見ていたくなかったから。
これ以上、女の子と一緒にいるところ…。





はじめてものがたり 本当に、スキ?





僕から告白をして、豪との"お付き合い"が始まった。
でも、特に今までと変わったことはなくて。
二人で一緒に出かけても手を繋ぐでもなく、告白したあの日以来キスするでもなく…。
実際、あれは夢だったんじゃないか?と思えることもある。
ただ、夕食後必ず豪が僕の部屋で時間を潰すようになった事が嬉しい。
たったそれだけの事なのに。
遠のいていた豪が、僕のところに戻ってきた事実が僕の心を悦ばせる。


今も僕のベッドを我が物顔で陣取りマンガを読む豪の存在が嬉しい。


「なぁなぁ烈兄貴、こないだCMでやってた映画週末封切だって。観に行かねぇ?」
机に向かって課題を消化していた僕に、豪が声を掛けてきた。
「映画?週末か?」
「そうそう。なんか予定あった?」
特に、予定はない。受験もまだまだ差し迫ったものではないし、豪と出かけるくらいの時間は作れる。
「いや大丈夫。映画に行けるようにお前も課題とかちゃんとやっとけよ。」
「へーいへい、わかってますよー」
マンガのページを繰りながら豪が面倒臭そうに呟いている。
かわい気の無いヤツだ。
「分からないところがあるなら見てやるから、早めに言えよ。」
教科書から視線は上げずに、ノートに走らせるシャープペンも止めずに豪に言う。
すると、わずかにベッドが軋む音がして豪が起き上がる気配がした。
「なぁ烈兄貴……」
ふと、トーンの落ちた豪の声に不審さを感じて問題を解く手を止めて振り返る。
「どうした、豪…?」
振り返った先の豪の顔はなんだか神妙な、それでいて少し怒っているような、
いろんな感情を綯交ぜにした表情だった。
「……なんでもねー…。オレ、そろそろ寝ようかな。」
ベッドから立ち上がり、ドアまで歩く豪の背に声を掛けた。
「そっか?まぁあまり夜更かしするなよ。朝起きられないんだから。」
「…兄貴にとっちゃいつまで経っても子供扱いなのな、オレー…」
ガックリと肩を落とし部屋を出て行く豪。
「おやすみ烈兄貴。」
「おやすみ、豪。」
パタリと閉じられた扉を見つめ、僕は深く息を吐いた。

子供だなんて、思ってない。
豪が部屋に来るようになってすごく嬉しいが、それと同時に言いようのない緊張感に包まれているのも事実だ。
本当はもっと触れ合いたいし、話がしたい。
でも今まで"兄弟"として過ごしてきた時間がなかなか許してくれなかった。

告白したときも、豪からはアッサリ断られるか軽く流されるだけだと思っていたから
まさか付き合うとも思っていなかったし…。
付き合ったとしても、もう少し自然と距離が縮められると思っていたのに…。

「情けない…。豪相手にどう接して良いか分からないなんて…。」

手を繋いだりキスしたり、豪に触れたい願望はあってもなかなか実行に移せない。
どうしても"兄"として接してしまう。そうしたい訳ではないのに。
もっと豪との距離を近づけたいのに。

「だって…今まで兄弟だったんだから、仕方ないじゃないか…」

豪が好き。豪に触れたい。
だけど急に変わることが出来なくて、態度と行動は今のまま、気持ちだけが空回り。





中学に上がった頃から、豪は女の子と一緒に帰ったり遊びに行ったりするようになった。
相手の女の子は早ければ1週間で変わることもあったし、長くても3ヶ月程度だった。
思春期のモテル男にありがちな『ポイ捨て』という訳ではなさそうだったけど。
自分も女の子から告白されたことが無いわけではないが、気持ちを受けたことはなかった。
もうその頃には豪が気になって仕方がなかったから。
豪が頭を占めてしまっていたから。
当然の事ながら、豪はそんな僕の気持ちを知らず女の子はとっかえひっかえだったようだけれど。
どうしてすぐに相手の女の子が変わるのか、と問えば豪は笑ってこともなげに言った。
『いつもフラれる』と。

『勝手に告白してきて、断ってもどうしてもって言うから付き合うとさ、
暫くしてあなたは私を見てくれてないとか言われてさー、結局フラれるんだ。オレ。
ヒデーと思わねぇ?で、それの繰り返し。』
何人目かの彼女と別れたあと、豪はそんな事を言っていた。
性格はともかく、豪のあの外見なら一生女には不自由しないのだろうと思う。
まぁ、これ以上彼女が変わるのも見ていたくなくて豪に告白した訳だけど。
まさか豪も僕の事が好きだとは思ってなかったから、豪にフラれたとしても冗談として流すか
それまでどおり兄弟として過ごそうと思っていた。
どうせ大学は下宿をするつもりだったし。
受験勉強に打ち込めば、もし豪と気まずくなってしまっても、距離も取れると思って。
僕って本当にズルい性格だ…。
でもなんとかこの状況を打破しないと…告白自体無かったことになってしまうかもしれない。
僕は少し焦っていた。





翌朝。豪と一緒に登校する。
「なんで起こしてくれないかなー烈兄貴。。。」
「僕はちゃんと起こしたぞ。」
「ドア越しに、じゃんかー。あー…腹減った〜…」
寝坊した豪は、朝食を喰いっぱぐれている。
「お前ちゃんと返事したじゃないか。」
「したっけ?」
多分、豪は寝ぼけていたんだと思う。
僕が声を掛けて返事があって、それから20分後階段を転げるように下りてきた豪は完全に寝坊していた。

きちんと豪を起こしたいのは山々だけど、ドアを開けて寝起きの豪を見るなんて正直心臓に悪い。
豪本人は知らないだろうけど、寝乱れた豪は壮絶に色っぽい。
「今度からさ、ちゃんと部屋に入ってオレが起きるの確認してよ。」
さらりとなんて事を言うんだ…。
今の僕が部屋の中まで起こしに行ったらどうなるか分からない。というか直視できない。
豪が好きって僕は言ったはずで、寝乱れた豪を見て平常心でいられるわけないんだから。。。
「…甘えるな。」
照れ隠しにそっぽを向いて、呆れた風を装って返事をすると、あからさまに不機嫌な豪。
「兄貴…さ、本当にオレのこと好きなわけ…?」
「えっ?」
ぽつりと呟かれた言葉に思わず聞き返す。
「なんでもねーよ…。じゃ、オレ教室行くな!」
走って教室に行ってしまった豪の背中を僕は呆然と見送った。
ポケットには豪に渡しそびれたカロリーメイトが一箱。









烈、豪が好きすぎてどうして良いか分かりません。
豪は豪で兄貴にどう接してよいか分からない模様。
いつもの豪らしくありません。
でも今回は烈から告白したので烈主導で進む兄弟ラブラブ恋物語(?)