今まで付き合った女の事なんてイチイチ覚えちゃないけど
フラれる前にちょこちょこ言われた言葉と気持ち、今ならすっっげー良く分かる。
もー何、コレ。こんな苦しいのオレ知らなかった。





はじめてものがたり スキだから、手が出せない。





烈兄貴を置いて教室に到着。
机に肩にかけてたナイキのショルダーを放り投げて椅子にどっかり座る。
「おーす星場。今日もオニイチャンと登校かよ、最近毎日だよな、ブラコン〜」
いつもの悪友の言葉にも返事する気も起きない。
座った椅子にもたれて、今にも鳴りそうな腹を抱えて目線だけくれてやる。
「うるせー…」
正直、マジ凹む。
女に不自由したことは無かった。フラれたとしても間隔をあけずに告ってくる女はたくさんいる。
(兄貴には言ってないけど、未だによく告白はされる。もちろん、断ってるけど。)
今まではっきり言って女の事なんて気にも留めたことなかったけど、
彼女だった子たちに本当に悪いことしたって思う。
今ならフラれる意味が良く分かる。

付き合ってるのに、せがまれるまで手を繋ごうとしなかったオレ。
強請られてするだけのキス。一度だって自発的にキスしてやったこと無かった。
SEXだってそう。興味が無かったわけじゃないから誘いに乗っただけ。
オレの方から持ちかけたことなかった。
彼女達の気持ちもきっと今のオレと一緒だろうと思う。

烈兄貴のあの態度は一体なんなんだって話。
彼女達とは事情が違うけど、兄貴の方からオレに告ってきたんじゃねーの?
それとも兄貴がオレに『好き』って言ってキスしてくれたのってオレの都合の良い妄想?
待てど暮らせどそれ以降のモーションもなく、生殺し状態。

烈兄貴に触れたいのに…ちょっと距離詰めただけであんだけ緊張しまくって、
小刻みに震えられちゃ手が出せないってもんで。
それなら兄貴のペースでと思って待ってりゃ何時までたってもオレを子供扱い。
オレだってもう我慢も限界。
本当に、烈兄貴ってオレのこと好きなのか?って疑っちまう。
それで今朝のアレだ。部屋の外から声を掛けるだけってどうなんだよ…。
オレなら部屋まで入っていって『おはよう』のキスするね!



「あー…もぅ苦しぃー」
突っ伏して悪友に手を差し出す。
「どうしたんだよ星場?なんだこの手?」
「何か喰いもんくれ。腹へって死にそー…」
「喰いっぱぐれたのか?」
なんだかんだといいながら、スティック上のシリアルを豪の手に乗せる。
受け取ったシリアルの封を切り、口に運ぶ。
口の中がしゃりしゃりするのを感じながら、豪は悪友に視線を向ける。
「お前さ、もし…だけど。すっげー落としたい子が目の前にいて、
その子の方から告ってきたらどうする?」
「愚問だなー。即効OK。その場でキスくらいはしちゃうだろーな。」
「だよなー…」
もぐもぐと咀嚼しながら豪はかじったシリアルをぐるぐる回して更に問う。
「じゃさ、その子と次のステップに進みたいとするだろ?
でもその子に触れようとするとその子が怯えるわけよ。どうする?」
「…星場…お前、怯えられてんの?」
お前が?と重ねて問われ、豪は残りのシリアルを頬張る。
「もーオレどうして良いかわかんねーの。
すっげー手ぇ繋ぎたいし、抱きしめたいし、キスしたいのに怯えられんのよ。
向こうから告白してきたのにさ。」
全てを胃に収めてしまうとシリアルが入っていた袋をくしゃくしゃと丸めて悪友の手に返す。
「…返すなら中身ごと返せ。」
「もーオレのこの恋煩いに免じて、細かいこと言うな。」
嫌な顔をして当然と言えば当然の要求をした悪友に切り返してまた机に突っ伏した。
「どうでも良いけど、お前にここまで思わせる女ってすげーな。」
「やっぱそう思う?オレ決めたんだよね。生涯最後の人にするって。」
だからなおさら手が出せねー、と凹む豪に悪友がため息をする。
「まだ16なんだ、その女を生涯最後って決めることはねーんじゃねーの?」
豪が何かを言おうと口を開いたとき、予鈴が鳴った。





兄貴への気持ちに気づいたのが、初めて彼女が出来たとき。

告白されて付き合って、暫くしたころ、学校帰りに彼女にせがまれてキスをした。
触れた唇はなんだかねとっとしていて気持ちが悪かった。
脂っこいものを食べた後みたいにぎっとりと光る唇に魅力を感じなかったけど、あんなんが良いのだろうか。
多分、グロスってものを塗っていたからだと思う。
キスのあと頬を染めてはにかむ彼女を見てもなんの感動もなかった。

家に帰って、居間のソファで寛ぐ烈兄貴から
『おかえり』
と声を掛けられた時、その時初めてキスしたいと思った。
自然な赤みを帯びた唇に触れたいと、純粋に。
烈兄貴の唇に視線が向いて、暫く逸らせなかった。
どうした?と聞いてくる兄貴の目があまりにも純粋でオレは目を逸らした。

それから、兄貴への邪な想いを否定するために、
来るもの拒まず、去るもの追わずを決め込んだ。

結局、どれだけ女とキスしても、SEXしても、
自発的に"したい"と思ったことは無かったし、相手が烈兄貴だったらって何度も思って
でも烈兄貴じゃないんだって思うと、女と付き合うこと自体億劫になるだけだった。

兄貴への想いは断ち切らなきゃいけないと思いつつもそれが出来ずに。
未練たらしく、オレらしくもなく勉強に打ち込んで同じ高校に進んでしまった。
高校に入っても相変わらず女は寄り付いては離れていった。
そりゃそうだ。付き合ったって恋人らしいことなんか自分からしてやらなかった。
その報いが今のこの生殺しの状態なんだろうか…。

手に入らないと思っていたものが手に入った。
しかも、向こうからオレの手の中に落ちてきた。
それなのに、扱い方が分からない。手の出し方が分からない。
今まで付き合ってきた女の数なんか覚えてないけど、
でも本当に好きな人一人うまく扱えない。…正直情けない。
今までだったらこんなに焦ったことないし、
告白してきても相手から何か言ってこない限り放っておけたのに、烈兄貴相手だと別。
もう触れたくて触れたくて仕方ない。

兄貴をどうしてくれようか、と考えて悶々としてなかなか寝れずに今日も寝坊。
手に入ったと思ったのに触れることが出来ないなんて。
これなら想いが通じてなかった時の方が、諦めついていた分マシだ。

女って強い。
きっとこんな気分が嫌でオレから離れていったんだろうケド。
オレ、諦め悪く兄貴を手放したくないと思ってる。
なんとかしてオレの側に置いておきたいと願ってる。

本当は分かってるんだ。
この年齢で男二人、手を繋いであるくなんて可笑しいし、
常識的に見ておかしい事を兄貴はしないってこと。
ただ、外で手を繋ぐのは無理だとしても、そろそろキスくらいさせてほしい。
好きならキスしたいと思うもんじゃねぇのかな…。
告白されたときはすごく嬉しくて無我夢中っつーか、
たぶん烈兄貴ものぼせてたんだろうな…あんな素直にキスしてくれたのに。
今のこの手の出しにくさったらない。





「なんとか…してーなぁ……」





授業も上の空で、気づけば昼飯の時間。
たぶん、弁当忘れた俺に、烈兄貴が呆れ顔で届けにくる。









豪視点。
豪、すごい酷い人です。なんだろねーこの男は。(自分で書いておいて…)
だから烈兄貴相手に四苦八苦させてみる。
烈はこの豪相手に頑張れるでしょうか。
亀の歩みよりノロい、のろのろ牛歩ラブコメ!(コメディなん?!)

最近寒くて頭の回転もキーボード叩くスピードも落ちています。。。orz
誰かたっけてー…