか…。そういうことには慣れてるんじゃないのか?」 少しのため息と呆れの混じった声音が豪の胸に頬をつけた烈から漏れた。 「付き合ってはきたけど…オレから何かしたことなんて一度もないよ。 抱きしめたいと思って抱きしめたのも、キスしたいと思ってキスしたのも兄貴が初めて。」 「…豪?」 「言ったじゃん、オレすぐフラれるって。それってオレの方から彼女になんにもしてやらねーから。」 非道い奴だなお前…と呟く腕の中の烈が愛しくてたまらず、紅い髪の毛に自らの鼻先を埋める。 おずおずと豪の背に回される烈の腕に、烈を抱きしめる豪の力もつい強くなる。 「好きだよ、烈兄貴。好きすぎて手が出せねーくらい。」 「僕だって…好きだよ。」 「やっと…ぎゅって出来た。」 「……うん…」 「兄貴ちょっと震えてる?こうされるの、怖い?」 「いや…違うんだ…その…緊張してっていうか……ドキドキして…」 寒くなってきたせいか、屋上に兄弟以外の姿はない。 だから今この状態を誰かに見られることはないのだが、烈はどうにも居心地が悪いというか落ちつかない。 「オレ…さ、告白されたときからこうやって兄貴に触れたかったんだけど、 兄貴が怯えるから我慢したんだぜ?嫌われたくなくて…。烈兄貴はどう思ってた?」 少しだけ腕の力を緩めて、烈の表情を覗き込む。 うつむいていた烈も豪を見上げる。その頬は少し赤く染まっていた。 「ごめん…。僕も豪に触れたいって思ってたんだけど…なかなかうまく出来なくて。」 言葉尻はふと視線を逸らしながら、豪の制服を掴む手に力が篭る。 そんな烈の言葉と仕草に豪は慌てて烈を引き剥がした。 「…豪…?」 突然の行動に疑問符を浮かべながら豪を見つめる烈。 「やっぱり、怒ってるのか?」 僕がなかなかお前に触れないから、と悲しそうに呟く烈にぶんぶんと頭を振って答えた。 「違う!ごめん兄貴。オレこれ以上くっついてるとヤバイから…」 「?ヤバイ…?」 よく分からない、と如実にあらわしている烈の表情。 そんな純粋な兄をまだ汚すわけにはいかないだろう。 というか、多分付き合っているもの同士が最終的に行き着く行為を 想像もしてないのではなかろうか、と豪は思う。 ふぅっと軽くため息をついて、豪はなるべく自然な形で烈の手を取る。 「昼飯食おう。追いかけっこしてた分あんま時間ねーけど。」 なるべく風の当たらない場所に移動して、烈を座らせる。 弁当を持って教室を出たは良いけれど、全力疾走したせいで中身はぐちゃぐちゃになっているかも知れない。 「お前、これだけで足りる?僕教室に戻って弁当とって来ようか。」 「いい。ここに居て。一緒に居たいんだ。」 ただ握っていただけの手を指を絡めるように握りなおして、烈の手の甲に口付ける。 軽くちゅっとした音に、烈の頬が瞬時に染まった。 そんな初心な反応にニコリと微笑む豪。 こうしてようやく二人の仲は一歩前進。 そして、星場兄弟の鬼ごっこは暫く噂になったらしい。 |
ちょっとやってみたかった学校鬼ごっこ。 本当は、掴まったらその場でえっちとか、またしても『強☆』風味になってしまいそう(*´∀`*) だったので今回は白昼堂々、学校生徒公認の元、公開鬼ごっこ。 そのうち公開ちゅーとかしてしまいそうな自分がこわひ…ww |